抄録
高齢者の歯科診療では通院や診療時間が制限されることが多く, 歯科医療も受けられずに, 流動食や軟食を摂取している無歯顎者も多い。高齢者, 特に体力や予備力も低下した術後患者や要介護高齢者では, 食物の経口摂取による栄養状態の回復が強く望まれている。これらの患者への義歯の装着は食物の経口摂取の回復のみならず, 食物を咀嚼することの喜びの回復でもある。患者が義歯を所有していない場合には, 通常の方法で義歯を製作すれば完成までおよそ1ヵ月が必要である。完成後の調整に要する時間を合わせると患者が義歯を使用できるようになるまでにはかなりの時間が必要となる。我々は印象採得と咬合採得を同時に行える咬合床型トレーを考案し, 義歯製作を短期間で行い, 完成義歯を使用させながら義歯床や咬合の調整を行い, より良い義歯に仕上げていく方法を検討している。
初回来院時に咬合床型トレーを用い, 上下顎印象採得と咬合採得を行い, 上下顎模型製作, 咬合器付着, 前歯部の排列用コアー製作を行う。以上の処置を初回来院時に短時間で行うことにより, 蝋義歯の試適を行わない場合には2回目の来院時に義歯の装着, 調整を行うことができる。また蝋義歯の試適を行う場合には, 義歯が完成するまでに3回の通院が必要である。いずれにしても本方法は義歯を所有していない患者に短期間で咀噛機能を回復させるという意味から有効な方法であると考える。