抄録
高齢者の歯科疾患の中で高い罹患率を示す根面翻蝕に対し, 最近注目されているエアーアブレージョン法を適用し, その有用性について検討した。兵庫医科大学病院歯科口腔外科に来院した隣接面歯頸部に中等度の根面翻蝕を有する60歳以上の健康な高齢者15名 (18歯) を対象とした。エアーアブレージョンの装置として, 歯面の色素沈着などを研削除去するための歯面清掃器を独自に改良し, 安全性を十分に確かめた上で本研究に用いた。研削材として重炭酸ナトリウム粉を用い, これを水と一緒に加圧して歯離虫病巣部に噴射した。その結果, 直径が2~3mm程度の翻窩では約30秒間の噴射で, 罹患象牙質 (翻蝕感染象牙質層) のみを選択的に除去することが可能であった。また流線形をした噴射ノズルは, 隣接面歯頸部に直接アプローチしやすく, そのため健全歯質を損ねることがなかった。しかし閉鎖型の翻窩ではアンダーカット内に残留する軟化象牙質の研削除去が困難で, 他の方法によってわずかに齲窩を開拡する必要があった。研削時にはいずれの症例においても疹痛がみられず, 局所麻酔は必要としなかった。また噴射される粉や水が大気中に飛散し, 患者に与える影響が懸念されたが, ラバーダムの装着と術野近傍の適当な位置に口腔外バキュームを設置することで十分に対処できた。したがって高齢者の根面齲蝕に対する本法の有用性は高く, 殊に開放型の齲窩に適していると思われた。