抄録
本研究は,建築家アルド・ロッシの設計思想における画家ジョルジョ・デ・キリコの影響を追う.まず,ロッシの手記『青のノート』を通じ,1968-71年までのデ・キリコへの言及を抽出し,円錐台の〈塔〉に付随するモチーフを導出する.ここから,1972年1月25日の「ムッジオの市庁舎」(1971-72)のエスキース図を分析し,広場に計画されたデ・キリコの彫刻《考古学者たち》の引用の意図を論じる.「ムッジオの市庁舎」の円錐台は,同年の「ファニャーノ・オローナの小学校」のクーポラとの関連が見受けられる.つまり,ロッシがデ・キリコの絵画から学んだ円錐台の〈塔〉のイメージは,パースペクティブ上の遠景をなす“見られる塔”でありながら,“見る塔(望楼)”として,建築作品へと応用されたといえる.