2018 年 28 巻 2 号 p. 44-53
HPVワクチン接種被害事件では、それまで健康そのものだった女性に必要性が疑わしく、副反応の危険性の高いワクチンが打たれた結果、重篤な被害に見舞われた女性たちの苦しみが続いている。国が公認して接種を進めていったことの責任が問われなければならない。このワクチンは、国会の議を経て2013年4月に定期接種化されたが、2カ月後に中断された。しかし日本産婦人科学会をはじめ医学系の多くの学会が定期接種再開を求めている。膠着状態の続く中、2016年7月には被害者たちによる、国と製薬会社を相手どっての集団訴訟も開始された。本稿はそのような経緯を踏まえつつ、このワクチンの接種が強行されてしまったことの背景にあるものを探ってみる。「病」が医療側の都合でつくられている現実がある。先制医療に対して無防備になってしまう我々の中にある、「正常」への過剰な志向性、すなわち「正常病」の兆候、そして予防幻想が視野に入ってくる。この問題は何も医療だけに限らない広がりを有している。