水文・水資源学会研究発表会要旨集
水文・水資源学会/日本水文科学会 2023年度研究発表会
セッションID: OP-2-04
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口頭発表(一般セッション)
北東シベリア・コリマ川における河川水質の年々変動: 気象データ解析から示唆されるエドマ層融解の可能性
*田代 悠人檜山 哲哉金森 大成朴 昊澤鈴木 和良
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抄録

温暖化の影響により、北極圏では永久凍土の融解が急速に進行している。永久凍土の融解は陸域の水循環や物質循環に影響し、湖沼や河川の水質変化、さらには河川から海洋への物質流出量の変化につながると考えられている。永久凍土の融解が物質循環に及ぼす影響を理解する際、長期の河川水質データが有益である。しかしながら、長期の河川水質データは主に河口付近で得られたものであり、水質変化が広大な流域内の“どこの”永久凍土融解に起因するのか特定するのは困難である。特にシベリア域においては流域内部の河川水質や永久凍土融解に関する知見が不足しており、長期の河川水質データだけでは永久凍土融解による物質循環の変化を検知することは難しい。そこで本研究では、研究事例が少ないコリマ川を対象に、河川水質に加え流域内の気温および降水量の長期変動(1980年-2020年)を解析した。コリマ川の河川水質の長期変動を明らかにし、気温および降水量の長期変動との関係を調べることで、水質変動に大きく関わる永久凍土融解の場所の特定を試みた。解析の結果、コリマ川ではCa2+、Mg2+、SO42-の年平均濃度が有意に増加していた。年平均気温は流域全体で増加しており、特にエドマが分布する流域北側のコリマ低地で顕著だった。年降水量も流域全体で増加傾向にあり、気温同様にコリマ低地で顕著な増加が確認された。水質・気温・降水量の年々変動間の相関を調べた結果、Ca2+、Mg2+、SO42-の年平均濃度は流域北側の年平均気温と高い相関関係にあり、特にエドマが分布するコリマ低地で最も高い相関を示した。この結果は、コリマ川のCa2+、Mg2+、SO42-濃度増加はコリマ低地の気温上昇に大きく関与していることを示唆する。すなわち温暖化によるエドマ融解は鉱物類の可動化と風化作用を促進させ、加えて同地域の降水量増加が土壌から河川へのCa2+、Mg2+、SO42-流出量を増大させることで、コリマ川のCa2+、Mg2+、SO42-濃度が上昇傾向にあると推測された。

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