保健医療社会学論集
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特集 第48回大会(2022年度) 松山大学樋又キャンパスとオンライン ハイブリッド開催
教育講演
大会記念講演
大会記念シンポジウム「ウィズコロナをどう生きるか——感染症のスティグマを乗り越える」
  • 山田 富秋
    2023 年 33 巻 2 号 p. 13-16
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2024/04/05
    ジャーナル フリー
  • 廣川 和花
    2023 年 33 巻 2 号 p. 17-25
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2024/04/05
    ジャーナル フリー

    20世紀初頭までに日本の感染症政策領域において「隔離」と「療養」の語法が成立した。1907年の制定以来、ハンセン病対策法に「隔離」の語はなく、1996年の法廃止までの間の政策の内実の振れ幅は大きかったが、今日ではハンセン病は「隔離」政策と一体のものとして社会的に認識されている。こうした認識形成の淵源は、戦後のハンセン病患者運動(全患協運動)に見出せる。全患協は強い批判を込めて国のハンセン病対策を「隔離」政策と位置づけ、「隔離」による損失の「補償」としての「療養権」の拡張を求めた。これに対し、ハンセン病国家賠償請求訴訟原告団が提示した歴史像は、国による誤った政策が差別を強化したことを強調し、「隔離」による「被害」を前面に押し出した。原告団の説明モデルは今日広く人口に膾炙しているが、「隔離される客体」を「療養する主体」へと読み替えた全患協運動の歴史にこそ、感染症のスティグマを乗り越えるための教訓を見出せよう。

  • 種田 博之
    2023 年 33 巻 2 号 p. 26-34
    発行日: 2023/01/23
    公開日: 2024/04/05
    ジャーナル フリー

    HIV感染症は効果的な治療方法が現れるまで、その致命性は高かった。そのため、HIV感染者ならびAIDS発症者は差別を被った。このことは薬害エイズに巻き込まれた血友病患者も同様であった。薬害エイズとは、1980年代前半、汚染された血液凝固因子製剤が治療に使用されたことによって起こったHIV感染問題である。血友病HIV感染者にHIV感染症は身体的/精神的/社会的な生きづらさをもたらした。こんにちにおいても、ある血友病HIV感染者はとくに精神的/社会的な生きづらさを感じている。他方で、その生きづらさに対処できている血友病HIV感染者もいる。本稿の目的は、その差異をHIVという「病い」の「説明モデル」から考察することにある。すなわち、前者は1990年代の説明モデルを維持し不信でもって社会・他者・自分自身を依然として見てしまっているのに対し、後者は説明モデルのアップデートをおこなって生きづらさを処理していることを明らかにする。

  • 早坂 典生
    2023 年 33 巻 2 号 p. 35-38
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2024/04/05
    ジャーナル フリー
  • 山田 陽子
    2023 年 33 巻 2 号 p. 39-48
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2024/04/05
    ジャーナル フリー

    本稿では、第一に、自殺予防NPOのボランティア相談員への聞き取りから、「死にたさ」が放たれる空間とはどのようなものか、また、誰かの「死にたさ」とともにあることが他者の理解不能性にもとづく共感から生じていることについて記述している。

    第二に、E. デュルケームの自殺論における人格崇拝に関する記述を踏まえ、自殺の忌避が、「人格と個人の尊重」を至上の価値とする近代社会の基本的枠組みから生じるものであることを示す。道徳規範はそれを遵守しない人を排除する性質を持つため、個人の人格や人命の尊重という規範を尊重しないかのように見える自殺(者)も、社会から排除される。そのことは「死にたさ」をめぐる「感情規則」(A. R. ホックシールド)や「儀礼的無関心」(E. ゴフマン)にも表れている。

    第三に、近年の脱医療化されつつある自殺対策において、自殺数と自殺率の削減に関する数値目標や費用対効果が問われるようになる中、「ただ、聴く」ことの資金難が加速している点について述べる。上記3つの論点をふまえ、人命や人権や個人を最大限に尊重しつつ、「死にたさ」を抱えて生きることを否定しない社会はいかにして可能であるのか、社会制度と社会規範双方から考察する。

原著
  • 八島 絵美
    2023 年 33 巻 2 号 p. 49-59
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2024/04/05
    ジャーナル フリー

    食生活改善普及活動は、戦前から栄養学を学習媒体とし、その管理においては家庭の主婦を中心に実践されてきた。しかし、元来食生活管理とはどのような理解にたっていたのであろうか。またなぜ主婦や女性がそれを担う必要があったのだろうか。本稿は、このジェンダーバイアスが、家族成員一人一人の性差ない主体的な食生活管理意識と食行動変容を阻む要因の一つであると仮定し、食生活改善はどのような理解・把握の中で学習・実践されてきたのか、またその過程の中でジェンダーバイアスはどのように構築されてきたのかについての解明を試みた。その結果、食生活改善学習の中心とされてきた栄養学は、科学的な知の正統性を携えつつも、日本では戦前から女性の能力や自主性を生かした食生活管理の領域として位置づけられてきたこと、またそれを可能にしてきたのが、生活改善普及活動と女性中心の専門職等による学習実践及び日本型福祉社会であることが示唆された。

  • 木矢 幸孝
    2023 年 33 巻 2 号 p. 60-69
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2024/04/05
    ジャーナル フリー

    1990年以降、遺伝性疾患の原因遺伝子が特定され、人々は自己の疾患が遺伝性疾患であることを知る。遺伝情報は生涯変化せず、親子(血縁者)間で一部を共有するため、遺伝性の病いに罹患した患者は遺伝学的リスクの告知の問題に直面する。先行研究は主として告知をした理由/していない理由という二分法を用いて分析していたが、これでは告知した者/していない者を含めた「告知しうる側」に共通する配慮のあり方が十分に理解しづらい。そこで本論文では親から子への告知と非告知の共通項に着目して、告知しうる側の配慮のあり方を探った。その結果、告知/非告知にかかわらず、両者は子の利益の考慮という点で配慮のあり方は同一であることを提示した。同時に、両者は配慮のあり方は同一でありながらも、その中で差異があることも示した。最後に、両者は配慮の不確実性の中で子の他者性が意識されることを指摘した。

  • 西村 ユミ, 前田 泰樹
    2023 年 33 巻 2 号 p. 70-80
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2024/04/05
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、急性期病院の救命救急センターにおいて、再入院をした高齢患者への看護実践がいかに成り立っているのかを記述することである。データは救命救急センターでのフィールドワークにて収集し、現象学を手がかりに分析、記述した。結果では、人工呼吸器を着けた再入院患者が看護師に、「仕事に慣れました?」と問うやり取りに着目した。このやり取りは、患者の前回入院時の状態を覚えていた看護師が「救急外来に患者の状態を見に行く」ことで、患者もその看護師を「覚えててくれた」ことが確認できたことを介して成り立っていた。「みんなで患者を囲みともに話をする」実践は、看護師が人工呼吸器のアラーム音に応じたことから連なる複数の出来事の中で、看護師同士の申し送りへと患者を導き入れることによって成り立っていた。患者が参加するこうした実践を経験し、過去の患者を覚えている看護師は、再入院患者が救急外来から病棟へ移動して入院治療するという実践を達成する上でのリソースになっていた。

  • 池田 岳大
    2023 年 33 巻 2 号 p. 81-91
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2024/04/05
    ジャーナル フリー

    本稿では、医療・福祉関連専門職の職業威信スコアの変遷、評定対象者と評定対象職従事者の性別を考慮した職業威信スコアの違い、さらには評定基準と職業威信スコアの関連を分析することで、医療・福祉関連専門職の象徴的評価がジェンダー化されている可能性について検討する。1975年と1995年の社会階層と社会移動全国調査、2016年職業に関する意識調査の分析の結果、①職業名が脱ジェンダー化してもその職業の職業威信スコアは必ずしも上昇せず、②医師などの職業威信スコアに性差がみられない職種と、看護師のように職業威信スコアに性差がみられる職種があること、③評定対象者の性別や評定基準が職業威信スコアの規定要因となるのに加え、その効果は評定対象職従事者の性別によって違いがみられることが分かった。これらの結果から、女性占有専門職(とりわけ看護師)における内集団びいきやdevaluationによって、性別職域分離構造が維持、再生産されることが予想される。

研究ノート
  • 平原 優美, 河原 加代子
    2023 年 33 巻 2 号 p. 92-101
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2024/04/05
    ジャーナル フリー

    本稿は、進化医学を参考にしたセルフケアへの貢献できる教育指導とリラクセーションケアを考案することを目的とした。研究デザインは、非ランダム化比較試験法とした。無介入を含む4群に対象を割り付け、クライアント保健行動モデル(Interaction Model of Client Health Behavior: IMCHB)をもとに自律神経活動指標、日本語版POMS2短縮版、一般性セルフ・エフィカシー尺度で評価した。分析対象者86名の平均年齢は、55.5 (SD±17.1)、男性14名、女性72名であった。ケアを実施した訪問看護師は男性1名、女性28名で平均年齢は、40.9 (SD±8.0)であった。4群間に「活気-活力(VA)」で有意な差が認められた(p<0.05)。副交感神経活動を示すHF変化率は、指導とケア群が介入中に有意に上昇し(p<0.05)、介入後も継続した。進化医学を参考にした看護実践は、住民の生活改善の意欲を引き出し、セルフケアに有用である。

  • 杉本 隆
    2023 年 33 巻 2 号 p. 102-111
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2024/04/05
    ジャーナル フリー

    セルフヘルプ・グループ(以下、SHG)である喉頭がんの患者会では、手段的サポートとして、失声した患者に代用音声を訓練している。そこでは、指導する指導員、指導を受ける受講者という、一方向の援助の流れでサポートが始まる。その流れは、リハビリテーション医療における医療者と患者との関係と大差がない。では、医療の場ではなく、SHGにおいて代用音声訓練を行う意義は何なのであろうか。代用音声訓練の場において、指導員と受講者との関係について観察を行った。その結果、代用音声による会話が可能になるとともに、会話する喜びをわかちあい共有する、対称的な関係が実現することが明らかとなった。この対称的な関係のもとに、SHGが新たな人づきあいの場を形成している。このような人間関係の形成が可能になる点がSHGにおいて代用音声訓練を行う意義を示している。

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