2004 年 38 巻 Supplement2 号 p. 25-30
ジョバンニ・バチスタ・ピラネージは18世紀を代表する芸術家の一人である.建築家でもあるが, その名は版画製作者としてのほうが知られている.彼は多くの版画集を残しているが, 中でも『牢獄』が最も影響力がある.その要因の一つとして, その版画のいくつかが一貫した透視図法に従っていないことが挙げられる.したがって, 彼は, 2次元の錯視の効果を利用して, 3次元では不可能な迷宮ともいえる空間, すなわち, 「不可能空間」を描出したといわれている.本論では, その一例とされる『牢獄』のpl.14を取り上げて, その「不可能空間」の描出の方法について検討を行った.その結果, 以下の仮説を提示できた.すなわち, 「不可能空間」の描出は, あらかじめ意図されたものではなく, 準備スケッチのもつあいまいな表現を契機とする異物の挿入によるものである.