昭和学士会雑誌
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原著
心臓血管外科術後の体重変化がリハビリテーション進行に与える影響
磯邉 崇中村 大介
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2021 年 81 巻 4 号 p. 333-341

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抄録

心臓血管外科手術後の体液管理状況は体内水分量の増減を反映し,肺うっ血などの組織の浮腫や低心拍出による尿量低下を示唆する重要な因子であり,心臓血管外科手術後のリハビリテーション進行の可否を判断するうえでも重要な因子と考えられている.そのため心臓血管外科手術後のリハビリテーションを適切に進行するために,術後体重変化や症例の術式の推移を把握して介入することが重要なのではないかと推測される.そこで本研究では2018年4月1日から2019年3月31日までに当院で心臓血管外科手術後にリハビリテーションを施行した82例(男性42例,女性40例)を対象とし,術後体重変化が術後のリハビリテーション進行に与える影響を検討した.まず術後体重増加率が105%以上となる症例を術後体重増加群,105%未満の非術後体重増加群の2群で比較した.次に弁単独手術群,狭心症単独手術群,弁・狭心症複合手術群,大血管手術群の術式別による4群に分類し比較した.その結果を踏まえて患者情報,手術関連情報の中から重回帰モデルを作成し,術後体重率と患者情報,手術関連情報との関連性を検討した.測定値は中央値(25%-75%)で示した.すべての解析において有意水準は5%未満とした.術後体重増加率は102(101.1-103.8)%,術前体重に戻るまでの日数は6(5.1-6.5)日,歩行獲得日数は4(4.4-5.9)日,リハパス完遂日数は8(7-10)日,入院日数は18(14.7-22.7)日であった.術後体重増加率による2群の比較ではリハパス完遂日数,入院日数が有意に長かった(リハパス完遂日数P=0.004,入院日数P=0.004).術式による4群の術後体重増加率,術前体重に戻るまでの日数,歩行獲得日数,リハパス完遂日数,入院日数に差を認めなかった.重回帰分析の結果,術中IN(β標準化回帰係数:0.352,P=0.02)が有意な項目として抽出された(自由度調整R2乗=0.306).心臓血管外科術後のリハビリテーション進行において,術後体重増加率がリハビリテーション進行の遅延に関連していることが示唆された.術式による術後体重増加率,術前体重に戻るまでの日数,歩行獲得日数,リハパス完遂日数,入院日数に差を認めなかった.重回帰分析の結果から術後体重増加率と有意に関連する項目として,術中INが抽出された. これらの結果から術中の体液管理状況,術後の体重増加率を評価することにより循環動態の変化に起因する症状の出現を予測し安全なリハビリテーションを進行するための評価指標として活用することが可能である.

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