保健医療社会学論集
Online ISSN : 2189-8642
Print ISSN : 1343-0203
ISSN-L : 1343-0203
最新号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
特集 「性的指向・性自認(SOGI)」と医療・福祉
  • 新ヶ江 章友
    2026 年37 巻1 号 p. 1-3
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/08/26
    ジャーナル フリー
  • 山下 洋充
    2026 年37 巻1 号 p. 4-13
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/08/26
    ジャーナル フリー

    プライマリ・ケアは医療の入口として、あらゆる愁訴や健康問題を包括的に受け止める役割を担う。しかし日本では、同性婚の法的不承認、トランスジェンダーが直面する制度的障壁、医療現場に浸透した異性愛規範、そして医学教育におけるSOGI教育の不足が重なり、LGBTQ+の人々にとってプライマリ・ケアは十分に機能していない。マイノリティ・ストレス理論と健康の社会的決定要因の観点から示されるように、この健康格差は個人の属性ではなく社会的条件によって生み出される。本稿はLGBTQ+への適切な応答が付加的な配慮ではなく、プライマリ・ケアの本来的な機能から導かれる必然であると論じ、医療者個人、教育、組織・制度にわたる実践的な展望を示す。

  • 小西 優実
    2026 年37 巻1 号 p. 14-25
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/08/26
    ジャーナル フリー

    本研究は、日本におけるトランスヘルスケアの診断モデルの機能と両義性を検討する。トランスヘルスケア受診者18名へのインタビュー分析を通じ、診断が単なる医療上の要件としてだけでなく、ケアへのアクセスや自己理解を形づくる社会的に埋め込まれた実践としてどのように作動しているのかを探究する。診断は治療取得のための便宜的手段である一方、探索や承認の場としても経験される。本研究は、戦略的な舵取りとしての既存の説明を超え、説明権威の構造的不均衡に根ざした両義性を明らかにする。診断は、アイデンティティやニーズへの省察と確認を提供しうる一方、自らの経験を定義する権限を侵食し、認識的不正義を生み出す危険も伴う。その結果生じる「承認–依存」の両義性は、疾患–ケアのジレンマと並行して認識論的矛盾を生み出す。本研究は、受診者による解釈的作業を前景化し、診断を規制とケアの双方の実践として批判的に分析することで、トランスヘルス研究に貢献する。

  • 首藤 真由美
    2026 年37 巻1 号 p. 26-36
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/08/26
    ジャーナル フリー

    本研究は男性と性行為をする男性(MSM) 3名へのインタビューを通して、HIV感染をめぐる「不確実性」の経験と、そのなかでHIV曝露前予防(PrEP)をいかに選択してきたのかを明らかにする質的研究である。医療人類学の視点から、リスクを統計的確率ではなく関係性のなかで経験されるものとして捉え分析した。感染リスクは、セックスパートナーへの信頼と疑念のあいだで揺れる感情や、将来自分が感染するかもしれないという持続的な不安、関係の変化への見通しの不確かさと結びついて語られた。また、HIVに感染した他者の死の意味づけを通して、自らの生もまた不確実で脆弱であることが自覚され、その不確実性に対処する一つの実践としてPrEPが位置づけられた。PrEPの使用は、予防薬を服用することで、感染リスクの管理をパートナーに委ねるのではなく、自ら引き受けることで関係の維持を図る営みであった。

  • 新ヶ江 章友
    2026 年37 巻1 号 p. 37-47
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/08/26
    ジャーナル フリー

    本稿は、拙著『日本の「ゲイ」とエイズ』を手がかりに、HIV/AIDS研究における知識生産、他者表象、調査倫理の問題を再検討する。拙著は、疫学研究班の報告書、行政文書、疫学論文、コミュニティ刊行物などの公的文書を用いて、日本において「ゲイ」、「MSM」、「ゲイ・コミュニティ」というカテゴリーがどのように構成され、HIV予防啓発の対象とされてきたのかを分析した。本稿では、分析的オートエスノグラフィーの方法により、筆者自身の研究史、疫学研究班との関係、当時の雇用上・倫理上の制約を振り返り、なぜインタビューではなく文書分析を中心に据えた分析を行なったのかを明らかにする。文書分析は、疫学研究、行政施策、当事者運動が交錯する場における知識と権力の作用を可視化する一方、関係者の意図、葛藤、戦略を十分に描けない限界ももつ。本稿は、誰がどの位置から「ゲイ」を語りうるのかを問い直し、クィア研究における表象と倫理の課題を提示する。

  • 佐伯 英子
    2026 年37 巻1 号 p. 48-57
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/08/26
    ジャーナル フリー

    精子提供による家族形成を経験したトランスジェンダー男性およびそのシスジェンダー女性パートナーへのインタビューを通じて、子どもをもつまでのプロセスと子どもへ出生の経緯を伝える実践について検討した。制度的・社会的障壁が存在するなかで、先行する当事者の実践との出会いが親になることを想像可能なものとし、パートナーや家族との対話を経て経路が切り開かれていた。子どもへ出生の経緯を伝える実践においては、精子提供に関して伝えることが、父親がトランスジェンダーであることの開示と切り離しにくい形で現れるという複雑性を帯びていた。当事者たちは子どもの出自を知る権利と親子関係の育みを軸に、男性自身が安心して伝えられる状況を大切にしながら多様で主体的な実践を積み重ねていた。

  • 水野 英莉, 熊本 理抄
    2026 年37 巻1 号 p. 58-68
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/08/26
    ジャーナル フリー

    本研究は子育てをしている、あるいはこれから子どもを持とうとしている性的マイノリティが、医療機関においてどのような経験をしているのかを検討した。とくに、生殖医療における制度的要件と、医療現場の日常的運用の双方に着目し、当事者の経験が異性愛・法律婚を前提とする制度設計とどのように結びついているのかを明らかにした。その結果、婚姻要件を明示した会告・ガイドライン・保険適用要件という制度的・法的な排除と、それを下地として医療現場の日常的慣行、たとえば問診票、呼称、同席、確認等において繰り返し再生産される、異性愛・法律婚を前提とする「夫婦モデル」の圧力があることがわかった。当事者はこうした構造の中で、異性愛者やシスジェンダーが経験しえない説明負担、偽装、沈黙、拒否を経験していた。法制度の整備と医療現場の変革は並行して追求されなければならないことが示された。

原著
  • 中村 友香
    2026 年37 巻1 号 p. 69-79
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/08/26
    ジャーナル フリー

    本稿では、ネパールの鎌状赤血球症患者を支える団体Tの事例をもとに、病いや属性に関する差異が存在する中で、人びとはいかにして共同しうるのかという問いを検討する。鎌状赤血球症は、身体的苦痛に加えて不平等や差別などの社会的苦悩も伴うことが強調されてきた。ネパールにおいても、タルー族の人びとがその複層的な苦しみに直面している。こうした中で団体Tは、「仲間を広く考える」という方針のもと、病名や属性といった明確な共通点を手掛かりにしながらも、それに限定されない感覚的な相性を重視して関係性を築く実践を展開している。さらに、相性が「合わない」と感じられる場合には、新たな「合う」関係性へとつなぎ直す工夫がなされており、緩やかだが持続的なつながりを実現する仕組みが形づくられている。

  • 川口 弥恵子, 伊藤 泰信
    2026 年37 巻1 号 p. 80-90
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/08/26
    ジャーナル フリー

    本論文は、医療を取り巻く環境が激しく変化している現代において、「看護の仕事の本質」イコール「直接ケア」という言説が支配的で、周辺業務を見えない仕事にしてしまう現状を批判的に検討することを目的としている。具体的にはクリニックと中規模病院でのエスノグラフィ調査により、Davina Allenの「医療の軌道管理」という概念を援用して看護師の仕事を捉えなおし、看護基礎教育に新たな視座の提示を試みる。調査の結果、看護師の仕事は、1)患者に安全で確実な医療を提供するための医療の軌道の認識とモニタリング、2)医療の軌道の連続性のための他職種との繋がりの保持、3)予測不可能な医療に対応するための軌道管理にかかわる諸要素の整合、の3つに集約され、それぞれAllenの概念に相当した。直接ケアか周辺業務かという対抗言説ではなく、医療の軌道を管理するという新たな概念を看護基礎教育へ援用する必要性について示唆した。

  • 髙橋 花子
    2026 年37 巻1 号 p. 90-100
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/08/26
    ジャーナル フリー

    本稿は、従来の個体の能力向上を重視する「個体能力発達論」から、他者との関係性を通して発達を捉える「関係発達論」への転換という教育における1990年代以降での動向を踏まえ、慢性疾患児のセルフケア獲得支援における看護師の発達観を解明することを目的とする。先行研究からは、そうした支援が主として「個体能力発達論」に基づいていたことが指摘されている。方法として、雑誌『小児看護』掲載の慢性疾患児のセルフケア獲得支援に関する記事を対象に言説分析を行い、「親への依存」「主体性」「集団への適応」の三つの観点から看護師の発達観を検討した。その結果、教育支援には「個体能力発達論」と「関係発達論」双方に基づく発達観が併存していることが明らかとなった。さらに、いずれの発達論も単独では危惧される課題があることを指摘し、相反する二つの発達論を往還させながら慢性疾患児の成長を支える教育支援の必要性を示唆した。

研究ノート
  • 竹重 幸
    2026 年37 巻1 号 p. 101-111
    発行日: 2026/07/31
    公開日: 2026/08/26
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、患者の受療行動に影響する患者満足度の指標を検討するとともに、医師が患者への対応において抱える困難を明らかにすることである。医師および患者による、満足できる診察と満足できない診察についての自由記述回答を、テキストマイニングにより分析した。さらに、医師に対して診察・治療中の患者対応で困っていることを尋ね、その回答を内容別に分類した。その結果、患者と医師の双方において、「説明」が患者満足度に関わる重要な指標であることが示された。患者は十分な説明や訴えを聞いてもらうことを求める一方、医師は患者の理解不足や要求への対応に困難を感じていた。医師は専門家、患者は消費者という立場の違いからコミュニケーションギャップが生じ、患者満足度および受療行動に影響を及ぼす可能性が示唆された。

書評
feedback
Top