抄録
一般に歯科治療は, 患者にとって何らかのストレス要因になっていることは周知の事実である。また, 高齢者においてはこの様なストレスから予期せぬ事態に発展することもしばしばありうる。なかでも循環器系合併症が最も多く見られる様である。このことは, 基礎疾患の種類や治療内容にもよるが, 高齢者における心肺機能の予備能力の低下が影響しているように思える。したがって, 高齢者, とりわけ在宅高齢者の歯科治療に際しては, 補綴治療といえども本来の基礎疾患はもちろん, 患者自身が受けるストレスについて評価する必要がある。このような視点より, 我々は健康記録票により, 患者の日常時の循環動態パラメータ (収縮期・拡張期血圧, 心拍数) および生活状態を把握し, 歯科治療時のそれらと比較することによって, ストレスを評価し, 未然に重篤な合併症へ移行するのを防いできた。今回は歯科治療中におけるストレスの程度をさらにくわしく知るたあに, 対象者を一般疾患群と循環器系疾患群とに分け, 各群の日常時および歯科治療時における循環動態パラメータについて比較検討を行い, 以下の結果を得た。
1. 一般・循環器系両群の循環動態パラメータの平均値は, 日常時と治療時との間で変化はみられなかった。
2. 循環器系群における収縮期血圧の変動値は, 治療時にやや増大が認められた。
3. 循環器系群における心拍数の変動値は, 治療時で有意に増大が認められた。