2017 年 77 巻 5 号 p. 523-529
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus,MRSA)は医療関連感染における代表的な病原微生物である.MRSAに有効な抗菌薬は限られており,MRSAによる血流感染症や感染性心内膜炎の死亡率は20~50%であることが報告されている.本邦では2013年に「MRSA感染症治療のガイドライン」が公表された.ガイドラインによりMRSA感染症の病態別に第一選択薬が示されたが,抗MRSA薬の処方動向を調査した報告が存在しないため,薬剤の選択状況は明らかではなかった.そこで,抗MRSA薬の処方動向を調査するために,2010年4月から2016年3月の期間に抗MRSA薬を処方された入院患者を対象とし,年度ごとに第一選択薬,使用量,処方日数に関して後ろ向きに調査をした.その結果,第一選択薬の約7割はバンコマイシンであった.バンコマイシンはMRSA感染症に対して50年以上使用されている世界的標準治療薬であり,多くの病態に適応を有していることが要因と考えられる.一方で,ダプトマイシンの第一選択処方の割合と使用量の経年的な増加がみられた.ダプトマイシンは2011年に本邦で承認された最も新しい抗MRSA薬だが,菌血症や感染性心内膜炎ではバンコマイシンに対して非劣性の臨床成績を有しており,ガイドラインにおいてこれらの病態の第一選択薬として強く推奨されていることが要因と考えられる.処方動向調査により抗MRSA薬の選択状況が明らかとなり,標準治療薬であるバンコマイシン以外の薬剤,特にダプトマイシンの第一選択薬としての処方の経年的な増加が明らかとなった.