日本労務学会誌
Online ISSN : 2424-0788
Print ISSN : 1881-3828
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正規就業を積極的に表明しない心理の概念構造―「とりあえずフリーター」意識からのアプローチ―
中嶌 剛
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2021 年 21 巻 3 号 p. 63-75

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ABSTRACT

Conventional career education has only slight application to younger-generation workers who choose to be a “part-timer” as their desired career path after completion of their final schooling. This study was conducted to ascertain their hierarchical, actual state of mind. Using original survey data (N=247), we specifically examined the internal factors and the conceptual structure of the mentality of persons who desire to become a“ part-timer for the time being,” including their state of consciousness. An examination was conducted using structural equation modeling in which the“ parttimer for the time being” intervened between personal factors and consciousness about working. The results presented the following insights.

Losing self-confidence, being in a moratorium, and vague understanding underlie the “part-timer for the time being” consciousness by which a person feels unable to express their will of “what I want to do.” They relate the negativity toward working.

Role models are the key to raising feelings of ownership of one’s career and avoiding ambiguous career choices.

Vaguely continuing a part-timer lifestyle that lacks a sense of reality can negatively affect the realization of career development. If young people overcome harsh realities by taking a temporarily ambiguous stance and attitude with a sense of reality that includes understanding of their situation and circumstances, then the experience might have positive effects on how they envision their career.

1. はじめに

わが国の雇用システムにおいて,最終学校を出た直後に就く職での経験がその後のキャリア形成に与える影響は決して小さくはない(堀田,2010Bazerman & Moore, 1994)。新卒一括採用の雇用慣行は,限定合理的な制約を受けた新規学卒者の意思決定を可能にし,彼らを遅滞なく社会に押し出す市場調整機能を果たしてきた側面がある。

その一方で,1990年代後半以降,高校卒業時の希望進路を「フリーター」とするような,旧来型の進路指導・キャリア教育が通用しにくい層(以下,「とりあえずフリーター」層)が確認されている(リクルート,2000)。従来の若年雇用・フリーター研究では,さまざまな理由により定職に就かない層(学卒無業者,失業者,ニート,SNEP)や非正規労働者・フリーター等の新規学卒時における就業形態が注目され,定職の有無や移行経路の安定性からの議論が盛んである一方,背景事情が異なる対象群(フリーター)の階層意識についてサブグループごとに論じる必要性が指摘されてきた(本田,2004耳塚,2004)。無論,曖昧さや不確実性を伴う新規学卒時点で積極的に正規就業を表明しない層(「とりあえずフリーター」層)の内的要因や心理構造の研究は十分ではなかった。初期キャリアの段階における階層格差を検討することは,日本社会の階層構造や階層間格差の趨勢を考える上でも重要である。

そこで,本研究では,正規就業していない対象群を単なる一就業形態(「フリーター」)から捉えるのではなく,意識状況を含めた「とりあえずフリーター」尺度と定義し直した上で,一般概念(第2次構成概念)の概念構造分析を通して,正規職を選択しない心理的要因を明らかにすることが目的である。本視点からの検討は,曖昧・不安要因が大きい対象群に対して,キャリア選択行動への心理的なハードルの引き下げに寄与できるだけでなく,若者支援者側の立場からも,より実態に即した若年雇用対応策を考える契機になり得ると考える。

以下,本稿の構成は次の通りである。次章では,「とりあえずフリーター」という明確に正規就業を意思表明しない心理的要因について,論理学・キャリア心理学・教育社会学分野からの先行研究分析を行い,7つの仮説を設定する。第3章では,本研究で使用するデータの調査概要と分析方法を説明する。第4章では,正規就業を選択しない個人要因の主成分分析,ならびに,「とりあえずフリーター」を介在させた個人要因と「働くことの意識」に関する共分散構造分析を通して,7仮説の検証を行う。最終章では,本研究の意義と限界について言及する。

2. 先行研究から導かれる仮説

2-1. 「とりあえずフリーター」の論理学的アプローチ

従来の就業形態は,正社員および公務員を「典型就業」,それ以外の働き方を「非典型就業」と呼称されてきた(小杉,2010; 堀,2007)。一方,フリーターの分類については,労働省『労働白書』(1991)では「年齢は15~34歳と限定し,①現在就業している者については勤め先における呼称が『アルバイト』または『パート』である雇用者で,男性については就業継続年数が5年未満の者,女性については未婚の者とし,②現在の無業の者については家事も通学もしておらず『アルバイト・パート』の仕事を希望する者」と定義されるものの,統一された定義は存在していない(小杉・堀,2002)。なお,年齢階級別にみたその割合(2019年時点)は,25~34歳(24.8%)では,ほぼ横ばいで推移するものの,15~24歳(50.9%)で増加している(総務省統計局「労働力調査」令和元年)。

このフリーターという言葉は,1980年代当初は「あえて正社員を選ばない」層としてカテゴライズされてきた。よって,「フリーターはあえて非正規職を選んでいる」という命題が存在し得るとするならば,この命題の裏は「フリーターでない人はあえて正規職を選んでいる」,すなわち,「とりあえず正社員(定職)層」が析出される(図1-cをご参照)。こうした曖昧な形でやみくもに典型就業を果たす層の実態は,高等教育を享受する一部層でも確認されている(中嶌,2013; 2015; 2020)。

例えば,労働政策研究・研修機構(2006)の「大学生のキャリア展望と就職活動に関する実態調査」によれば,全国の大学4年生の約80%(有効回答18,509)が「大学を卒業するときには,何が何でも正社員として就職したい」という意思を示す(図1-a)。同調査による,「やりたいことであれば,非正社員でもフリーターでもこだわらない」(45.1%),および「できることなら就職決定は先に延ばしたい」(約20%)という水準の高さは,意識状況を考慮した就業形態の分類による検討の余地があることを示唆する1

留意すべきは,図1の[求職型中分類],つまり,線Xの内部で線Yより外側の部分(領域a~e)が,必ずしも厳密に区分できない曖昧さが残る点である。既出の労働政策研究・研修機構(2006)による調査では,就職未内定者のうち大学院・他大学または留学や専門学校への就学者以外の予定進路については,「公務員や教員を希望(14.3%)」,「就職希望がありながら就職活動をしていない(13.1%)」,「未定・迷っている(11.7%)」となっている。このうち,「就職希望がありながら就職活動をしていない」と「未定・迷っている」だけでも4,500人以上に上る計算となり,不鮮明層にみられる多様性が実態把握を困難にしている面がある。

本稿では,図1の斜線部で示す,進路選択理由が曖昧な求職型である「d. とりあえずフリーター」層を,フリーターに強く固執する「b. 何が何でもフリーター」層,および,どうすべきかが不明で状況把握が曖昧な「e. なんとなく」層と切り分けて着目する。

図1 意識状況を考慮した就業分類

2-2. 「とりあえずフリーター」のキャリア心理学的アプローチ

次に,夢を追うこともなく,就職を目指すわけでもない目的意識が不明確な層の多くが「とりあえずフリーター」と指摘するリクルート(2000)を踏まえ,前節の「b. 何が何でもフリーター」「e. なんとなく」という求職型分類をコントロールした上で,不鮮明な理由で正規職を選ばない「とりあえずフリーター」意識の背景要因について限定的に焦点を当てる。

まず,表1は希望進路をフリーターとする者を3つの立場から分類したものであり,夢に対するこだわりの強さや時間割引の影響に違いがみられる。すなわち,夢や希望が比較的鮮明であり,かつ,近い将来の時間割引が大きい肯定派に対して,否定派では正社員不採用や自由時間不足といった現在志向性が強まる。

また,第3の分類である「とりあえず派」については,正規就職に対するマイナスイメージを持ちながらも,自分時間や自由気ままな生活を意図する「積極的フリーター」タイプと「仕方なくフリーター」タイプに大別される。とりわけ,後者では,「やりたいことが見つからない(暗中模索型)」,「夢があっても何から始めればいいのか分からない(足踏み型)」,「就職や進学を目指したが失敗してしまった(結果的にフリーター型)」等が確認されており,とりあえず派の曖昧かつ多様な側面が確認できる。

表1 「希望進路=フリーター」の内訳

2-3. 「とりあえずフリーター」の教育社会学的アプローチ

従来,キャリア選択場面で正規就職が決められない事態に対して,社会的には当事者の意識や性向に原因を求める見方が強かった(乾,2006)。例えば,「とりあえず,いつか,きっと」(上西,2002),あるいは,「いずれは,いつかは,できれば」(小杉,2010)という曖昧な形で事態を先送る優柔不断な姿勢が「とりあえずフリーター」状態を助長するという観点から,移行経路における曖昧な就業意識は危機意識の欠如と捉えられてきた2

併せて,職業能力の蓄積度と将来展望の広がりとの関連から,小杉(2002; 2010)では,「今が楽しければいい」「そのうち,やりたいことも見えてくるはず」という不透明な将来展望のまま曖昧な形で刹那的にやり過ごす非典型就業者については,学校への期待はあるものの役に立たなかったという意識が強いことから,職業能力の獲得機会の喪失と低い自己評定を関連付ける。

すなわち,典型就業者の職業能力水準は学校教育や業務経験の幅に規定されやすい(図2の右矢印の太さで関連性の頑強さを表現できる)一方で,非典型キャリアの者の将来展望と職業能力水準との関係は明らかになっていない3。とりわけ,曖昧な就業・目的意識の非典型就業層(「とりあえずフリーター」層)の自己評定の実態は未だ十分に解明されておらず,学校や職業能力開発機関の機能性を高めるためにも重要な課題である。

図2 典型キャリアと非典型キャリアの分類(概念図)

2-4. 「とりあえずフリーター」に関する7仮説

これまで下位次元構造が十分に解明されていなかった,積極的に正規就業が表明できない者を検討するにあたり,本稿では,「A.目標・やりたいことを持っていたとしても,B.直接的な行動を起こしている人は少なく,C.行動の仕方を理解していない」場合が多いと「とりあえずフリーター」を特徴づけたリクルート(2000)に基づき,上記A~Cの3つを仮説の前提に置く。以下では,この範疇で限定的に仮説設定を行う。

まず,耳塚(2004)による夢や目標に向かって努力するものの,定職に就くことを目標としない「とりあえずフリーター」層が高卒フリーターに顕著であるという指摘を踏まえ,前提Aに基づき,次の3つの帰無仮説を導出する4

  • 仮説 A-1 積極的に正規就業を表明しない者は就業意識が高い

  • 仮説 A-2 積極的に正規就業を表明しない者は「とりあえず正社員」になりたいと思っている

  • 仮説 A-3 積極的に正規就業を表明しない者は自己キャリアに対する希望を持っていない

次いで,「未定・迷っている」という意識状況(労働政策研究・研修機構,2006)は,心理学分野の曖昧さ耐性5(Tolerance of Ambiguity;以下,TA)の概念を導入することにより,分析レベルで把捉可能となる。Lazarus & Folkman(1984)より,曖昧さやストレスを意思決定のプロセス要因と捉えるならば,短期的対処(排除・拒否・無視),もしくは, 中長期的な対処(享受・受容・馴致)のいずれの対処行動をとるかは内発的な動機付けに起因することになる(Budner, 1962; 増田,2004; 西村,2007)。

前者の短期的対処はTAの低さと関連付けられ,無意味なものとして割り切ろうとする「拒否」,あるいは,関わることへの困難さから不安をもたらす(北山・西村,2004)。加えて,高卒フリーターにおける就職と進学の「二重の機会の喪失6」(耳塚,2002)や教育選抜メカニズム(苅谷,2001)を踏まえれば,不本意な状況が行動の不活発性と深く関連することから,前提Bに基づき,次の仮説(帰無仮説)を導く。

  • 仮説 B-1 積極的に正規就業を表明しない者は生活を大きく変えようとしている

また,フリーターによる現実感覚を欠いた職業展望は,希望に向けて努力・行動させる動因になり得ないという見方(耳塚,2002)は,「とりあえずフリーター」の否定的な立場と言える。他方,「とりあえず」に含まれる「最低限の基準を満たす」「十分でない行為にそれなりの意義を認め,後で再び行う予定(意志的行為)」というキャリア選択の連続性を強調する立場(Lent & Brown, 2020)を重要視すれば,「とりあえずフリーター」を肯定的に捉えられる。すなわち,意図的に「不安定な安定化」(中嶌,2013)を図ろうとする積極的要素を勘案し,前提Cを踏まえながら,以下の3つの帰無仮説を提示する。

  • 仮説 C-1 積極的に正規就業を目指さない者には人生のお手本となるようなロールモデルが存在する

  • 仮説 C-2 積極的に正規就業を目指さない者にはこうしていきたいという具体的イメージがある

  • 仮説 C-3 積極的に正規就業を目指さない者は将来のビジョンを持っている

3. 使用データと分析方法

3-1. 調査概要

前章における積極的に正規就業を表明しない層の詳細を実証すべく,アンケート調査を実施した。本稿で使用するデータは,筆者が独自に実施した質問紙調査「若年者(フリーター・ニート)のキャリア形成に関する意識調査(以下,本調査)」により収集したものである。本調査は,2016年7~11月にかけて全国の若者就労支援機関(わかものハローワーク,ジョブカフェ,地域若者サポートステーション,大学キャリアセンター,職業訓練校,フリースクール等)を通じて,学校卒業後の15~44歳の学卒無業者・フリーター・ニート(一部,過去における経験者を含む)を対象に郵送調査を実施した。調査実施の手順は,各種支援機関の窓口担当者に調査対象者へ配付してもらう方法で行った。配付数6,788,有効回答数1,093(有効回答率16.1%)であった。

質問項目は,キャリア選択や働く意識に関するものを大問で20問ほど尋ね,「正規就業以外の働き方を選択した理由」「正規就業への希望の有無」等が主な項目である。なかでも,正規就業以外の就業状況の決定時・決定後・現在の各時点に細分化した質問項目を設けた。

また, 被験者の過去の辛い経験を想起させることに繋がるデリケートな部分も考えられたため,調査実施の際には匿名性の担保を確約し,調査票に調査研究の概要や留意事項を明記した文書を添付する等,倫理的配慮にも十分に努めた。

3-2. 使用データ

本分析では, 厚生労働省の「フリーター」定義に基づき,多様な背景事情が考えられる正規職にない対象者のうち,ニート・無業者(図1の線Yの内部)を除いた層を分析対象とする。というのも,ニート状態の若者を抱える世帯と正規職・非正規職に就いた若者がいる世帯では,親の収入や階層により教育機会(学歴差)が規定される点(小杉,2010)を踏まえると,曖昧な意識で非正規職を目指す心理的要因に着目する本分析を厳密な形で行うためには,当事者自身以外の外的要因の影響を可能な限り排除することが望ましいと考えたからである。

したがって,収集できた15~34歳の調査対象者855件のうち,雇用形態が経営者・フリーランス(6件),非正規公務員(9件),その他(29件),ニート・無業者(514件),および無回答(50件)を除く247件を分析に用いる。

また,フリーターと一口に言っても就業状況は多様である。そこで,アルバイト,派遣・契約・嘱託, パートという3つの雇用形態に分類して,正規職に就かない決定をする時の「とりあえずフリーター」意識について残差分析を行った。表2より,パート層が他群よりも「少しあった」が有意に高く,「ほとんどなかった」が低いことから,現状に至るまでに「とりあえず」意識の影響を最も受けた層であることを確認した。

表2 「とりあえずフリーター」意識の雇用形態別比較(χ2, 残差分析)

3-3. 変数のコーディング方法

また,積極的に希望進路を表明しない曖昧な心理状態の就業意識面への影響に関心を置く本研究では,以下のように「とりあえずフリーター」を限定的に定義する。まず,本調査の「正規職以外の現在の状況を始める時に『とりあえずフリーターでいい』という意識はどの程度ありましたか」という教示文のもと,1「全くなかった」,2「ほとんどなかった」,3「どちらでもない」,4「少しあった」,5「かなりあった」の5件法で回答を求めた。このうち,「4」もしくは「5」の選択者であり,かつ,「絶対正社員になりたかった」(5件法)の「1. 全くなかった」「2. ほとんどなかった」を選んだ者を,本研究では「とりあえずフリーター」層と操作的に定義する。なお,本分析では,統計ソフト STATA/IC15.1を使用する。

4. 推定結果と考察

4-1. 正規職を選ばない理由(主成分分析)

2-2の先行研究サーベイにおける,「とりあえず派」の曖昧かつ多様な主観性を鑑みて,多くの変数の相関関係を少数の説明変数によって集約するために有効な主成分分析を採用する。

また,フリーター全体(N=247)を対象として,各評価尺度段階を得点とするリッカート尺度を用いて数値化し,主成分分析により評価次元を抽出する。正規職に就かない決定をした当初の意識についての質問10項目7について,主成分分析をしたところ,固有値が1.0以上の解は4つ得られ,4因子構造であることが分かった。それらに対応する固有ベクトルを回転させた回転後のベクトルは表3の通りである。各主成分の信頼性係数を求めたところ,第1主成分(「自信喪失」)はα=.701,第2主成分(「夢追求」)はα=.738,第3主成分(「モラトリアム」)はα=.725,第4主成分(「曖昧納得」)はα=.726と許容できる値が得られた。

そこで,個人要因として,主成分ごとに該当する項目数に応じたダミー変数を導入する。例えば,第1主成分であれば「社会で働けるかどうか不安である」「自分のことに自信が持てない」「自分でどうしてよいか分からない」「食うに困らない」のうち,過半数の項目に該当する場合を「1」,半分以下の項目しか該当しない場合を「0」としてポイントを与えることにより,4つの個人要因を表すダミー変数を導入する。すなわち,「自信喪失(第1主成分)」「夢追求(第2主成分)」「モラトリアム(第3主成分)」「曖昧納得(第4主成分)」である。

次に,「とりあえずフリーター」尺度と個人要因として使用する各主成分(①~④)の尺度得点を用いた相関行列を調べた(表4)。まず,主成分得点は各項目の平均と強い相関があることからも,「夢追求(第2主成分)」は各項目どうしの相関性が最も高く,本分析で用いるサンプルの一部で確かに潜在する意識であることが確認できる。しかし,「とりあえずフリーター」尺度との相関性はみられず,本研究で着目する曖昧な就業意識が生じる背景には,「自信喪失」(r=.197),「モラトリアム」(r=.223), および,「曖昧納得」(r=.209)との関連の強さがうかがえた。

表3 正規職に就かない決定をした当初の意識(主成分分析,N = 247)
表4 「とりあえずフリーター」意識と個人要因の関係 (N=247)

4-2. 分散共分散分析による「働くことへの意識」に影響する要因の因果構造モデル

前項で示された4つの個人要因が「とりあえずフリーター」という意識を介して,「働くことへの意識」に与える影響を精緻な形で分析するためには,単に,構成概念を測定するだけではなく,複数の構成概念間の関係を検討することが望ましい。そこで,以下では,正規職に就かない決定をした当初の意識と現在(調査時点)の「働くことへの意識」という事前事後デザインのクロスセクションデータを用いて,Acock(2013)の構造方程式モデリングによる検証を行う。

さて,図3は「とりあえずフリーター」を媒介変数とした個人要因(「自信喪失」「夢追求」「モラトリアム」「曖昧納得」)から「働くことへの意識8」への影響をモデル化したパス・ダイアグラムである。

分析手順として,以下の3ステップで行う。まず,①個人要因→「働くことへの意識」の直接効果の有意性を確認する。次いで,②個人要因→「とりあえずフリーター」,および「とりあえずフリーター」→「働くことへの意識」のパスモデルを作り,パス係数を推定する。さらに,③「とりあえずフリーター」を介在させることで,個人要因→「働くことへの意識」のパス係数の有意性がなくなることで媒介の成立を確認する。また,「働くことへの意識」のA~Hを従属変数とする8つの仮説モデルはいずれもR2= 0.95以上,GFI: 0.90以上,CFI: 0.95以上,RMSEA: 0.05以下であり,データとの高い適合性を有しており,仮説モデルがデータの性質を十分に表現していることを確認した。以下,①~③のステップごとに推定結果を分析する。

図3 「働くことへの意識」を従属変数としたパス解析

ステップ① 個人要因と「働くことへの意識」の関係

まず,個人要因が「働くことへの意識」に与える直接効果を確認する。「A. これからの自分の人生やキャリアに希望はない」へは「自信喪失(b=.26***)」と「夢追求(b=-.20**)」で異符号の影響を及ぼしており,人生やキャリアに希望を見出せないことと自信喪失との関連の深さがうかがえる。

一方,自分のやりたいことや自分らしさを求める夢追求の姿勢は「F. 将来, こうしていきたいという具体的イメージがある」と密接に関連する(b=.10**)。他方,「曖昧納得」が「H. 将来ビジョンを持っている」に負の影響(b=-.21***)をもたらすことから,妥協できる程度の納得感が得られていない場合ほど,現状を打開しようとするインセンティブが働きやすくなり,将来ビジョンを持つ可能性を高めることが推察された。

ステップ② 個人要因と「とりあえずフリーター」,および「とりあえずフリーター」と「働くことへの意識」の関係

次に,個人要因→「とりあえずフリーター」のパス係数から,「夢追求」を除く「自信喪失(b=.09***)」「モラトリアム(b=.18**)」「曖昧納得(b=.14***)」が「とりあえずフリーター」という曖昧な意識に有意な影響を与えていることを確認した(表4の相関関係と同方向であることが再確認できる)。

加えて,「とりあえずフリーター」意識自体がその後の「働くことへの意識」に有意な影響を及ぼすことも示された。すなわち,「C. あまり頑張って働かず, のんびりと暮らしたい(b=.23***)」への正効果より,正規職に対するこだわりが少ない曖昧な就業意識と不活発な消極性との関連が認められるため,仮説A-1を棄却する。

さらに,「とりあえずフリーター」から「D. 生活を大きく変えたい(b=-.27***)」への負効果より,仮説B-1も棄却できる。同様に,「G. 人生においてお手本となるようなロールモデルが存在する(b=-.19***)」からは,正規職を選択しない曖昧意識とロールモデルの不在との関連性がみられるため,仮説C-1を棄却する。

他方,「とりあえずフリーター」から「E. とりあえず正社員になりたい」(b=-.06)への有意性は認められなかったため,仮説A-2は不支持とする。ここでは,「とりあえず正社員」という,多様な解釈が可能な「とりあえず」尺度を直接用いたことが,有意な結果を導き出せなかった一因と考えられる9

ステップ③ 「とりあえずフリーター」の介在効果

しかしながら,上記ステップ①・②では有意性が示されながらも,「とりあえずフリーター」を介在させることで「個人要因」→「働くことへの意識」のパス係数の有意性が失われたものが3つあった(A・F・H)。すなわち,「自信喪失」→「A. これからの自分の人生やキャリアに希望はない(b=.26***)」の有意性の消失(b=.11)からは,自信を失ったまま「とりあえず」の状態でフリーターを続ける人が必ずしも希望を持っていないとは言い切れないという解釈ができる(仮説A-3を棄却)。ここでの解釈より,厳しい現実に対する「とりあえず」という曖昧な態度・姿勢は,事態の決着や収束を急がず,完全に夢や希望を失墜することを回避する防波線としての機能を果たす可能性が示唆された。

また,「夢追求」→「F. 将来, こうしていきたいという具体的イメージがある(b=.10***)」における「とりあえずフリーター」の介在による有意性の消失(b=-.13)より,現実感覚を欠く職業希望や夢の実現のために「とりあえず」意識で漠然とフリーター生活を続けることは,キャリアイメージを不鮮明にする影響をもたらすと解釈できるため,仮説C-2を棄却する。

さらに,「曖昧納得」→「H. 将来ビジョンを持っている」の負効果の有効性が「とりあえずフリーター」の介在により消失した(b=-.21*** →b= -.06)。すなわち,この結果より,妥協的に納得しながら「とりあえず」の気持ちでフリーター生活を続けることは,将来ビジョンを持ちづらくするとは限らない。その一方で,「とりあえずフリーター」から「H. 将来ビジョンを持っている」への有意性は認められなかったため,仮説C-3も不支持とする。

ここでのF・Hの介在効果を総合すると,「とりあえず」意識でフリーター生活に突入することはキャリアイメージの具体化に有効と断定できないものの,立場・境遇にある程度納得している現実感覚を持つ者の自己キャリアの思い描きに対しては,必ずしも消極的な面ばかりではない可能性が示唆された。この解釈は,フリーター・ニートである若者の主観が置かれた状況自体の影響を受けやすいとした乾(2006)とも矛盾しない。

5. おわりに

以上,本稿では,高校卒業時点での希望進路を「フリーター」とするような,従来型の進路指導・キャリア教育が通用しにくい若年層の階層的な実態把握が十分ではない現状を鑑みて,曖昧さや不確実性を伴う新規学卒時点で積極的に正規希望を表明しない層の内的要因や心理構造について,「とりあえずフリーター」という尺度に基づき概念構造分析を行った。とりわけ,積極的に自己キャリアに対する意思表明を示さない理由の不明確さという, 従来あまり把捉されなかった観点に着目し,「とりあえずフリーター」を個人要因と「働くことへの意識」の間に介在させた構造方程式モデリングによる検証を行った。その結果,以下の4つの知見を得ることができた。

第一に,従来,「『やりたいこと』をやるという主観性を持つ層」(下村, 2002)と特徴付けられてきた対象群(フリーター)に対して,本研究では「やりたいこと」をうまく表明できない層という新たな視座から照射し,さまざまな個人要因の中から「自信喪失」「夢追求」「モラトリアム」「曖昧納得」という4つの主成分を抽出し,それらと働くことへの消極性との関連付けを行った(仮説A-1の帰無仮説を棄却)。

第二に,「未定・迷っている」(労働政策研究・研修機構, 2006)という意識状況に関して,曖昧さ耐性(TA)概念に基づいた仮説検証より,生活を大きく変えようとせず(仮説B-1:棄却),「とりあえず正社員になりたい」という意識も乏しい(仮説A-2:棄却)という特徴が明らかとなった。

第三に,現実感覚を欠く職業展望(耳塚,2002)とは異なる,「とりあえずフリーター」のキャリアの連続性を重視する立場(Lent & Brown, 2020)に基づいた仮説検証からは,曖昧な形のキャリア選択を回避したり,自己キャリアに対する当事者意識を高めるために,ロールモデルの存在が鍵になることが判明した(仮説C-1:棄却)。

第四番目の知見は,分散共分散分析によるパス解析を通して得られた(図3)。すなわち,個人要因から「働くことへの意識」の直接効果の推定(ステップ①),個人要因から「とりあえずフリーター」,および「とりあえずフリーター」から「働くことへの意識」のパス係数の推定(ステップ②)を行った上で,「とりあえずフリーター」を介在させることでステップ①のパス係数の有意性消失により媒介の成立を確認する方法(ステップ③)を採用した。その結果,自信を喪失したまま「とりあえず」の状態でフリーター生活を続ける者が完全に希望を失っているわけではないという解釈が可能であった(仮説A-3:棄却)。つまり,そこでは,「とりあえず」の姿勢を取りながら困難を乗り越えるための態勢を整えようとする前向きな意図が汲み取れた。反面,現実感覚を欠いた夢の実現のために「とりあえず」意識で漠然とフリーター生活を継続することは,キャリア形成の具体化にとって悪影響をもたらす可能性が高まることも示された(仮説C-2・仮説C-3を共に棄却)。

本稿における正規就業を積極的に表明せず,「とりあえずフリーター」という不明確な動機の因果構造の分析を通して,一見,曖昧かつ不明確な志向性の中に,自己回顧の機会を提供し,行動実践を誘発する可能性を高めるという側面を見出すことができた。しかしながら,「とりあえずフリーター」尺度について,個人要因と就業意識の関連から実証を試みた本研究において,改善すべき検討課題も少なくない。

第一に,本研究では労働供給側の要因に限定し,事前事後モデルで仮説検証を行ったが,アルバイト・パート先の就労状況や非典型就業者に対する人材育成・教育訓練等の労働需要サイドの事情を考慮した研究デザインによるさらなる詳細な検討が求められる。

第二に,社会調査データのデザインについては,本研究ではクロスセクションデータを採用したが,仮に,消極的に一時的な猶予期間を置くために「とりあえずフリーター」を選択した者が積極的な姿勢・立場に転じるような場合の効果出現のタイミングまで詳解されていない。この点については,個人の発達的変化を複数時点で追跡する縦断的デザインが望ましい。個人差の検討をするためのリサーチデザインを含めた改善課題である。

第三に,分析上の課題として,本研究では「とりあえずフリーターでいい(5ランクの「4. 少しあった」・「5. かなりあった」)」と「絶対正社員になりたかった(5ランクの「1. 全くなかった」・「2. ほとんどなかった」)」の2つの項目の掛け合わせにより「とりあえずフリーター」尺度を定義した。しかし,2-1で論理学的アプローチから考察した通り,「フリーター(非典型就業)」と「正社員(典型就業)」は必ずしも対称な関係性にあるとは限らず,両者を同格レベルで扱うことの妥当性についても議論の余地が残される。

以上の結果を基に,従来の公式統計では捉え切れなかった就職困難層への支援策として,当事者性を十分配慮した実践的な方策を追究していくことを今後の課題としたい。

(筆者=千葉経済大学経済学部教授)

【注】
1  そもそも就労を望まない「非求職型・非希望型」「働く意欲なし」層については,図1の線Yより内部の同心円上に示す。

2  社会人アルバイトについては,3年後の実現していたい働き方としては強く望まれない反面,「とりあえず今, この仕事(非正規)を続けるか」という問いに対しては男性4割,女性5割が賛同する(上西,2002)。

3  無業者では職業能力の自己評価が低く,無業期間の長さに応じて低下することが小杉(2010)により明かされている。

4  「フリーターでいいや」という意識の背景には,“精神的その日暮らし”があり,当事者の取組み姿勢や能力が劣るばかりでなく,親の認識の甘さもうかがえる(リクルート,2000)。

5  曖昧な状況をどれだけ許容できるかを表す特性のことであり,外部事象から受ける刺激に対する反応の曖昧さを個人差とみなす概念である(Frenkel-Brunswik, 1949)。

6  逼迫した高卒労働市場の下,就職未決定の者が大学進学に耐え得るだけの経済力に乏しい家庭の出身者である場合,進学機会までも奪われてしまうという事態のことを指す(耳塚,2002)。

7  質問項目は下村(2002)を参照しており,各質問の信頼度については,Test scale(クロンバックのαα=.79であり,項目の信頼度は確保されていると判断した。

8  図3における共分散より,「B. できることなら仕事はしたくない」と考える消極性は「C. あまり頑張って働かず, のんびりと暮らしたい」(Cov(B,C)=.110)という逼迫感がない就業意識と関連が強く,「D. 生活を大きく変えたい」(Cov(C,D)=-.028)という発想には至りにくい。一方,「F. 将来, こうしていきたいという具体的イメージがある」という積極さの背景には,「G. 人生においてお手本となるようなロールモデルが存在する」(Cov(F,G)=.026),あるいは「H. 将来ビジョンを持っている」(Cov(G,H)=.073)場合が多いことも示された。

9  被験者(回答者)の主観・判断が加わって回答が導かれるような質問設定は,質問者の意図通りに回答が得られる保証はないため望ましいとは言えず,本調査の限界である。

【参考文献】
 
© 2021 Japan Society of Human Resource Management
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