昭和大学歯科病院第3補綴科に来院した40歳以上の初診患者293名を対象にして面接調査と口腔内診査をおこない, 歯科に対する不安と口腔内状態および社会的属性因子 (性, 年齢教育水準, 配偶者の有無) との関連を検討した。歯科に対する不安を調査するためにCorahの開発した歯科不安の尺度 (DAS) を用いた。まず対象者を無歯顎者と有歯顎者とに分け, さらに有歯顎者については欠損歯列を有する者と欠損歯列を有しない者とに分類して3つのグループの歯科に対する不安を比較検討した。
その結果, 1.年齢が上がるほどDASの得点は低くなった。2.女性は男性よりDASの得点が高かった。3.DASの得点に学歴間では有意差は認あられなかった。4.口腔内状態はDASの得点と強い関連が認められ, 無歯顎者の得点が最も低く, 有歯顎者で欠損歯列を有する者が最も得点が高かった。5.配偶者の有無別ではDASの得点に性が強い影響を与えていた。男性では配偶者のいない者は配偶者のいる者に比較してDASは高い値を示したのに対し, 女性では配偶者のいない者は配偶者のいる者よりDASの得点は低い値を示し, 性と配偶者の有無に交互作用が認められた。
以上の結果より, 口腔内状態や社会的属性因子は対象者の歯科に対する不安に影響を及ぼしており, 歯科領域での行動科学的分析の必要性が示唆された。