2021 年 31 巻 2 号 p. 36-46
「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」は、患者の自己決定権が尊重されるために必要なプロセスを示すものとして概ね肯定的に捉えられてきた。しかし、2018年の改訂でAdvance Care Planning (ACP)の概念が盛り込まれたことを契機に、改めて従来とは異なる観点、すなわち、医療の不開始と中止(消極的安楽死)の指針として捉えなおす必要が生じてきた。本稿では、ガイドラインの射程、二つの無益性、システムとACPの関係に注目しながら、このガイドラインが及ぼし得る作用について考察した。その結果、「理としての」無益性と「情としての」の無益性が混同されていること、ACPに関連した社会保険制度が二つの無益性の混同による医療の不開始や中止を「正解」としてレールを敷いていることが示された。これらにより、医療の不開始や中止が軋轢なく行われるシステムが形成されつつある。