昭和学士会雑誌
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原著
感染部位に移動したエフェクターT細胞はメモリーT細胞としてリンパ組織で維持される
畑 明宏田中 和生戸村 道夫
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2014 年 74 巻 2 号 p. 172-182

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抄録
ウイルス特異的CD8陽性T細胞はウイルス感染が起こると増殖し,感染細胞の排除と共にその数を収縮して行く.これらの期間はそれぞれ増殖期,収縮期と呼ばれる.その後,一部のウイルス特異的CD8陽性T細胞はメモリーT細胞として維持され,再感染に備えている.このエフェクター細胞からメモリーT細胞への分化・維持には抗原やサイトカインが重要であることが分かっているが,全身を移動しているT細胞がいつ,どこでこのような刺激を受けているかほとんど分かっていない.そこでわれわれは,ウイルス感染後のT細胞増殖,収縮期において抗原と炎症性サイトカインの豊富な感染部位とメモリーT細胞維持期におけるメモリーT細胞の動態に着目し,感染部位がCD8陽性T細胞に与える影響とメモリーT細胞維持期における所属リンパ節のメモリーT細胞の動きについて調べた.実験には紫色の光によって細胞を標識できるKaedeマウス,リンパ系細胞が細胞周期に応じて発色するFucciマウス,卵白アルブミン(Ovalbumin,OVA)特異的T細胞レセプター(TCR)を持つRAG2-KO/OT-Iマウス,感染するとOVAを感染細胞で発現するワクチニアウイルス(VV-OVA)を用いた.はじめに,ウイルス感染部位(皮膚)からOVA特異的CD8陽性細胞(OT-I細胞)がリンパ節に移動するか調べた.感染から7日目に感染部位に浸潤していたOT-I細胞は24時間後に約50%以上が入れ替わり,これら感染部位に浸潤していたOT-I細胞は所属リンパ節をはじめ全身の組織内で観察された.しかし感染15日目になると感染部位にいるOT-I細胞は入れ替わりも移動もほとんど観察できなくなった.感染7日目に感染部位から所属リンパ節に移動したOT-I細胞は所属リンパ節に存在する他のOT-I細胞よりもT細胞の維持に関与するサイトカインの受容体であるIL17R(CD127)やIL-15Rαの発現が高かった.感染6日目から8日目に感染部位を経由するOT-I細胞は所属リンパ節,脾臓,肝臓と肺組織内に存在するOT-I細胞の約10%を占めた.これら感染部位から移動したOT-I細胞は22日目においても各組織で観察できた.即ち,感染部位のウイルス特異的CD8陽性T細胞の一部は所属リンパ節を介して,全身に再循環している事が分かった.また感染部位から所属リンパ節に移動したウイルス特異的CD8陽性T細胞はメモリーT細胞としての表面マーカーを有しており,メモリーT細胞として長期間維持される事が示唆された.従って,メモリーT細胞の形成において,感染部位はT細胞にメモリーT細胞としての維持に必要なサイトカイン受容体の発現を誘発させている事が示唆され,またメモリーT細胞維持期においてメモリーT細胞はリンパ節間を移動することにより,その維持に必要な刺激を受け取る事が出来ると考えられた.
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© 2014 昭和大学学士会
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