2003 年 14 巻 1 号 p. 1-12
障害児の母親が、専門職、家族や親戚、他の母親等との社会的相互作用を通して、母親意識を形成、変容させていくプロセスを明らかにすることを目的として、重症心身障害児の母親9名へ半構成的インタビューを実施し、得られたデータをグラウンデッド・セオリー・アプローチを参考に分析した。その結果、母親は、自己の内的作業と、さらには専門職や他の母親の役割期待の影響を受けて、子へのトータル・コミットメントの意識、すなわち、子と一体化し、子の障害軽減を自分の使命として、子の人生や障害を全面的に引き受けていこうとする意識を形成させていた。さらに母親は、トータル・コミットメントを母親の役割として遵守を要請する、社会からの圧力としての役割的拘束を認知していた。しかしある契機をもとに、役割的拘束が自己調整されると、トータル・コミットメントに変化が起き、母親は、子に障害があることへ満足感を得るようになっていた。