免疫性血小板減少症(immune thrombocytopenia,以下ITP)は,原因不明の後天性出血性疾患で先行感染に続いて発症することが多いが,複数のワクチンの同時接種後にITPを発症した小児例を経験したので報告する.症例は生後2か月の男児である.家族歴,既往歴,周産期歴に特記事項はなく,近医でHaemophilus influenzae type b(Hib),肺炎球菌,B型肝炎,ロタウイルスワクチンを同時に初回接種された.その15日後,顔面や上肢に紫斑が出現し,当院を紹介された.受診時,顔面と上肢の散在性紫斑に加え,口蓋に粘膜出血を認めた.血液検査では血小板数が5,000/µlに減少し,血小板結合性免疫グロブリンGは65.0ng/10
7cellsと上昇していた.凝固能,生化学,補体価に異常は無く,ITPと診断された.免疫グロブリン静注療法を施行後,血小板数の改善を認め,入院6日目に退院した.両親の希望により,ITP発症前に接種された4種類のワクチンを月齢3から1か月おきに単独で接種したが,ITPの再発はなかった.原因ワクチンを特定できなかったが,本症例は紫斑出現前にワクチンの同時接種があり,それがITP 発症に関与した可能性がある.本邦においてワクチン接種後のITP症例数は本症例を含め,少なくとも16例の報告がある.合併症として頭蓋内出血や重篤な神経学的後遺症を認めた事例は無い.ITP罹患後,ワクチン接種の再開や同時接種を避けるべきどうかについては明確な基準はない.よって,現時点では両親の希望に配慮し,個別に対応するのが望ましい.
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