昭和学士会雑誌
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最新号
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原著
  • 市村 菜奈, 小口 江美子, 田中 晶子
    2024 年 84 巻 6 号 p. 471-480
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    本研究では,認知症の予防や治療として注目を集めている回想法が臨床現場でより活用されるための一助となるべく,音楽聴取による記憶想起時の脳血流の変動を明らかにすることを目的とした.対象者は健常者女性10名とし,A大学のポータルサイトにて募集を行った.脳血流測定前,被験者には思い出の曲とその曲にまつわるエピソードについて記述式のアンケート調査を行った.脳血流測定時,被験者は携帯型脳活動計測装置を装着し,事前アンケートにて回答した思い出の曲と自然音をそれぞれ3分間聴取しながら,思い出の曲にまつわるエピソードを想起した.脳血流測定後には,思い出の曲聴取時と自然音聴取時において,エピソード記憶の思い出しやすさを4段階にて評価をした.脳血流の変動はウィルコクソンの順位和検定,思い出しやすさはスコア化しχ2検定を行い,それぞれ分析を行った.思い出の曲聴取時と自然音聴取時の脳血流量を比較したところ,左前頭葉においては有意差が認められなかったが,右前頭葉では有意差がみられた(p≦0.05).また,脳血流測定後のアンケートによる思い出しやすさについては思い出の曲と自然音とでは有意差は見られなかったが,それぞれの平均スコアを比較すると思い出の曲聴取時において平均スコアが高値であり,思い出しやすい傾向にあった.本研究において,思い出の曲聴取時では自然音聴取時よりも右前頭葉における脳血流量が減少していた.先行研究にて,懐かしい音楽を聴取することで楽しさやリラックスを得ることができたとの報告や情動は右半球が有意との報告がある.本研究において,思い出の曲を聴取したことにより記憶が想起しやすくなり,楽しさやリラックス感を得ることができたと考えられ,これらの情動的変化が右前頭葉の脳血流の変動に影響していた可能性がある.音楽聴取による記憶想起時の脳血流の変動には記憶想起に伴う情動的変化が関係していることが示唆された.
症例報告
  • 立野 茉咲子, 寺田 知正, 古川 和奈, 江畑 晶夫, 長谷部 義幸, 宮沢 篤生, 水野 克己
    2024 年 84 巻 6 号 p. 481-485
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    胆道閉鎖症は,胆汁うっ滞に伴いビタミンK欠乏性の病的出血を起こしやすいことが知られている.今回私たちは生後早期に硝子体出血を合併した胆道閉鎖症を経験した.症例は在胎37週3日,2,591gで出生した.出生後低血糖のためNICUへ入院し,易刺激性が強く凝固系検査を行ったところビタミンK欠乏性の凝固能障害を認めた.その後胆汁うっ滞が認められたが,全身状態は良好であり他に原因となる症状も認めないことからシトリン欠損症を疑い眼底検査を行ったところ硝子体出血を認めた.その後胆汁うっ滞が持続するため試験開腹による術中胆道造影検査を行ったところ,胆管の描出は得られず胆道閉鎖症と診断された.胆道閉鎖症に伴う病的出血は通常出生後に,ビタミンKが欠乏した場合に起こりうる.今回の症例は出生直後に認めた病的出血であり,胆道閉鎖症の契機となった胎児期の炎症に伴い凝固能が低下し,硝子体出血や網膜剥離を起こしたと推測された.そのため,胆道閉鎖症の児は胎児期の凝固異常を伴う可能性も考慮し,硝子体出血などの病的出血を確認することが重要と考えられた.
  • 伊藤 美莉, 佐藤 仁, 金田一 和香, 渡邊 匡崇, 趙 柏欽, 代田 達夫
    2024 年 84 巻 6 号 p. 486-491
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    SAPHO症候群は無菌性の炎症性病変を生じ,その特徴的な症状であるSynovitis(滑膜炎),Acne(ざ瘡),Pustulosis(膿疱症),Hyperostosis(骨過形成症),Osteomyelitis(骨髄炎)の頭文字から命名された疾患である.本疾患は診断に苦慮することが多く,治療法も確立されていないのが現状である.今回,下顎骨骨髄炎を契機にSAPHO症候群の診断に至った1例を経験したので報告する.症例は50歳,女性.左側下顎臼歯部の疼痛が抜歯などの処置が行われるも軽快せず,近在歯科医院を受診したところ精査・加療目的に当科を紹介され受診した.既往歴に掌蹠膿疱症と2型糖尿病があり,当科初診時には,左側頰部の腫脹と圧痛が認められ,開口障害が認められた.口腔内所見としては欠損部である左側下顎臼歯部の粘膜に発赤と腫脹,圧痛を認めたが,波動は触知せず,瘻孔形成も認められなかった.パノラマX線画像およびCT画像において左側下顎骨体部の硬化性変化が認められた.核医学検査では,左側下顎骨に99mTc-HMDPの集積が認められ,胸鎖・胸肋関節への集積,いわゆるBull’s head signが認められた.既往歴および以上の臨床所見からSAPHO症候群と診断し下顎骨骨髄炎に対しては非ステロイド性抗炎症薬の投与を行った.掌蹠膿疱症に対しては皮膚科にてヒト型抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体製剤の投与が行われ,その後症状の再燃は18か月間認められておらず良好に経過している.今後も症状再燃の可能性があるため慎重な経過観察を継続する予定である.
  • 五十嵐 友美, 松永 奈緒, 喜久山 和貴, 森 麻衣子, 渡邉 太郎, 小谷 透
    2024 年 84 巻 6 号 p. 492-498
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    劇症型A群溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome:STSS)は,急速進行性の感染症で敗血症性ショックや多臓器不全を引き起こし,その死亡率は30%にも及ぶ.敗血症性心筋症に至ると,死亡率はさらに上昇する.体外式膜型人工肺(venoarterial extracorporeal membrane oxygenation:VA-ECMO)による循環補助は救命に役立つと思われるが,その適応や有効性はまだ不明である.既往にアンチトロンビン(antithrombin:AT)欠乏症をもつ40歳代女性がSTSSを発症し,壊死性筋膜炎から敗血症性ショック,播種性血管内凝固障害,および急性腎障害を発症した.ICU入室後,抗菌薬投与・感染した右大腿切断・昇圧剤投与・人工呼吸管理・腎代替療法などが行われたが,第3病日には右上肢への感染波及も見られた.身体所見や乳酸値上昇などから敗血症性心筋症と考え,頻回に経胸壁心エコー検査を行いVA-ECMO導入の必要性につき連日検討した.しかし,本症例にはカテーテル挿入部位の制限やAT欠乏症患者の抗凝固管理という臨床的困難があったため,第4病日にVA-ECMOを遅滞なく導入できる施設に転院搬送した.搬送先で同様の治療が続けられ,VA-ECMOは実施されずに転院8日後当院に再搬送された.以後経過は良好で,再入院後第87日目,リハビリテーション目的に転院した.AT欠乏患者のSTSS症例による敗血症性心筋症において,頻回な心エコー評価が,合併症リスクが高いVA-ECMOの適応を検討する参考となり,適切な患者管理に役立った.
  • 浅山 真史, 金澤 建, 唐渡 諒, 三川 武志, 松橋 一彦, 阿部 祥英
    2024 年 84 巻 6 号 p. 499-505
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    免疫性血小板減少症(immune thrombocytopenia,以下ITP)は,原因不明の後天性出血性疾患で先行感染に続いて発症することが多いが,複数のワクチンの同時接種後にITPを発症した小児例を経験したので報告する.症例は生後2か月の男児である.家族歴,既往歴,周産期歴に特記事項はなく,近医でHaemophilus influenzae type b(Hib),肺炎球菌,B型肝炎,ロタウイルスワクチンを同時に初回接種された.その15日後,顔面や上肢に紫斑が出現し,当院を紹介された.受診時,顔面と上肢の散在性紫斑に加え,口蓋に粘膜出血を認めた.血液検査では血小板数が5,000/µlに減少し,血小板結合性免疫グロブリンGは65.0ng/107cellsと上昇していた.凝固能,生化学,補体価に異常は無く,ITPと診断された.免疫グロブリン静注療法を施行後,血小板数の改善を認め,入院6日目に退院した.両親の希望により,ITP発症前に接種された4種類のワクチンを月齢3から1か月おきに単独で接種したが,ITPの再発はなかった.原因ワクチンを特定できなかったが,本症例は紫斑出現前にワクチンの同時接種があり,それがITP 発症に関与した可能性がある.本邦においてワクチン接種後のITP症例数は本症例を含め,少なくとも16例の報告がある.合併症として頭蓋内出血や重篤な神経学的後遺症を認めた事例は無い.ITP罹患後,ワクチン接種の再開や同時接種を避けるべきどうかについては明確な基準はない.よって,現時点では両親の希望に配慮し,個別に対応するのが望ましい.
  • 菅 舞子, 佐藤 仁, 前村 美希, 戸羽 一綺, 嶋根 俊和, 代田 達夫
    2024 年 84 巻 6 号 p. 506-512
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/27
    ジャーナル フリー
    腺扁平上皮癌(adenosquamous carcinoma:ASC)はまれな高悪性度の癌であり,全身のあらゆる部位に発生する.口腔顎顔面領域に生じることはまれであり,舌での発生は報告例が少ない.ASCは予後不良とされており,発見時にはリンパ節転移や肺転移を生じている例も多い.今回われわれは舌に発生した腺扁平上皮癌の1例を経験したので報告する.症例は48歳,女性.右側舌縁部に腫瘤を生じたため近在歯科医院を受診し,精査・加療目的に当科を紹介され受診した.当科初診時には,右側舌縁部に10×5mm大の弾性軟の腫瘤が認められ,表面はやや不整で易出血性であった.造影CTや造影MRIでは,右側舌縁部に明らかな造影効果を示す病変は認められなかった.また両側頸部のリンパ節腫大も認められなかった.擦過細胞診では扁平上皮癌が疑われ,右側舌扁平上皮癌(cT1N0M0,Stage Ⅰ)の臨床診断の下,全身麻酔下に右側舌部分切除術を施行した.病理組織学的には,扁平上皮癌成分と腺癌成分が混在しており,腺癌成分が腫瘍の1割以上を占めていたことから,腺扁平上皮癌(pT1N0M0,Stage Ⅰ)と診断した.術後4年が経過した現在,明らかな再発を示す所見は認められていない.本腫瘍は局所的な浸潤傾向が強いとする報告もあり,今後も再発や転移のリスクに留意し慎重な経過観察を継続する.
講演
第401回昭和大学学士会例会(歯学部会主催)
第402回昭和大学学士会例会(医学部会主催)
第403回昭和大学学士会例会(保健医療学部会主催)
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