保健医療社会学論集
Online ISSN : 2189-8642
Print ISSN : 1343-0203
ISSN-L : 1343-0203
最新号
選択された号の論文の20件中1~20を表示しています
特集 第50回大会(2024年度)東京医療保健大学船橋キャンパス
大会長講演
  • 吉田 澄恵
    2025 年 35 巻 2 号 p. 1-6
    発行日: 2025/01/31
    公開日: 2025/03/12
    ジャーナル フリー

    第50回大会のメインテーマ「『弱い』ままで生きられる社会のために」は、看護学を選んで専攻し、看護職として歩んできた著者のライフキャリアから生まれたライフテーマでもある。看護学は、健康課題という点での人の弱さに焦点をあてることができる。しかし、健康課題の解決には、看護学によるアプローチのみでは対応できないことがある。また、看護学のみでは、さまざまな要因で社会において弱くされている人への支援を考えることはできない。ただし、看護職は、社会的に弱い立場におかれた人と健康課題を有する人として出会う。したがって、保健医療社会学の視座を有する研究者は、そういう状況の人について、研究活動という形で、継続的に焦点をあて、知を開発し情報を共有し発信する必要がある。

教育講演
大会記念シンポジウム「ケアの主体を問い直す」
  • 安齋 由貴子
    2025 年 35 巻 2 号 p. 14-19
    発行日: 2025/01/31
    公開日: 2025/03/12
    ジャーナル フリー

    保健師は看護職として、複合な健康ニーズを持ちながら地域で生活する住民への支援を行っている。これらの住民が持つ問題の背景を分析し、対象者にあった目標設定を行い、問題解決的アプローチにより支援を行っている。しかし、問題が解決することは困難な場合が多く、長期に渡り伴走型支援によって対象者とつながり続ける。同時に、支援が受け入れられない、状況が変わらないなどの苦悩が伴う。この苦痛を抱きながら看護職として支援を続ける力は、このような住民を支援する際に必要な能力である。つまり、看護として何を目指し、どのようなケアが必要であるかを理解しているからこそ、複合的な健康ニーズを持つ住民への長期にわたる支援には苦痛が伴い、苦痛をいだきながらも支援し続ける能力が求められる。この能力はネガティブ・ケイパビリティとして知られている。本稿では、事例を紹介しながら、地域看護職である保健師の支援の特徴について考察した。

  • 矢原 隆行
    2025 年 35 巻 2 号 p. 20-26
    発行日: 2025/01/31
    公開日: 2025/03/12
    ジャーナル フリー

    ケアの主体を問い直そうとするその刹那、私たちが取り逃がしてしまうケアのあり様、そこに囚われてしまうケア関係とはいかなるものか。ケアの主体を、ケアする者でもケアされる者でもなく、〈ケアする者/ケアされる者〉の二者関係でもなく、多機関からなる包括的ケアシステムでもなく、生きることを支える複雑な網の目の自己創出に見出すことはいかにして可能か。以上の問いに応答するため、本稿では、筆者の臨床社会学的探究の過程で得られた「ドゥーリア」「境界システム」「メッシュワーク」という概念をその手がかりとして提示しながら、ノルウェーにおける画期的精神医療「メディケーションフリー・トリートメント」の事例を考察、さらに、本邦の文脈におけるその展開可能性についても検討する。それらを通して企図されるのは、ケアの主体をめぐるコードをほぐし、編みなおすために我々が共有しうるこれまでとは別様の視座を探究することにほかならない。

  • 天田 城介
    2025 年 35 巻 2 号 p. 27-38
    発行日: 2025/01/31
    公開日: 2025/03/12
    ジャーナル フリー

    本論文では、上野千鶴子によって提示された「当事者」概念を批判的に読み解いたうえで、自らのポジショナリティを問い直す「問題経験の主体」としての当事者という位相を指摘したのち、そうした「ニーズの帰属先であると同時に、それに対する主体化の契機を含む当事者(当事者α)」でも「問題経験の主体としての当事者(当事者β)」でもない、「予めの排除」の効果として産出された「マジョリティ主体」を生きる当事者(当事者γ)を剔出する。「どこにでもいる高齢者」こそが別様でもあり得る可能性を予め排除してしまっていること、換言すれば「当事者αになること」や「当事者βになること」を困難とし、私たちが別様な世界を生きる可能性を失わせていることを論じる。

大会連動企画
原著
  • 河村 裕樹
    2025 年 35 巻 2 号 p. 54-64
    発行日: 2025/01/31
    公開日: 2025/03/12
    ジャーナル フリー

    本稿は、複数の精神医学的見立てが矛盾なく議論において成立することを可能にする、精神科医の実践的推論の特徴を明らかにすることを目的とする。社会学的研究が診断を確定的なものと見なしてきたのに対し、精神医学において診断は、時間的・空間的広がりを持った活動として捉えられてきた。この相違を踏まえ、診断という活動の中核をなす見立てが議論されているケースカンファレンス場面を分析した。その結果、患者の症状や治療アプローチに対する異なる見立てが示される場合に、時間的・空間的広がりをもった見方を導入する実践的推論によって、複数の見立てが矛盾なく並立することを明らかにした。そして、精神科医にとっては当たり前である諸活動を社会学的に明らかにすることによって、診断に関する議論を前進させうると結論づけた。

  • 渡辺 翔平
    2025 年 35 巻 2 号 p. 65-75
    発行日: 2025/01/31
    公開日: 2025/03/12
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は、日本の脳多様性言説を分析し西洋の自閉症者による運動と思想の受容状況を実証的に検証することである。2022年末までの日本語文献は、主に自閉症者・社会学的研究・ジャーナリズム・教育を背景とする英語文献のもと脳多様性を輸入し、自閉症と定型発達には生来の脳の差異が実在するという認識を前提とする傾向にある。また日本語言説では、自閉症者の自律的思想が学術・企業・国家を背景とする論者や組織のもとへ当初から転位しており、自閉的特性を障害とする現状の定義への批判的姿勢が薄まりがちである。脳の差異と思想の転位を背景に、現状を改良しつつも維持するかたちで思想を保守的に活用しがちな日本の脳多様性言説は、自閉症の本質や診断の不確実性に留意し、重度自閉症を議論の俎上にのせたうえで、自閉症の社会的位置づけや障害と健常の関係性への批判的精神を継承すべきである。

  • 牛山 美穂, 松繁 卓哉
    2025 年 35 巻 2 号 p. 76-85
    発行日: 2025/01/31
    公開日: 2025/03/12
    ジャーナル フリー

    近年、医療における患者の理解や同意を得ることについては重要だとする認識が広がってきているが、その背後にある患者の納得については、研究対象として取り上げられる機会は限られている。本調査では、標準治療を選択せず、脱ステロイド療法を試した経験があるアトピー性皮膚炎の人を対象に、どのようなときに納得したのか調査を行い、彼/彼女らにとって「納得のいく医療」とは何かを探った。調査の結果、「同じ価値観を共有する」「深く継続的な信頼関係がある」「症状が安定する」「不確実性を共有する」という4点が納得の要因として抽出された。さらに、本論の新たな知見として、不確実性の高い状況においては、医師が「不確実性に対して開かれている」ことが納得につながること、さらに、納得が動的なプロセスのなかで作り上げられるものであるという「プロセスとしての納得」という特徴が見いだせた。

  • 千歩 弥生
    2025 年 35 巻 2 号 p. 86-95
    発行日: 2025/01/31
    公開日: 2025/03/12
    ジャーナル フリー

    本論文の目的は、ハンセン病療養所退所者が社会の中でどのように生きてきたのかを、彼らが置かれた文脈と、それに応じた自己呈示のありように着目して明らかにすることである。先行研究においては、彼らがスティグマ化された自身の病歴をどのように隠してきたのかが着目されてきた。しかし、本論文では4名の退所者の語りをそこで彼らがどのような自己として生きてきたのかから解釈することで、隠す/隠さないの二元論では説明できない実践があることを示す。彼らはそこでの文脈に適した実践を選択しており、そうした実践は必ずしも隠そうとする意識とは結び付いていない。これにより、彼らが文脈に応じて自己呈示することが、そこで呈示されない自己を否定し、隠す行為ではないということを明らかにする。

研究ノート
  • 本間 三恵子
    2025 年 35 巻 2 号 p. 96-105
    発行日: 2025/01/31
    公開日: 2025/03/12
    ジャーナル フリー

    先進各国では「孤独/Loneliness」は健康リスク・政策課題との認識が急速に進んでいる。一方で「孤独の医療化」だとして批判的論調もみられる。だが現段階では少数の研究者が「健康リスク」との過剰な指摘に対し、「医療化」の語を用いて違和感を表明し始めたところである。そこで本稿では、PubMed検索により「孤独/Loneliness」を主題とする文献数と経時的推移、健康リスクと関連付けた文献の抽出・テーマ分類を行うことで、「孤独/Loneliness」が医療化されているのか、そしてそれら文献で何が問題とされているのか、実証的な観点から議論を試みた。結果、「孤独/Loneliness」関連文献は2017年頃急増したこと、健康リスクと関連づけた文献は、2015–17年頃顕著に増加したこと、それら論文は「社会・関係性」「メンタルヘルス」「高齢者」といったテーマに大別され、中でも“social”という語が頻出であることが明らかとなった。社会学的な医療化論とは異なるが、健康リスクとしての社会関係への注目と共に、「社会的なもの」の綻びへの危機感も推察された。

  • 前田 絢子
    2025 年 35 巻 2 号 p. 106-115
    発行日: 2025/01/31
    公開日: 2025/03/12
    ジャーナル フリー

    いかにして医療従事者は「性を語る」ことができるのかを質的調査に基づいて検討した結果、患者の尊厳に配慮した医療従事者としての対応、医療従事者である自分にとっての性の語りにくさとその克服、性を語ることができると自負する専門家集団としての規範、という3つのカテゴリーが抽出された。

    医療従事者が性を語ることを定義する場合は、必要な治療や看護に関する内容を前提とし、それらに関する性的な内容を語ることは当然だと認識されている。またその際に、患者に配慮することも当然だと認識されている。しかしその2つの当然に対して筆者が疑問を呈した場合、医療従事者は、性を語ることに対して、個人としての語りにくさを表現した。そのような個人としての語りにくさと医療従事者としての語る必要性との間の葛藤は、知識と経験の蓄積によって乗り越えられている。しかし自ら乗り越えることができない場合は、抑圧を生む可能性があることが示唆された。

書評
feedback
Top