昭和学士会雑誌
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最新号
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特集:口腔組織再生
  • 美島 健二
    2024 年 84 巻 5 号 p. 349
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/30
    ジャーナル フリー
  • 畔津 佑季, 大竹 開, 西田 訓子, 平山 藍子, 杉木 秀光, 唐川 亜希子, 茶谷 昌宏, 高見 正道
    2024 年 84 巻 5 号 p. 350-357
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/30
    ジャーナル フリー
    骨は修復・再生能力を有する組織であり,外傷や手術による骨折や骨欠損はさまざまな細胞の働きにより元の形状に復元される.この過程は,①血腫形成を伴う炎症期,②骨折端を架橋する軟性仮骨形成期,③仮骨が硬化する硬性仮骨形成期,④過剰骨を除去するリモデリング期を経て進行する.炎症期では好中球やリンパ球(Lymphocyte)などが,軟性仮骨形成期では軟骨細胞(Chondrocyte)が,硬性仮骨形成期とリモデリング期では骨芽細胞(Osteoblast)と破骨細胞(Osteoclast)が主に役割を担っており,それらの分化や活性化はサイトカインや転写因子などの制御を受けている.骨修復・再生の中心的な役割を担う骨芽細胞の分化は,分泌型タンパク質であるWntやBone morphogenetic protein(BMP),Transforming growth factor-β(TGF-β),Fibroblast growth factor(FGF),Parathyroid hormone(PTH)などが誘導し,スクレロスチン(Sclerostin)により抑制される.また,骨芽細胞は破骨細胞分化誘導因子であるReceptor activator of NF-κB ligand(RANKL)とその阻害因子であるOsteoprotegerin(OPG)の産生を介して骨吸収を調節する.われわれは,メダカの尾ヒレを切断する骨再生モデルと,マウスの大腿骨に穴を空ける骨欠損モデルにおいて,免疫抑制薬タクロリムス(FK506)が再生と修復を顕著に促進することを見出した.このメカニズムをin vivoイメージング法により解析したところ,タクロリムスが骨芽細胞数の増加を促進することが明らかとなり,タクロリムスの標的である細胞内のカルシニューリンが骨修復・再生に重要な役割を担うことが推察された.
  • 菅野 真莉加, 山本 松男
    2024 年 84 巻 5 号 p. 358-366
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/30
    ジャーナル フリー
    歯周組織は歯肉,セメント質,歯根膜,歯槽骨からなる.歯周治療は,病因であるプラーク細菌の除去を中心とした原因除去療法をベースとして発展してきたが,切除的アプローチのみでは長い上皮性付着による修復治癒となり,破壊された歯周組織の完全な再生は不可能である.歯周組織再生の達成には,高い増殖能の上皮組織を制御し,強固な線維性付着を獲得することが重要である.破壊された歯周組織を再生するため,Guided tissue regeneration(GTR)法,Enamel matrix derivative(EMD)や細胞増殖因子の利用,細胞移植治療などさまざまな再生療法の研究・開発が続けられてきた.骨移植は,古くから自家骨移植がゴールドスタンダードとされているが,採取量の制限や手術侵襲の拡大などの問題があり,最近では代用骨の使用が増えている.1982年に発表されたGTR法は,増殖の速い歯肉の上皮細胞と結合組織細胞が再生の場に侵入するのを防ぐ遮蔽膜を用いるというものである.物理的に細胞成分ごとの増殖や分化を制御するだけで良好な予後が得られたことから当初は世界中で広く行われたが,手術手技が煩雑であるなど,現在はほとんど行われていない.1990年代になると歯の発生メカニズムにヒントを得たEMDが歯周組織再生に応用されるようになった.EMDは幼若ブタの歯胚から抽出したエナメルタンパク質画分を主成分とし,フラップ手術時に歯根面に塗布する簡便性とGTR法と同等の効果が報告され,実施数が増加している.2000年代に入ると,細胞増殖因子の応用が始まり,最近では細胞移植治療の開発につながってきた.さらに,再生に不利な条件の症例ではこれらを併用する例も増えてきている.しかし,再生治療の実施にあたっては,科学的妥当性や倫理的配慮の他,医薬品や医療機器の安全基準に沿った適正な使用を遵守することが大変重要である.
  • 田中 準一
    2024 年 84 巻 5 号 p. 367-373
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/30
    ジャーナル フリー
    唾液腺は口腔内への唾液分泌機能を担う外分泌腺の一つであり,頭頸部がんの放射線治療後の副作用などによる唾液腺組織障害では口腔乾燥症に引き続き,多発う蝕や真菌感染などを引き起こす.口腔乾燥症の現在の治療法としては対症療法しか存在せず,根治療法の開発が望まれている.そのため唾液腺に対する再生医療として,唾液腺組織幹細胞を応用する戦略と,ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞から唾液腺を分化誘導する戦略が取られている.唾液腺組織幹細胞については近年の技術開発や他臓器における組織幹細胞の知見などにより,これまでの唾液腺組織幹細胞の認識が変化しつつある.多能性幹細胞からの唾液腺分化誘導に関してはわれわれの研究グループがオルガノイドと呼ばれる3次元構造体を誘導する方法でマウスES細胞およびヒトiPS細胞から唾液腺オルガノイドの誘導方法を開発した.本総説では唾液腺組織幹細胞のこれまでの知見と近年の認識を解説し,多能性幹細胞由来の唾液腺オルガノイドについての概念と応用可能性について論じる.
  • 宗像 源博
    2024 年 84 巻 5 号 p. 374-383
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/30
    ジャーナル フリー
    インプラント治療における歯槽骨再生は,インプラントのチタン表面と骨がオッセオインテグレーションしなければならない点や,オッセオインテグレーションしたインプラントと骨の複合体が咬合力やブラキシズム等の荷重に耐えられる必要性があることが,歯根膜支持である歯周組織における歯槽骨再生とは様相が異なる.そして,歯を喪失した欠損部の歯槽骨再生は,インプラント治療の予後を担う重要な要件であると考えられている.インプラント治療における骨造成にはさまざまな術式が開発されており,良好な結果を示している.しかし,骨再生の足場としてのスペースメイキングが必要であることから生体骨もしくは人工骨等の骨移植材料が必須であることが現状である.今後,幹細胞等による細胞治療により,人工足場としての骨移植材が不要になることで真の再生医療がインプラント治療に応用されることを期待する.
  • 代田 達夫
    2024 年 84 巻 5 号 p. 384-390
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/30
    ジャーナル フリー
    口腔腫瘍切除後の下顎欠損に対しては,審美性と機能性を確保するために下顎の連続性を回復する必要がある.従来,下顎骨欠損の連続性を回復するために,再建プレート,遊離骨移植,血管柄付き遊離骨移植などが用いられてきた.近年では,CTデータを用いて骨切り部位を決定し,血管柄付き遊離骨移植片や骨髄海綿骨細片(particulate cancellous bone and marrow:PCBM)を用いた再建プレートとカスタムメイドのチタンメッシュトレーを用いて下顎骨再建が行われている.本論文では,微小血管吻合を伴う遊離腓骨皮弁と,腸骨稜から採取したPCBMを用いたカスタムメイド・チタンメッシュトレーを用いた下顎骨の再建について解説する.
原著
  • ―ワークエンゲージメントと周囲からのサポートとの関係から―
    菊田 一夫, 大﨑 千恵子
    2024 年 84 巻 5 号 p. 391-402
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/30
    ジャーナル フリー
    リンクナースには,専門家と自部署をつなぎ,自部署の問題意識を高めて実践を改善することが期待されており,病棟全体に影響を与えることのできる看護師が役割を担う.しかし,リンクナースにはやりがいより負担感が強いとの報告もある.本研究では,リンクナースが活き活きと働く上で求められる支援について,ワークエンゲージメント(以下WE)と周囲からのサポートとの関係から明らかにすることを目的とした.対象は急性期病棟に勤務し,リンクナース経験がある看護職とし,調査内容は周囲からのサポート14項目および,邦訳版ユトレヒトワークエンゲージメント尺度とした.94名から回答が得られ,回収率は28.7%であった.全体のWE平均値は2.43であった.WEを周囲からのサポート別に比較したところ,「同僚からの協力」,「専門家からのサポート」,「キャリア形成への影響」,「上司からの権限委譲」,「上司からの進捗確認」,「上司からのフィードバック」の項目において,サポートを受けていた方がWEが高いという結果が得られた.リンクナースに対し上司が,権限を委譲するとともに,その活動過程を細やかに確認し,成果をフィードバックすることがWE向上に繋がると思われた.また,専門看護師や認定看護師などの専門家がリンクナースに対して,就任前もしくは就任直後から,個々のレディネスに合わせた専門的知識や技術・技術を教育することが,WEを高めることにつながると推察された.さらに上司がリンクナースを任命するにあたり,該当領域への興味・関心が高いことをリーダーシップよりも優先することも検討が必要である.
  • 松永 奈緒, 関本 篤人, 久保寺 宏太, 森 麻衣子, 村上 幸三, 小谷 透
    2024 年 84 巻 5 号 p. 403-410
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/30
    ジャーナル フリー
    【背景】人工呼吸中に骨格筋が喪失し運動機能低下の原因となることが報告されているが,人工呼吸中の骨格筋の体積減少量はまだ報告が少ない.また,骨格筋体積減少量と運動機能低下の程度との関連は明らかではない.【目的】人工呼吸を受けたCOVID-19肺炎患者の脊柱起立筋の減少を体積量として算出し,脊柱起立筋体積減少量と運動機能低下との関連を明らかにする.【方法】研究デザインは単施設後ろ向き症例集積研究で,2020年3月1日から2021年10月31日の間に集中治療室(ICU)において人工呼吸を受けた18歳以上のCOVID-19重症肺炎の患者のうち,早期リハビリテーションを受けた患者で,かつ,挿管時・抜管後の2時点で胸部CT検査を行った患者を抽出した.脊柱起立筋体積量の測定はCT画像の第11胸椎レベルの脊柱起立筋を1枚ずつトレースし解析ソフトにより体積量として算出し,挿管時・抜管時で比較した.また脊柱起立筋体積減少量とICU退室時運動機能評価スコアとの関連を調査した.【結果】合計27名の患者が登録された.脊柱起立筋体積量の中央値は挿管時85.3mm3,抜管後73.6mm3で有意な減少がみられた(p=0.0025).脊柱起立筋体積減少量と運動機能評価の間には負の相関が,人工呼吸期間,筋弛緩薬投与期間,最大CRP値の間には正の相関が示唆されたが有意ではなかった.脊柱起立筋体積減少率が25%以上であった重度筋喪失群と,25%未満の軽度筋喪失群との比較ではIntensive Care Unit Mobility Scale(IMS)で有意差がみられた(p=0.044).【結論】人工呼吸を受けたCOVID-19肺炎患者では脊柱起立筋体積量の有意な減少がみられ,脊柱起立筋体積減少率の25%以上の減少はICU退室時のIMSスコア低下と関連した.
  • —2014年度から2018年度の患者の実態と傾向について—
    安田 有沙, 小橋 舞, 笹間 雄志, 朝倉 眞莉子, 天田 かおり, 守谷 崇, 代田 達夫
    2024 年 84 巻 5 号 p. 411-419
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/30
    ジャーナル フリー
    昭和大学江東豊洲病院病院歯科の役割を検証し,今後の展望を考察するために,2014年3月から2019年3月の過去5年間における当科の初診患者と入院患者について臨床統計学的検討を行った.総新患患者数は8,041例であった.平均年齢は47.3歳であり30代が最も多かった.地域医療機関からの紹介患者は5,557例で,紹介率は52.7%であった.疾患別では歯牙・歯周疾患が3,809例(68.5%)と最も多く,口腔粘膜疾患267例(4.8%),嚢胞性疾患242例(4.4%),腫瘍性疾患214例(3.9%)と口腔外科的疾患の割合が多くなっていた.院内診療科からの紹介患者は2484例であった.依頼内容としては歯牙・歯周疾患が1,308例(52.7%)最も多く,続いて周術期口腔機能管理依頼940例(37.8%)であった.入院症例総数は460例であり入院率は5.5%であった.近隣地域からの紹介患者は年々増加しており,地域の医療機関と密な連携体制を整えられつつあると思われる.また,院内からの紹介も多く周術期口腔機能管理も増加傾向にあることから,総合病院における病院歯科として他科診療科との連携を図ったチーム医療への貢献が求められる.
  • 黒岩 澄志, 井上 拓保, 須山 陽介, 保坂 亮, 駒場 一貴, 重田 夏美, 永田 彩, 成井 理加, 榎戸 克年
    2024 年 84 巻 5 号 p. 420-429
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/30
    ジャーナル フリー
    現在わが国におけるがんの治療における手術をされた患者に対するリハビリテーションのエビデンスとして,乳がん患者に対して非常に強いレベルで術後にリハビリテーションを行うことを推奨している.しかし,乳房再建術後の患者に特化したリハビリテーションに関しては,リハビリテーションを行うことを提案するといった推奨に留まっている.この背景としては,乳がん術後に関するリハビリテーションの報告は多数あるが,乳房再建術後患者に特化したリハビリテーションの報告は現在全くないことがあげられる.今回,乳房再建術患者のなかでエキスパンダーによる一次再建術を行った患者に対して術前と術後3か月後で術側の肩関節可動域及び上肢機能にどのような変化があるか検討した.2021年6月1日から2023年10月31日までにA病院において乳房再建術(エキスパンダーによる一次再建術)を施行された患者27名を対象とし,術前と術後3か月時点での術側肩関節屈曲,外転可動域と上肢機能としてDASHの症状スケールを評価し比較検討した.結果として,術側の肩関節屈曲可動域,外転可動域は術前と比較し術後3か月では術側肩関節屈曲,外転可動域ともに有意に低下しており,上肢機能に関しても術前と比較し術後3か月では有意に低下しており,上肢の困難感を感じているということが示唆された.乳房再建術後患者もこれまでの乳房切除術患者と同様にリハビリテーションの必要性が重要であると考えられ,今後乳房再建術患者に対し術側肩関節可動域や上肢機能に留まらずさまざまな因子について検討することや長期的な影響,さらにはリハビリテーションプログラム自体に関しても検討し,乳房再建術患者に対するリハビリテーションのエビデンスを構築していく必要があると考えられる.
  • 垂野 香苗, 田辺 記生, 松柳 美咲, 榎戸 克年, 栗田 智子, 坂巻 顕太郎, 橋本 梨佳子, 桑山 隆志, 蒔田 益次郎, 柳原 恵 ...
    2024 年 84 巻 5 号 p. 430-440
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/30
    ジャーナル フリー
    乳腺非触知病変に対する手術手技は,術前化学療法の進歩や,乳癌検診の精度上昇に伴い増加している.それらの手術に関しては,従来のWire-Guided Localization(以下WGL法)による手法が利用されているが.それらに加え,さまざまな機器開発が進んでいる.国内で開発した磁気プローブであるMagprobe TAKUMI®とガイディングマーカーシステム®を利用した乳腺非触知病変に対する手術(以下磁気法)を報告し,単アーム試験にて乳腺非触知病変手術での磁気法の有用性を報告した.乳腺非触知病変を再現した乳房ファントムを用い,従来法であるWGL法と磁気法の手法の比較試験を行い,両手技の同等性を評価する.8名の乳腺外科医により,WGL法,磁気法の両手技をそれぞれ施行し,マーカーの摘出,病変摘出,病変重量,手術時間にて評価行う.全例マーカーの摘出は可能であり,検体重量,手術時間,断端陽性率に差はなかった.本試験により,両手技が同等であることを示した.
症例報告
  • 須貝 隆之, 當重 明子, 園田 清次郎, 内田 直樹
    2024 年 84 巻 5 号 p. 441-445
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/30
    ジャーナル フリー
    スガマデクス投与直後に皮膚症状を認めないアナフィラキシーショックを経験した.昇圧剤への反応の乏しい低血圧が初発症状として認められた.左手掌の触診でアレルギー反応による血管拡張を疑い,抗ヒスタミン薬を投与後,血圧が回復した.その後,頭部・体幹部に皮膚症状が出現したためアナフィラキシーと診断し,アドレナリン0.3mgを筋肉内投与した.以後のバイタルサインの安定を得た.頻脈,徐脈に関わらず,昇圧剤への反応の乏しい難治性低血圧に対しては,皮膚症状が認められなくとも常にアナフィラキシーを念頭に置き,対処する必要がある.
  • 安田 有沙, 笹間 雄志, 朝倉 眞莉子, 天田 かおり, 代田 達夫
    2024 年 84 巻 5 号 p. 446-451
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/30
    ジャーナル フリー
    ランゲルハンス細胞組織球症はLangerhans細胞の浸潤,増殖を組織学的特徴とする原因不明の病変で,成人の発症は少ないといわれている.治療法として手術療法,化学療法,放射線療法,または併用療法等さまざまな治療法が検討されているが,いまだ統一した見解は得られておらず,治療法が確立されていないのが現状である.患者は36歳男性,左側上顎第一大臼歯歯肉の疼痛と腫脹を主訴に当院を受診した.初診時左側上顎歯肉の腫脹を認めた.生検にてランゲルハンス細胞組織球症の確定診断を得たため摘出施行.経過観察を行っていたところ,術後2か月のパノラマX線写真にて右側下顎骨の透過像が右側下顎大臼歯根尖部に拡大したため,再度右側下顎腫瘍摘出術を施行した.しかし,再摘出2か月後のパノラマX線写真でさらに前方に新たな病変の出現を認め,手術療法では根治困難と判断,ステロイド療法(リン酸デキサメタゾン3.3mgの局注)を週に1回,合計で25回施行したが腫瘍の制御は困難であった.そこで放射線治療を行うこととなり,右側下顎にtotal 10Gyの放射線照射を施行した.その後,腫瘍の再発は認められず経過良好である.
  • 市川 雄大, 芳賀 秀郷, 藤田 昭彦, 瀧澤 秀臣, 長濱 諒, 吉田 寛, 中納 治久
    2024 年 84 巻 5 号 p. 452-462
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/30
    ジャーナル フリー
    唇顎口蓋裂患者は,上顎劣成長や不正咬合などの審美的不調和および機能的障害をきたすことが多く,長期間にわたり複数の診療科に及ぶ治療を必要とする.今回われわれは,左側唇顎口蓋裂症例で,動的治療後8年9か月経過した長期管理症例を経験したので報告する.初診時年齢4歳9か月の女児,左側唇顎口蓋裂による不正咬合を主訴に来院した.生後3か月時に口唇形成術を,1歳6か月時に口蓋形成術を行い,その後矯正歯科治療を行った.初診時は,上顎乳前歯の口蓋側傾斜および上顎劣成長を示し,下顎骨が前方位を示す骨格性下顎前突であった.第一期治療として,上顎前方牽引装置およびリンガルアーチにより上顎骨の前方成長促進,前歯部被蓋関係の改善を行い,セクショナルアーチにて叢生の改善を行った.9歳0か月時の犬歯萌出時期に合わせて顎裂部骨移植を行った.その後,15歳4か月からマルチブラケット法による第二期治療を開始した.18歳4か月時に動的治療を終了し,保定を開始した.動的治療終了後8年9か月時,瘢痕組織による上顎歯列弓幅径の減少がみられ,わずかな後戻りが認められたが,咬合はほぼ安定し,良好な状態が維持されている.
第399回昭和大学学士会例会(医学部会主催)
第400回昭和大学学士会例会(薬学部会主催)
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