抄録
病気そのものを治療の対象とする西洋医学に対し, 東洋医学では心身一如の病人という人間を対象としている。口腔という局所にかたよりがちな, ややもすれば機械論的な治療に陥り易い歯科医療において, 高令者の治療に当たっては, 実に重要な数々の示唆が, 東洋医学には溢れている。その上, 一般社会にも東洋医学に対する関心が高まっていることから, 初診患者を対象に, アンケート調査を行ってみたところ, 「東洋医学を応用した歯科治療を受けたい」と半数以上の人が解答しており, 歯科領域における必要性もうかがわれる。また高令者においては, 様々な疾患を抱えている場合が多く, 生体の機能の低下も考えられるので, 機能異常や疾患を推測できるBi-Digital O-Ring Test等の応用による診断に始まって, 指圧マッサージを頸肩部や手足に施し (Body Mind Touch), 心身のリラクセーションを促すとよい。このような “手当て” を通して形成された良好な治療者と病人関係という “場” を重視し, 治癒機転を促進していくべきである。顎機能不全症などの咬合採得難症例においても, 完骨下関穴低周波通電法 (TEAS) による効果を認めている。このように微細でマイルドな治療手段を用いた東洋医学的療法を, ハードな歯科治療に適用して行くことで, 高齢患者を快適状態に導き, ホメオスターシスを助長することは, ホリスティックデンティストリーを確立する上で非常に大切な手段といえよう。