どのくらいの数の患者が存在し,将来どうなるか?これは最も基本的な医療ニーズの指標である。日本では過去数十年間の8020達成者「割合」の増加が強調されている。しかしその一方で19歯以下の高齢者の「人数」は人口高齢化に伴い増加を続け,近年では1000万人近くに上る事実はほぼ周知されていない。この数字は補綴治療の重要性の増加を示している。このように「割合」と「人数」が正反対のトレンドを示すことは珍しくなく,がんの死亡率においても年齢調整死亡率は近年低下しているが,高齢化に伴い人口10万人当たりの死亡数は増加を続けている。医科では双方の指標を把握したうえで,がん医療のニーズの増加を適切に周知している。歯科では歯の喪失はなくなるという表現が国の資料にもあるため,実数は増加しているにもかかわらず,減少のイメージが強い。こうした状況は国際的にも同様であったが,この10年で状況が変わった。2013年の世界疾病負担研究の論文をきっかけに歯科医療ニーズの捉え方が大きく変わり,歯の喪失やう蝕,歯周病はきわめて有病者数が多いことが知られるようになった。この結果Lancet誌での特集やWHOの口腔保健の決議が出されるなど,歯科疾患の重要性が広く認識されるようになった。日本でも歯科疾患の有病者数が多い状況は同様である。歯科医療ニーズの評価の方法を国際的な様式に沿い新たにし,歯科医療ニーズの大きさを正しく評価・周知していく必要がある。