昭和学士会雑誌
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原著
携帯型脳活動計測装置を用いた音楽聴取時による記憶想起時の脳血流の変動
市村 菜奈小口 江美子田中 晶子
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2024 年 84 巻 6 号 p. 471-480

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抄録
本研究では,認知症の予防や治療として注目を集めている回想法が臨床現場でより活用されるための一助となるべく,音楽聴取による記憶想起時の脳血流の変動を明らかにすることを目的とした.対象者は健常者女性10名とし,A大学のポータルサイトにて募集を行った.脳血流測定前,被験者には思い出の曲とその曲にまつわるエピソードについて記述式のアンケート調査を行った.脳血流測定時,被験者は携帯型脳活動計測装置を装着し,事前アンケートにて回答した思い出の曲と自然音をそれぞれ3分間聴取しながら,思い出の曲にまつわるエピソードを想起した.脳血流測定後には,思い出の曲聴取時と自然音聴取時において,エピソード記憶の思い出しやすさを4段階にて評価をした.脳血流の変動はウィルコクソンの順位和検定,思い出しやすさはスコア化しχ2検定を行い,それぞれ分析を行った.思い出の曲聴取時と自然音聴取時の脳血流量を比較したところ,左前頭葉においては有意差が認められなかったが,右前頭葉では有意差がみられた(p≦0.05).また,脳血流測定後のアンケートによる思い出しやすさについては思い出の曲と自然音とでは有意差は見られなかったが,それぞれの平均スコアを比較すると思い出の曲聴取時において平均スコアが高値であり,思い出しやすい傾向にあった.本研究において,思い出の曲聴取時では自然音聴取時よりも右前頭葉における脳血流量が減少していた.先行研究にて,懐かしい音楽を聴取することで楽しさやリラックスを得ることができたとの報告や情動は右半球が有意との報告がある.本研究において,思い出の曲を聴取したことにより記憶が想起しやすくなり,楽しさやリラックス感を得ることができたと考えられ,これらの情動的変化が右前頭葉の脳血流の変動に影響していた可能性がある.音楽聴取による記憶想起時の脳血流の変動には記憶想起に伴う情動的変化が関係していることが示唆された.
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