水文・水資源学会研究発表会要旨集
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研究グループ報告
  • 中村 晋一郎, 飯山 佳子, 勝山 正則, 木村 匡臣, 久保田 富次郎, 田中 智大, 吉田 武郎
    セッションID: G-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    国際水文科学会(IAHS)では,設立100周年を迎えた2023年,これまでの水文学の発展の歴史を整理する作業部会を設置し,世界中の水文学に関する歴史の収集と統合を開始した.日本でもこれまで,水文学に関する研究・教育が行われ,日本の水資源管理への貢献のみならず,世界の水文学の発展にも大きく寄与してきた.日本の水文学の歴史を整理・発信し,世界の水文学の歴史に位置付けることは,日本の水文学の発展を振り返り,これからの水文学のあり方を展望するうえで極めて重要である.そこで本研究グループでは,これまでの日本の水文学の歴史を整理・体系化し,その成果をIAHS作業部会を通して国際的なコミュニティーへ発信することを目的として設置された.

     本研究会では2回の研究会を実施し,メールによる議論を継続しつつ,ファイル共有ソフト等を活用しながら年表の整理及び論文の執筆を行った.また,水文学が日本で初めて登場した経緯や時期については,これまで体系だった調査が実施されていないことから,本研究会において独自の史料調査と分析を実施した.以上の議論と年表を通して,日本の水文学の発達過程を整理し「Emergence and developments in hydrology -Suimongaku- in Japan from the late 19th century to 1970」と題した論文をHydrological Sciences Journal誌の特集号「History of Hydrology」へと投稿した.本論文では日本の水文学は,水問題の解決に取り組むことによって水文学の急速な導入と応用が加速したこと,第二次世界大戦後,実用的な社会的要求と米国の影響力によって,水文学の体系化と方法論の構築が進んだことなどを指摘した.最後に,水文学の世界的発展における重要な地域的背景を浮き彫りにし,水文学の発展についての理解を深めるために,国境や地域を越えたさらなる比較研究の重要性を強調した.

     今年度の活動では,日本に水文学が導入されてから1970年までを対象に調査・分析を行った.よって今後は,1970年以降を対象に,年表の整理と海外との比較を実施していく予定である.

  • 綿貫 翔, 渡部 哲史, 丸谷 靖幸, 田中 智大, 岡地 寛季, 塩尻 大也, 武藤 裕花, 松浦 拓哉, 大屋 祐太
    セッションID: G-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    WACCA(Water-Associated Community toward Collaborative Achievements)は水文・水資源分野を中心とした分野融合,産官学連携の核となる実践活動の場であり,水文・水資源学に関わる若手~中堅の研究者・技術者のコミュニティとして,2014年の設立からこれまで年に数回の頻度で勉強会や見学会を実施してきた.2019年度(COVID-19)以前では学官民からの講演および幅広い業種からの参加者間で討論会(WACCA 9th meeting),学官民連携プロジェクトの立案に向けた討論会(WACCA 10th meeting,以降,10thMTG)のようなオフラインでの活動を実施してきた.2020年度以降はオフライン会合の制限により,オンラインでの活動を余儀なくされ,Zoom等のツールを活用して,活動を継続してきた.COVID-19が5類に移行された現在においては,オンラインの利便性を享受する一方で,オンラインでは雑談や踏み込んだ質問がしにくいといった声もあった.そこで,本年度の活動においては,オフラインでの活動に主眼を置き,10thMTG以来,5年ぶりにオフラインでの会合を実施した.本稿では,その活動報告及び会合時に計画した現地調査会(8月8日~9日を予定)の概要について報告する.

    さらに,本年度ではWACCAの次世代グループについて検討するNext WACCA Projectを立ち上げた.その活動及び今後の活動方針について報告する.

口頭発表 「気候変動・地球環境」
  • 岡田 睦巳, 仲 ゆかり, 中北 英一
    セッションID: OS-01-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    停滞前線に伴う線状対流系は局所的かつ猛烈な雨により深刻な災害をもたらし,地球温暖化進行に伴う将来変化が危惧される.本研究では,豪雨災害に強靭な国づくりに有用な情報の獲得を目指し,高解像度かつ膨大なサンプル数を特徴とする5km解像度の領域気候モデル実験d4PDFを用いて,線状対流系の再現程度の確認と将来変化予測を行った。解析の結果,再現性については,平成29年7月九州北部豪雨や平成26年8月広島豪雨を始めとした過去実際に発生した様々な線状対流系の重要事例と類似した現象を,5km解像度のd4PDFにおいて良好に再現可能なことが確認できた。将来変化については,温暖化の進行に伴い線状対流系の様々な指標が,災害の危険性が増加する方向へと変化することが分かった.

  • 山地 秀幸, 竹下 哲也
    セッションID: OS-01-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    気候変動の影響により降雨量が増大し洪水被害の激甚化が懸念されていることを踏まえ,国土技術政策総合研究所では,アンサンブル気候予測データを用いて現在気候と将来気候との降雨量の比(以下,降雨量変化倍率)を算出している.降雨量変化倍率は,1降雨イベントにおける総降雨量に着目した指標であるが,総降雨量が同程度であっても,短期集中型の雨や局所集中型の雨などの降雨の時空間分布の違いによっては,本川だけでなく支川の沿川や一部の集水域において,より大きな洪水被害をもたらす懸念がある.また,河川整備基本方針を改定する際,過去の実績降雨データやアンサンブル気候予測データを参照し,様々な降雨の時空間分布を確認する作業が行われているが,膨大な降雨データから降雨の時空間分布を分析することは,河川整備基本方針等の治水計画の検討作業の難易度を高めている.以上の背景のもと,本研究では,膨大な降雨データから,洪水対策の対象とすべき降雨の時空間分布の特徴を効率的に把握するために,気候変動適応技術社会実装プログラム(SI-CAT)によって作成された大気近未来予測力学的ダウンスケーリングデータ(東北から九州)を用いて,自己組織化マップによる降雨の時空間分布の分類を実施した.具体的には,上記のデータのうち2℃上昇実験のデータを用いて,年最大の流域平均雨量をもたらす降雨イベントを抽出した.次に,自己組織化マップにより,各降雨イベントの時空間分布に関するデータ(時間×空間×降雨量の3次元データ)を学習させた後,k-means法によるクラスター解析を実施した.また,最適なクラスター数の決定にはシルエット法を適用した.筑後川流域を対象に,自己組織化マップを用いて2℃上昇実験における年最大の流域平均雨量をもたらす降雨イベントの分類を実施したところ,時空間分布の特徴が類似する4つのクラスターに分類できた.今後は,全国5kmアンサンブル気候予測データなど他のアンサンブル気候予測データを用いたり,流域特性の異なる他の水系を対象に,同様の分析を実施することで,本手法の適用可能性や改善方法を検討する予定である.

  • 山崎 剛, 鈴木 真一, 川瀬 宏明, 橋本 健
    セッションID: OS-01-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    全国5km大規模地域気候アンサンブルシミュレーションデータにより,極端な降雪などを調べた.極端な降雪時の日降雪量は,高標高域や東海地方で増加,多くの平野や沿岸部で減少する予測となった.日降雪量の累積頻度分布では多くの地点で大雪の頻度は減るが,名古屋や札幌で低頻度ながら極端な大雪の可能性が示された.大雪時の気圧配置は関東と北海道東部以外で西高東低の割合が増加する予測となった.

  • 花崎 直太, 梶山 青春, 髙橋 悠我, 佐々木 織江, 鼎 信次郎
    セッションID: OS-01-04
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    全球水循環モデルは自然の水循環と人間の水管理・水利用の諸要素を時空間詳細に定量的に推定することができる。近年、同モデルの空間分解能が大幅に高まり、世界の主要な都市が浮かび上がるようになってきたが、上下水道網等を有するなどの都市特有の水循環を表現するアルゴリズムはまだ導入されていない。そこで、入手可能なグローバルデータを用いて、全球水循環モデルに導入可能な都市給排水アルゴリズムの開発を行い、東京をはじめとする世界の数都市に適用した結果を報告する。

  • 髙田 亜沙里, 吉田 武郎, 石郷岡 康史, 丸山 篤志, 工藤 亮治
    セッションID: OS-01-05
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    気候変動に対して脆弱な農業分野においては,様々な適応策が提案されている.有効な適応策でも,気候変動下で生じ得る制約や社会に内在する要因(行政,制度,政策など)が潜在的な障壁となってその実施が難しくなる場合がある.このような状況をIPCC第6次評価報告書では「ソフトな適応限界」と呼んでいる.Takada et al.(2024)は水稲生産の高温障害に対するソフトな適応限界を予測する枠組みを構築した.その枠組みでは,気候変動シナリオを入力値として水稲生育モデルと分布型水循環モデルによる解析を行い,高温障害による水稲の品質低下を移植日の変更により回避する行動(以下,適応策)と河川の渇水流量の関係に基づき,適応策への制限要因を低水管理の観点から評価した.この枠組みを信濃川流域に適用した結果,水稲の移植日変更という適応策は2030年までにソフトな適応限界に直面する可能性を示した.本稿では,Takada et al.(2024)の枠組みの詳細を紹介するとともに,その評価対象を利水基準点から下流域全体に拡張し,下流の河川流況の悪化がソフトな適応限界に繋がる可能性について検討した.

口頭発表 「降水」
  • 西村 太一, 山口 弘誠, 中北 英一
    セッションID: OS-02-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    局地的豪雨(ゲリラ豪雨)は時間・空間スケールが小さいため、予測は容易ではなく、近年日本の都市に甚大な被害をもたらしている。加えて、地球温暖化が進む中、豪雨の甚大化が懸念されている。そこで、災害規模となりうる豪雨を人工的に抑制することによる豪雨抑制が期待されている。本研究では2008年神戸都賀川豪雨をLESを用いて模擬し、さらに地表面付近の風速場を東西・南北それぞれを操作することで豪雨に与える影響を評価することを目的とする。そして、その風速場操作の位置、領域の大きさをそれぞれ変化させた際の感度についても解析する。

    その結果、東西風の風速場操作においては上昇流がもたらす温位偏差と気流収束の位置ずれ、南北風の風速場操作においては北側からの冷気外出流に伴う上昇流の進行を抑制したことが豪雨抑制につながることがわかった。

  • 西村 将真, 山口 弘誠, 中北 英一
    セッションID: OS-02-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    近年,甚大な被害を及ぼす豪雨災害が頻発しており,そのうちの一つが線状対流系豪雨である.激甚化する豪雨災害の被害を抑える新たな方策として気象制御が期待される.本研究では,線状対流系豪雨を対象として,雨域の風上側の風速場を操作することで,降雨量を抑制することが可能かどうかを数値シミュレーションで検討することを目的とする.豪雨の数値計算にはメソ気象モデルCReSS(Tsuboki, 2023)を用いた。豪雨に対して風上側の水蒸気流入経路上において風速場操作を行い、豪雨抑制シミュレーションを行った。

    山口ら(2018)におけるメソ気象モデルCReSS を用いた再現実験結果を“操作なし実験”とし,これに対して風速場操作実験を行った.なお,水平解像度は1kmとした.本研究では風速場操作の具体的なデバイスとして,洋上カーテンを想定する.洋上カーテンを模擬する計算スキームとして,内田ら(2020)が開発した風車の抵抗体スキームを採用し,幅1km×高さ1kmの大きさを設定した.豪雨の水蒸気流入経路上に洋上カーテンを設置するため,豪雨開始地点をスタートとする後方流跡線追跡を行った.その結果に合わせて風速場操作位置を,東西方向にずらした16パターン,鉛直方向にずらした3パターン(下層;650-1450m,中層;1250-2080m,上層;1860-2750m)の計48パターンを用意した。

    その結果、豪雨が最大で約35%弱まる可能性があることが示された。さらに、洋上カーテンの設置高度や水平位置を変化させた感度実験を行った結果、豪雨抑制効果は-35%~+15%の幅があった。感度実験の結果を詳しく分析すると、雨域発生位置に近い場所の方が直接的に働きかけるので変化傾向が大きいと見込んでいたが,そうではなくある程度距離が離れた位置に設置する方が大きな抑制効果を示したケースも多かった.ただし,大きな抑制効果があった隣の位置では逆に促進して雨量が増えてしまうケースも確認された。3時間積算雨量を分析すると、強雨域の強度が分散し,弱い雨域が風下側や南北に広がったことで豪雨の一箇所集中を緩和することが示唆された.48 ケースの内,領域最大値と領域平均値がともに減少した結果が26 ケース存在することが確認され、平均的にも風速場操作に豪雨抑制効果があることが示された。

  • 武藤 裕花, 小槻 峻司
    セッションID: OS-02-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    本研究では、局所アンサンブル変換カルマンフィルター(LETKF)のアルゴリズムを用いた上で、気候学的な第一推定値とその誤差共分散を再解析降水量データERA5から構築することで、地上雨量計観測から全球降水量分布を推定する新たな手法を提案する。なお、観測値の入力値としては、米国海洋大気庁気候予測センター(NOAA CPC)が提供する雨量計観測を用いた。独立した雨量計観測を参照とした検証の結果、本研究の手法はNOAA CPCによる既存の推定法(Optimal Interpolation)よりも優位であることが示唆された。さらに本研究の手法は、山間部や雨量計密度の低い地域で特に有効であることが示された。本研究の結果から、数値予報モデル由来のデータを用いて、物理的な関係性を考慮した第一推測値およびその誤差分散を構築することが、降水量の空間内挿に有効であることが明らかになった。

  • 土屋 日菜, 松山 洋
    セッションID: OS-02-04
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    近年,日本で線状降水帯により洪水や土砂災害が発生し多くの被害が発生している.気象庁では2021年より線状降水帯の発生を知らせる「顕著な大雨に関する情報」の発表を開始したが,線状降水帯の研究は,目的的・主観的に閾値が決定されている(津口・加藤 2014).そのため本研究では,地球統計学の手法の1つであるバリオグラムを用いて,線状降水帯の閾値を定量的に検討することを目的とした.

    本研究では,対象事例をHirockawa et al.2020との比較をおこなうため,平成29年7月九州北部豪雨の発生した2017年7月7日2時から7時の5時間と,2022年に気象庁より「顕著な大雨に関する情報」が発表された17事例とした.解析雨量5kmメッシュのデータを用い,バリオグラムを方向別に計算し,空間代表性を表す距離を示すレンジを求め,レンジの最も長い距離を線状降水帯の長軸,最も短いものを短軸とし,線状降水帯の長軸・短軸比を求めた.その結果,平成29年九州北部豪雨では降水量の閾値を設けない場合,長軸・短軸比は2.41となり先行研究よりも小さな値をとった.このことから,対象範囲内に線状降水帯と考えられる強雨域以外にも周囲の弱いエコーが含まれる場合,範囲内に見られたすべての降水エコーに対して方向別バリオグラムを計算すると,線状降水帯を代表する長軸・短軸比が得られず,長軸・短軸比が小さな値を示す可能性があることが分かった.そのため,降水量の閾値10mm/3hから100mm/3hっまで設け再度計算を行った結果,閾値を大きくすると長軸・短軸比の値は大きくなる傾向があった.

    2022年に「顕著な大雨に関する情報」が発表された事例についても同様に計算を行い,気象庁より発表された値とのRMSEを計算すると,80mm/3hで最も気象庁より発表された値と近くなることが分かった.しかし,それぞれの事例を見てみると,特に台風の事例では閾値を設けても気象庁より発表された値を大きく下回った.その原因は,対象範囲内に台風による線状降水帯とされる降水エコー以外の強雨域も含まれていることだと考えられる.このことから,対象範囲の更なる検討が必要であるという課題が明らかになった.

  • 岩本 蘭丸, 田中 賢治, 萬 和明, 峠 嘉哉, 梶川 義幸
    セッションID: OS-02-05
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    インドの雨季の始まりであるインド夏季モンスーンオンセットの年々変動は何によって決定されるのか。先行研究では、オンセットの時期を決める主な要素として、チベット高原を含む大陸の加熱や、活発なマッデンジュリアン振動による季節内振動が挙げられている。そこで、本研究ではその二つの要素がどの程度モンスーンオンセットの日付と関連しているのかを明らかにすることを目的に1979~2020の42年間のデータを用いて、解析を行った。“大陸の加熱“はチベット高原を含んだ広域の大陸(20-40N, 50-100E)における200hPa-500hPaのジオポテンシャル高度の差、MJOはNOAAのthe OLR Monsoon Indexを用いて表した。その結果、モンスーンオンセットの日付と、大陸の加熱が十分となった日付の相関係数は0.61であった。そして、2つの日付に10日以上のずれがあった年には、すべてMJOによる対流抑制効果がインド南部にかかっている位相であるという共通の特徴が見られた。それらはすべて大陸加熱に対してオンセットが遅れた事例であり、大陸加熱に対してオンセットが大幅に先行する事例は存在しなかった。これは、モンスーンオンセットは大陸加熱が十分かつ、インドにMJOによる対流抑制効果が存在しない場合に発生することを示している。

    そこで、オンセットが早い年と遅い年における、大陸加熱十分の日付の決定要因について、地表面状態について着目した。すると、オンセットが早い年に対して遅い年は、2月中旬から7月にかけてチベット高原の積雪深が深い傾向にあることが分かった。

口頭発表 「プロポーズドセッション 電波水文学」
  • 可知 美佐子, 久保田 拓志
    セッションID: OS-03-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    衛星観測の大きな利点は、地球上のほとんどの場所を、同じ時間間隔で、同様の正確さで見ることができることにある。JAXAが現在運用する6機の地球観測ミッションのうち、3つのミッションが、災害対応や水循環・気候変動の把握や解明の目的で、様々な状態の水に感度のあるマイクロ波の波長帯を持つ測器を搭載している。マイクロ波放射計は、雲の中、あるいは、雲を透過した海面・地表面の水に関する物理量を観測可能である.JAXAではGCOM-W/AMSR2等のマイクロ波放射計による降水観測と、静止気象衛星による雲の移動情報を複合することで、0.1度格子・1時間単位の衛星全球降水マップ(GSMaP)の画像とデータをリアルタイムで提供しており、気象や防災など、様々な分野で幅広く利用されている。二周波降水レーダは大気中の雨や雪の三次元構造を観測可能であるほか、マイクロ波放射計の基準器となって、降水の立体構造や特性等の重要な情報を提供し、降水推定精度の向上に貢献している。日欧合同ミッションのEarthCAREに搭載予定のCPRは衛星搭載用ミリ波レーダとして世界初のドップラー速度計測機能を持ち、雲の鉛直構造の観測に加えて、雲の上昇下降といった動きも観測できることが大きな特徴である。合成開口レーダは、世界的にはXバンドやCバンドを採用している場合がほとんどであるが、波長の長いLバンドは木の枝葉等の細かい構造を一部通過することから、日本のように植生や険しい地形が多い地域の地表面観測に適している。最近では、衛星と陸モデルを融合した陸域シミュレーションであるToday’s Earthによる洪水予測とALOS-2搭載のLバンド合成開口レーダの組み合わせによる自動処理システムの開発や実装も進んでいる。JAXAの地球観測において、災害対策と気候変動・水循環監視は重要な出口として位置付けられている。日本のマイクロ波センサは、20年以上に渡って、世界的にみても、日本が高い技術的優位性を保持している。さらに今後も後継ミッションが打上げ予定である。

  • 瀬戸 里枝
    セッションID: OS-03-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    地球上の様々な水を広域かつ継続的に観測できる衛星マイクロ波の周波数特性を使って、陸面とその上の大気・雲の推定を行い、降水予測モデルに同化するシステムを開発し、その評価を行った。結果、雲水量の推定では、これまで標準プロダクトが得られなかった陸域についても、妥当な雲水量を推定できた。また、液相と固相を分けて推定することが可能となり、雲水量データの不確実性の低減につながることが期待できる。降水予測では、陸域の雲が含む降水域の情報を効果的に取り込むことで、河川流域スケールの降水予測が顕著に改善した。また、マイクロ波イメージャーを搭載する小型衛星が今後増えることを見据えて行ったOSSEでは、小型マイクロ波衛星群の観測データの降水予測の効果が示されたことに加えて、衛星群の構成が降水予測精度に大きな影響を及ぼすことが示唆された。

  • Amalia Wijayanti, 阿部 紫織, 中村 要介
    セッションID: OS-03-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    In Indonesia 75.7 million people are exposed to high flood risk. Flood model in Indonesia is limited due to the unavailability of adequate information. Precipitation data is one of the key aspects for flood modelling, but the gauge rainfall observation only covers a limited area. This study aims to investigate the possibility of global precipitation data in determining the RRI Model parameters and to understand most suitable rainfall product in area with insufficient gauge observations. We compare two global precipitation datasets, GSMaP and ERA5, with rain gauges from 57 stations. The global precipitation data still have low correlation for flood modeling. Although both GSMaP and ERA5 are still unable to represent the rainfall distribution, ERA5 is proven to have lower error, performed better correlation, and resulted in better discharge prediction. ERA5 might have the potential to be utilized for parameter optimization in watersheds with insufficient ground rainfall observations.

  • 内海 信幸, 大羽 晃貴, Liu Guosheng, Turk Francis
    セッションID: OS-03-04
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    人工衛星搭載のマイクロ波放射計を用いた降雪リトリーバルでの利用を念頭に、晴天輝度温度(雲や降雪の影響を除いた場合の仮想的な輝度温度)の推定手法を検討した。GPM主衛星搭載のマイクロ波放射計GMIの観測輝度温度を使用し、以下の3つの手法を評価した。(1)地表面射出率の気候値と放射伝達モデルを用いた手法: 地表面射出率の気候値(TELSEM2)と放射伝達モデル(RTTOV)を組み合わせて、リトリーバル時の晴天輝度温度を計算する。(2)晴天輝度温度の気候値を利用する手法: GMIの長期間の晴天時観測データから月別の気候値マップを作成し、降雪リトリーバル時の晴天輝度温度として利用する。(3)動的射出率マップと経験的モデルを用いる手法: 動的に更新される地表面射出率マップと経験的輝度温度推定モデルを利用して降雪リトリーバル時の晴天輝度温度を推定する。各手法の精度を比較した結果、10GHz~89GHzの範囲では手法(3)が最も高精度であり、166GHz以上の高周波では手法(1)と(3)が同程度の精度を示した。手法(2)と比較して、手法(1)と(3)は良好な推定結果を示した。

  • 瀬戸 心太, 山崎 大, 久保田 拓志, 山本 晃輔
    セッションID: OS-03-05
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    電波(マイクロ波)を利用したリモートセンシングは,現代の水文学に不可欠である.降水については,地上設置の気象レーダと衛星搭載センサ(レーダ,マイクロ波放射計)による観測が大きく発展し,河川管理などの水文関連分野で広く使われている.今後,マイクロ波リモートセンシングの利用が特に期待される水文量として地表水と河川水があげられる.地表水の観測は,洪水氾濫の監視に有用であるだけでなく,水田の湛水状況や湖の面積変動などの推定を通して水資源管理にも役立つ.河川水の観測は,リモートセンシングによる河川流量の計測が大きな目標である.これが実現すれば,空間的に偏在していた河川流量の観測データの利便性を大きく改善することができる.本発表では,地表水と河川水のマイクロ波リモートセンシングについてのレビューと最新の研究を紹介する.

口頭発表 「森林水文・土壌水分」
  • 村上 茂樹
    セッションID: OS-04-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    1.はじめに

    森林に降った雨の一部は枝葉(樹冠)によって遮られ、地表面に到達せずに蒸発する。この現象を遮断蒸発(または樹冠遮断、遮断損失)と呼ぶ。遮断蒸発(CI)は林外雨(GR)と林内雨の差として測定される。林内雨は樹冠通過雨(TF)と樹幹流(SF)の和である。村上・北村(2023) は平均樹高9.5mのスギ林で地上高0.8mと3.8mの林内雨を測定し、降雨に占める遮断蒸発の割合(CI/GR)が高さ0.8mでは24.7%、高さ3.8mでは5.9%であるとした。これは遮断蒸発の大部分が飛沫蒸発によって生じることを示している。本研究では、村上・北村(2023)と同じスギ林で高さ2.8mの林内雨を追加測定した結果を報告する。

    2.方法

    GRは露場で測定した。TFの測定は地上高0.8m、2.8m、3.8mの3高度で行った。SFは0.8mと3.8mの2高度において測定した。高さ2.8mの林内雨は、高さ2.8mのTFと高さ3.8mのSFの和とした。測定期間は3ヶ月間である。

    3.結果

    測定期間中のGRは合計で499.0mmであった。CI0.8は107.4mmであったのに対し、CI2.8は-13.0mm、CI3.8/GRは-12.5mmといずれも測定誤差により負の値となった(添字は測定高度(m))。これらの値は村上・北村(2023)の測定値と比較しても小さい。この原因は、測定期間中の2回の大雨がいずれも強風をともなったことから、雨量計の補足率が低下したためと考えられる。TF0.8 は199.3mm 、TF2.8は299.8mm、TF3.8は299.4mmであった。一方、SF0.8は192.4mm、SF3.8は212.2mmで、ほぼ同じ値である。すなわち、CIの高さによる違いは、TFの高さによる違いが原因である。村上・北村(2023)は遮断蒸発のほとんどが高さ3.8m以下で生じていることを示したが、本研究ではその高さがさらに低く2.8m以下であることが示された。高さ3.8m以下には枝葉がほとんど存在しないので(村上・北村, 2023)、CIの主要なメカニズムは濡れた樹冠表面からの蒸発ではなく、飛沫蒸発である。

    文献 村上茂樹・北村兼三 2023. https://doi.org/10.11520/jshwr.36.0_5

  • ジュンスク カニカ, 久保田 多余子, 白木 克繁
    セッションID: OS-04-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    The "thinning" approach is a technique that affects changes in runoff. This study analyzes the impact of thinning on the long-term change of runoff using monthly data on runoff and rainfall at a coniferous forest plantation in Japan. We used the paired catchment experiment to assess water yield. We monitored from 2006 to 2021, both before and after thinning was implemented. We conducted tree removal in catchment HV, reducing the tree density by 50%. On the other hand, HB served as a control catchment. The results show that the monthly runoff and runoff coefficient of catchment HV were greater than catchment HB during the post-thinning periods. Furthermore, the total water yield increased by 378.79 mm and 571.86 mm during the first and later examination periods, respectively. The effects of thinning continue for 12 years after thinning. Therefore, a long-term study is necessary to approach the management of forests in Japan.

  • 飯田 真一, 荒木 誠, 阿部 俊夫, 野口 正二, レヴィア デルフィス, 新田 響平, 和田 覚, 田村 浩喜, 成田 義人, 金子 智 ...
    セッションID: OS-04-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    これまで,間伐によるスギ林分蒸散量の減少が報告されており,水資源量や公益的機能にも影響を及ぼす可能性が示唆される.しかし,国内における過去の調査では間伐直後のスギ林分蒸散量の減少を評価しており,この減少がどの程度の期間継続し,間伐の効果が複数年に渡って現れるのかについては不明のままである.そこで,スギ林分蒸散量の評価を間伐前2年間および間伐後3年間の合計5年間行い,間伐による影響が継続する期間に着目して検討を行った.

    秋田県長坂試験地(大館市)上の沢に1963年に植栽されたスギ壮齢林を対象として,2017年2~3月に本数率38%の間伐を実施した.計測プロットに存在するすべてのスギ個体(間伐前16個体,間伐後10個体)について熱消散量を用いて樹液流速を測定した.辺材浅部の深度0~2cmに熱消散法センサー(センサー長2cm)を北側と南側に1つずつ挿入した.さらに,辺材幅が3cm以上の個体では,深度2cm以深の辺材深部に別のセンサーを設置した.これらの計測値に基づいて供試木毎の蒸散量を求め,それらの総和を林分面積で除し,林分蒸散量を得た.そして,林分蒸散量から求めた群落コンダクタンスを再現するモデルを用いて,間伐の影響を評価した.

    秋田県長坂試験地のスギ林を38%間伐すると林分蒸散量は71%まで減少したが,2年目には100%,3年目には107%となり,間伐から数年で元に戻ることが明らかとなった.辺材深部の樹液流速の顕著な増大が間伐後の林分蒸散量の回復に寄与しており,このことは樹冠下部の日当たり改善に伴う蒸散活動の活性化を強く示唆するものである.本研究によって,間伐後に辺材浅部と深部の樹液流動特性は変化することが明らかとなった.間伐以前の樹液流動特性が間伐後にも成り立つと仮定した場合,間伐が蒸散量に及ぼす影響の評価を誤る可能性がある点に注意が必要である.

  • 李 庶平, 山崎 大
    セッションID: OS-04-04
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    In the past decade, the process of hillslope water dynamics has been resolved in some land surface models (LSMs) to advance the representation of hydrological cycle. The horizontal transportation of water is shown to largely modulate the terrestrial water and energy budget (e.g., evapotranspiration). Although the hillslope water dynamics have been represented, the complex land surface conditions (e.g., land cover type and topography) were treated as homogeneous or less effectively addressed (using the conventional tile scheme) in previous LSMs, despite its direct control on the water and energy fluxes. How land surface conditions interfere with hillslope water dynamics, and to what extent it modulates the land surface process remain unclear. For this purpose, this study examines the impact of representing the complex land surface condition on hillslope water dynamics, and how it modulates the land water and energy budget.

  • ホアン キム オアン, 松原 汐里
    セッションID: OS-04-05
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    Soil moisture is a crucial hydrological variable that connects land surface and atmospheric processes. Accurate soil moisture monitoring is necessary for understanding energy, water cycles, and ecological system processes. Though satellite-based microwave remote sensing is an effective method for obtaining soil moisture information around the globe, it faces a noticeable obstacle relating to accuracy that may be caused by temperature effects. In this study, the author attempts to remove the temperature effects from SMAP soil moisture products by applying the ADA triangle method for satellite data.

  • 赤塚 洋介, 入 栄貴
    セッションID: OS-04-06
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    鉄道では、豪雨時に雨量指標に基づく運転規制により列車運行の安全性を確保している。しかし、現状では豪雨後の規制解除は目視確認による技術者の経験的判断に依存している部分もあり、定量的な判断手法は定義されていない。一部の鉄道事業者では、土砂災害との関連性が高い土中水分の減衰過程を考慮した雨量指標を用いているが、過去の降雨履歴と災害履歴との関係から設定されることが主であるため、実際の盛土内土中水分挙動との関係性は不明瞭な部分がある。そこで、本稿では現行の運転規制を支援することを目的として、実際の山間地に位置する鉄道盛土に設置した土壌水分計の観測結果を基に、現在、採用事例がある実効雨量との関係を整理した。また、鉄道沿線全体の土中水分挙動をより精緻に表現するため、長期的かつ広域的な水循環を再現できる陸面過程モデルMATSIROの活用について検討した。比較の結果、鉄道盛土における土壌水分量の観測値は実効雨量より減衰が小さいことが分かった。一方で、MATSIROは降雨の土中への浸透や山側からの水の移動をモデル化していることから、部分的に観測値と類似した結果が得られた。ただし、値の感度は実効雨量よりも低いため、解析値をそのまま降雨時運転規制等のリスク評価へ用いることは困難であると考えられる。今後、鉄道総研で開発を進める盛土・自然斜面の一体リスク評価手法への活用に向けて、土中水分量を表現するパラメータとしての適用を検討する予定である。

口頭発表 「国際交流セッション」
  • Hu Yang, Yamazaki Dai
    セッションID: OS-06-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    洪水は世界中の人間社会に壊滅的な影響を与えます。洪水による損失(以下、BI損失とします)の見積もりは、政府や保険会社が洪水によって生じた直接的な費用を把握するために重要です。従来のBI損失の見積もり方法は、浸水地域に焦点を当てていました。しかし、そのような浸水に基づく方法には、浸水地域を超えた損失の見落とし、浸水期間中の100%の損失の仮定、および回復と浸水期間との線形関係を想定するなどの制限があります。これらのギャップは、特に世界規模で、浸水地域を超えた影響範囲、実際の生産損失の深刻さと期間を明らかにするデータの欠如に起因します。そのため、本研究では夜間光リモートセンシングデータを使用して、洪水によるBI損失を推定することを目的としています。 6つのケースでの評価により、NTLベースの方法は、浸水地域の内外の影響範囲、回復時間、深刻さの評価を提供することで、BI損失の推定において有望な方法であることが証明されました。行政レベルでの世界的なBI損失は、GDPと一貫した空間分布を示し、経済の発展が洪水によるBI損失の増加要因であることを示しています。

  • Thandar Tun Zin, Minjiao Lu, Takahiro Ogura
    セッションID: OS-06-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    データ不足は水文モデリングにおける重要な問題であり、水文モデルのキャリブレーションやパラメタリゼーションにおける不確実性の原因となっています。したがって、パラメータ最適化の感度を考慮しながら、特に水文気象情報が限られている場合には、どのパラメータがモデルの性能に最も大きな影響を与えるかを決定することが不可欠であります。これまでの研究では、データ調整パラメータの感度の重要性と、それがシンナジァン(XAJ)モデルの性能と、特にデータが乏しい地域における許容可能な最小データ長の決定の両方に及ぼす影響が強調されてきました。とはいえ、データ不足の期間中にデータ調整パラメータを一定に保ちながら、年間スケールで最も感度の高いパラメータの1つであることが確認されているため、後退定数感度を考慮することは不可欠であります。したがって、本研究の目的は、より短いデータセットにおける後退定数感度とデータ調整パラメータの関係を調べることによって、先行研究を拡張し、データ不足の流域に対してより信頼性の高いパラメータ推定を行うことであります。

  • ロハヤニ ピトリ, 川崎 昭如
    セッションID: OS-06-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    The imperative pursuit of sustainable energy solutions in an era of rapid population growth and environmental concerns, hydropower projects are expected to integrate flood control functions. However, initial hydropower site selection often prioritizes limited techno-economic considerations for potential site estimation. Therefore, integrating flood control during the site selection stage is necessary to ensure a reduction in flooding risks and contribute to community safety. This study focuses on the Citarum River Basin in Indonesia, utilizing a framework integrating geospatial data and hydrological modeling to maximize power generation, evaluate flood risk reduction, and assess optimal hydropower site potential. Initial findings highlight key parameters for power generation optimization and identify flood-prone areas. Further analysis aims to quantify the economic value of infrastructure damage and determine the optimal potential of potential hydropower sites, emphasizing the importance of comprehensive assessment in energy and flood management strategies.

  • Vin Leon, Kawasaki Akiyuki
    セッションID: OS-06-04
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    Governments globally aim to improve education systems to tackle poverty and inequality, but floods often impede these efforts in flood-prone-areas due to uneven infrastructure and unequal education experience. Previous study showed in budget-limited countries, investing in education is ample option in reducing income inequality comparing to flood control investments (FCIs). However, this perspective overlooks education inequality by floods and the indirect benefits of FCIs. This study addresses these gaps by assessing future economic disparities under various FCI scenarios, considering their secondary benefits for education and rural development. A case study on Chao Phraya River floods reveals a widening disparity gap until 9.6-fold by 2040, if no alterations to existing measures/ policies. Our model also estimated that equiatable investment of FCI could reduce this gap by certain extent, income inequality persists. Hence, wealth redistribution policies are needed alongside education and flood control investments to reduce future inequality.

口頭発表 「水災害・流域水管理」
  • 太田 琢磨, 胤森 知玄, 千々松 聡, 小林 健一郎, 大泉 伝, 川畑 拓矢
    セッションID: OS-07-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    データ同化の1つである粒子フィルタは,近年,大河川の洪水予報で実用化が進む一方,急激な水位上昇を特徴とする中小河川については,予測時間が長くなるにつれて同化の効果が急速に失われて予測精度が低下するという課題がある.本研究では,洪水予測に適用する粒子フィルタに,回帰分析の1つである「ガウス過程回帰」(Gaussian Process Regression:GPR)を導入し,急激な水位上昇を特徴とする中小河川に適した実用的な洪水予測手法を開発した.具体的には,粒子フィルタから得られる水文モデルの不確実性やモデルパラメータの変動をGPRによって学習し,その後の予測計算において,モデルの不確実性やパラメータの変化を考慮しながら計算を行うというものである.

     鳴瀬川水系吉田川の八合田水位観測所における2012年5月の大雨事例では,本手法による予測水位は,従来までのアンサンブル平均によるものと比べ,水位上昇時の予測精度が高いことが示された.特に期間後半(4時間先以降)で,アンサンブル平均は上昇傾向の鈍化や下降傾向を示すのに対し,本手法では高い精度で上昇傾向を予測することができていた.この理由として,GPRによるパラメータの推定がある程度成功していたこと、GPRで推定したパラメータの変動を予測計算に取り込んだことなどが挙げられる.

     今後,多数の河川・事例で検証を行い,本手法の有効性を確認するとともに,急激な水位上昇を特徴とする中小河川のリードタイムをどこまで延ばすことができるか明らかにする必要がある.

  • オキリア エマニュエル
    セッションID: OS-07-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    TopEros, was developed to improve the conceptualisation of the soil erosion process. Model improvement focused on the inclusion of different common soil erosion mechanisms at catchment scale. Chiefly, the idea of a “sheet-concentrated flow duality” of a grid cell is introduced. This extended abstract outlines the structure of TopEros and its possible utility in predicting hydro-erosion fluxes in a catchment. A test run of TopEros in the Namatala River catchment yielded reasonable results.

  • 小杉 賢一朗
    セッションID: OS-07-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    現行の土砂災害警戒技術では,全国一律の雨量指標が用いられ,地質・地形・土地利用等の違いが考慮されていないことが課題である。とはいうものの,我が国には膨大な数の土砂災害危険箇所が存在しており,その一つ一つに最適雨量指標を定めることは非現実的である。そこで小杉(2015)は,様々な指標の組合せで多数のスネーク曲線図を描くことによって,土砂災害の危険性を種々の見方から評価する手法を提案した。さらに,各々のスネーク曲線図において既往最大値を結んだ線をCLに設定することを提案した。この手法における災害発生の根拠は「未曽有の豪雨になっている」というものであり,土砂災害の特性を的確に捉えた手法になると期待される。 さらに小杉(2022)はこの手法を改良し,「いつの時点から見て未曽有の豪雨になっているか」に着目することを提案した。すなわち「過去のどの時点まで遡れば『現在降っている雨が既往最大値超過ではない』という状況が出現するか」を検討し,その時点を土砂災害発生危険度を評価する指標(未経験降雨指数)とすることを提案した。本研究では,実際の土砂災害事例の解析に基づき,未経験降雨指数の有用性について考察を加えた。

  • 中村 元気, 川崎 昭如
    セッションID: OS-07-04
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    貧困格差は,世界全体での貧困の減少傾向とは裏腹に拡大傾向にあるが,洪水はこの要因の一つとして,気候変動による極端気象の増加予測に伴い注目を集めつつある.ここで貧困格差は貧困層と非貧困層という異なる社会階層の間に発生する地域や社会を単位とした現象であり,その拡大は中⻑期的な時間の経過により発現するものであることを考えると,中⻑期的な地域・社会スケールの問題として洪水と貧困格差の関係を扱う必要があるが,そのようなアプローチを取れている研究はほとんど存在しない. そこで本研究では,特に貧困格差が顕著である途上国の洪水常襲地帯において,洪水が中⻑期的に人や地域に与える社会経済的影響への理解度を高め,洪水による貧困格差を緩和することを目的として,以下の二つの目標を掲げる.一つ目の目標では,洪水が住⺠の教育面及び収入面に及ぼす影響を,定量調査・定性調査を用いて明らかにすることを目指す.二つ目の目標では,貧困レベルごとの洪水への応答を踏まえた,人や地域への中⻑期的な社会経済的影響の考察を深めることを目標とする. まず一つ目の目標に関して,はじめにタイのアユタヤを対象地域として過去に実施された大規模なアンケート調査の結果を用いた定量分析により,深刻な洪水被害を経験した地域ほど,世帯の収入レベル及び教育レベルが低い傾向にあることが明らかとなった.次に同地域で筆者も同行し行った詳細なインタビュー調査の回答から,教育に関する上記の傾向は洪水で中断されずに質の高い教育を受けられる学校が都市部に偏在していることにより引き起こされていること,収入に関する傾向は洪水被害の発生場所と生業自体の持つ特性の組み合わせで説明できることが示唆された. 次に二つ目の目標に関して,先の分析・考察とインタビュー調査の回答を用いて洪水による貧困格差拡大の全体像を模式化した.全体は時間スケールに関して短期的影響と中⻑期的応答という二つに分けて整理し,このうち中長期的応答については貧困層と非貧困層の応答の違いを中心に模式化した。

  • 上米良 秀行, 松田 曜子, 松原 悠, 矢守 克也
    セッションID: OS-07-05
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    これまでに「起きた」水害だけに注目するのではなく、「起こらなかった」水害にも注目することが、防災力を高める上で重要である。「起きた」ことと同様に、「起こらなかった」こともまた事実なのであり、防災学における事例中心主義を健全化するためにも、「起こらなかった」ことの背景にどの程度の水害ポテンシャルがあったのか、これを明らかにすることは重要である。本研究の目的は、水害ポテンシャル、つまり、ハザードの側面から見て水害が過去にどの程度「起こりそうだった」のか、その程度を計測するための「ものさし」として、日本にはどういうものが存在するのかを明らかにし、それらの基本的特徴や関係性を整理し考察することである。

口頭発表 「プロポーズドセッション 2050年の水文学」
  • 沖 大幹, 小槻 峻司, 中村 晋一郎, 檜山 哲哉
    セッションID: OS-08-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    ICT技術の進歩により現地観測、リモートセンシング、モデリングが過去 30 年で劇的に変化した。さらにAI/深層学習のおかげもあって水文分野における測定精度や予測精度は大幅に向上し、自然現象や社会システムの設計・制御を可能としつつある。一方で、自然現象に留まらず、人間社会と水循環の相互作用を長期的視野において理解する社会水文学研究が進展を見せ、社会と科学者が協働する超学際研究も盛んになってきている。

    これまでの観測・モデリング・社会水文学研究・超学際研究の進展により、どのようなプロセスが分かり、水文学はどのように進化を遂げてきたのだろうか。また今後、水循環と人間活動を含めた水文学には、どのような研究が求められ、進展するのだろうか。本セッションではこれまでの水文学の発展を踏まえ、2050年の水文学に向けて、挑戦し甲斐があってこれから取り組むべき学術的課題を議論したい。

  • 小槻 峻司
    セッションID: OS-08-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    或る数理・情報技術を獲得すると、そのアナロジーとして周辺分野を見ることで、自然と不思議は連鎖する。それは、それらの周辺領域が同じ数学的基礎を有しているからである。私自身はデータ同化を中心に物事を見ているが、同様に水文学の景色を変える数理・情報技術はまだ多く残されている。グラフ理論・統計力学などは面白いと思う。水文分野においては、物理を扱う研究は多く見かけるものの、数理・情報技術を持ち込む研究は稀であり、固有値・特異値分解ですら余り目にしない。逆に言えば、水文学と数理・情報科学の境界領域では、まだまだ水文学のフロンティアを切り拓く事が出来る(と思っている)。そのフロンティア・人類の知は、学部4年生の知の範囲からも遠くない。そのフロンティアには、若者にもできるサイエンスの鉱脈が、まだまだたくさん残されている。

  • 小田 僚子, 石塚 瞬, 花土 弘, 川村 誠治
    セッションID: OS-08-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    局地的大雨や線状降水帯がもたらす豪雨などによる大雨災害が全国各地で発生しており,リードタイムを取った降雨予測が喫緊の課題となっている.特に下層の水蒸気流入量は降雨域の形成に大きく関わっており,下層から上層までの水蒸気量を多角的に捉えることが重要である.これに対し,国立研究開発法人情報通信研究機構は,雨雲の形成に関わる下層の水蒸気量変動を広域的に捉えるべく,地上デジタル放送波の伝搬遅延量から水蒸気量変動を推定する技術を開発した.ここでは,この最新技術による下層水蒸気量変動観測について,中高層建物が林立するエリアへの適用結果を紹介する.本研究では,千葉県習志野市にある千葉工業大学新習志野キャンパス建物屋上に東京スカイツリーからの直達波/反射波を受信する八木式アンテナを設置し,受信点より後方にある建物の反射を利用した“反射法”により水蒸気量を推定した.受信点から南東方向に約1.8km離れたパス上の伝搬遅延時間変動と,受信点で測定している相対湿度・気温・現地気圧から求めた伝搬遅延時間変動は良く一致しており,対象区間における下層の水蒸気変動を適切に評価できていることが確認された.また降雨日において,幕張エリア(受信点から南東方向に約5km離れたパス上)では,地上で降水が確認されるのとほぼ同じ時間に伝搬遅延時間の増大が認められ,降雨に伴う湿潤な空気塊が流入する様子が捉えられた.都市域では反射体となる建物が多く存在することから,既存の地上アメダス観測点よりも数百~数km間隔と空間的に密な水蒸気量変動を捉えられる可能性がある.また,本手法は地上デジタル放送波を受信できるエリアであれば陸上に限らず,将来的には沿岸域も含めた下層水蒸気量変動の把握に発展させられることが期待される.

  • 檜山 哲哉
    セッションID: OS-08-04
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    地球温暖化によってダイナミックに変動する北極域と永久凍土域における大気水循環と陸域水循環を、2022年度のプロポーズドセッション「北極域・永久凍土域の水・物質循環」とは異なる観点で展望する。シベリアにおける地政学的課題と対峙しつつ、水文気候学・凍土水文学・社会水文学の各観点における北極域・永久凍土域の水循環研究の現状を振り返り、これから取り組むべき重要な研究課題を述べる。

  • 乃田 啓吾
    セッションID: OS-08-05
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    本稿では,2024年度のプロポーズドセッション「2050年の水文学」へのインプットとして,農学の水分野,特に農業水利学に注目し,いくつかの教科書を比較することで,その発展と今後の展望を提示する.

  • 谷 誠, 小島 永裕
    セッションID: OS-08-06
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    洪水流出に関する流出機構と流出モデルに整合性が見いだされていない現状をふまえ,これまでの研究をレビューし,研究の現状を紹介し,今後の研究方向性を展望した.

  • 佐山 敬洋
    セッションID: OS-08-07
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    流出モデルにはパラメータが存在し、観測流量を用いたモデルのキャリブレーションが不可欠である。この水文学の定説を覆すことは可能だろうか?土壌、地質、植生、地形などの水文学的因子を測定・推定することにより、演繹的に高い精度の物理的流出モデルを構築することは可能だろうか?本セッションでは、2050年の水文学に向けて、挑戦し甲斐があってこれから取り組むべき学術的課題を議論する。筆者は2000年頃から降雨流出現象の解明と物理的モデルの開発・応用に取り組んできた。研究を始めた当初、IAHSによるPrediction in Ungauged Basins (PUB)イニシアチブ(2003-2012)が開始した。非観測流域における水文予測という主題は、現在でも色褪せない普遍的なテーマである。本報では、PUBイニシアチブで議論された主要なトピックを振り返り、現在までの進展と、今後の展望を述べる。

  • 中村 晋一郎
    セッションID: OS-08-08
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    2050年の社会水文学に向けて取り組むべき学術的課題を提示するために,1998年の水文学の状況を振り返り,それとの対比から今後の課題について考察を行った.過去約30年の間に,当時の課題とされた,モデルの高解像化とグローバル水文学は飛躍的に発展し,水田の洪水貯留機能の再評価や流域一体となった流域管理(統合的水資源管理)は,水循環基本法の制定や流域治水の開始によって実現に向かいつつあり,26年間の水文・水資源学の発展を確認することができた.また,当時,岡田憲夫が提示した「〈手強い自然 〉とそれに対する〈人間の自然への接し方〉」についての「総合的な科学」は,2010年代から始まった社会水文学と多くの点で共通している.社会水文学は人間活動と水循環を一体的なシステムとして考え,それらの間の相互作用を考慮し,人間活動と水循環の間の相互作用を「内在化」することを目的としており,現在の社会水文学は人間と水循環の間の相互作用を「理解」する段階にある.2050年に向けて,社会水文学では人間-水システム相互作用の「理解」を深めながら,「推計と予測」,「実践の科学」へと展開していくことになる.しかし,人間-水システム相互作用の概念化の過程における研究者間(分野間)の合意形成とそのためのコミュニケーションや決定のあり方,人間的な要素の検証やパラメータの設定に必要なデータ構築といった課題が存在する.また,社会水文モデルの日本・アジアへの適用と再現性の検証,あるいは日本・アジアでのケーススタディを通した独自の現象の提示は喫緊の課題であり,人間-水システム相互作用を考慮した水マネジメントの実現が2050年までに達成すべき目標であることを指摘した.

  • 坂本 麻衣子
    セッションID: OS-08-09
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    社会水文学が提唱されてから10年余りが経過した。初期の段階では、水文学者がモデルに社会的変数を組み込む際に“社会”を一様な変数として扱ったことが、社会科学者からの批判を引き起こした。この経験から、水文学者と社会科学者間の対話の重要性がより一層認識され、社会科学者の積極的な参加が促進された。たとえば、社会学者がrepresentation justiceの観点から、データの取得や解析における専門性に基づくバイアスの存在を指摘した。より包括的な取り組みは、効果的なボトムアップ型の合意形成に寄与するだけでなく、創造的な問いを立てる上でも有効であると認識されている。このように、合意形成の過程で“良い”合意形成とは何かを判断する際には、目的合理性だけでなく、コミュニケーション合理性も考慮する必要がある。これらの点を踏まえ、今後の自然科学・工学と社会科学の研究者の協働の有り様について検討し、最後に、社会水文学の文脈から、2050年に向けての水文学への期待を述べる。

口頭発表 「水文プロセス・水文統計」
  • 佐野 太一, 沖 大幹
    セッションID: OS-09-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    人為起源の気候変動は、地理的にも時間的にも不公平性を持つ問題とみなされることが多い。地理的な気候正義については広範な研究が行われているが、世代間の不公平性に関する研究は限られている。我々の目的は生涯炭素排出量の分析を通じて世代間格差を精査することで、気候変動の原因に対する責任の格差を明らかにすることである。我々は、1900年から2070年の間に生まれた世代について、共有社会経済経路-代表的濃度経路(SSP-RCP)シナリオの枠組みの中で、一人当たりの生涯二酸化炭素排出量を計算した。その結果、RCP1.9シナリオの下では、1970年代初頭に生まれた個人が生涯で最も多くの二酸化炭素を排出することになるが、より排出量の多いシナリオの下では、後に生まれた世代がより大きな責任を負うことになることが示された。また、OECD加盟国と非加盟国の比較分析により、排出量の多いシナリオでは地域間格差が増大することも明らかになった。この研究は、気候変動の原因となる二酸化炭素排出の責任における、地理的・時間的不公平性が人類が今後どのような排出経路を選択するかによって決まることを示唆している。

  • ダンガル スワループ, 山崎 大, ヴィマル ミシュラ
    セッションID: OS-09-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    The Ganga River basin, highly populated and water-stressed, is pivotal to India's economy, contributing 40% to its GDP. However, the factors driving groundwater depletion remain poorly understood. Using well observations, satellite data, and hydrological modelling, our study reveals a significant loss of 225 ± 25 km3 of groundwater from 2002 to 2016, equivalent to 20 times the capacity of India's largest reservoir. Declining monsoon rains (-11%) and severe droughts (2009, 2014 and 2015 years), compounded by extensive groundwater extraction for irrigation, are major contributors. Non-renewable groundwater extraction, accounting for 80% of depletion, poses a significant challenge, exacerbated by the basin's vulnerability to droughts hindering recharge and exacerbating withdrawals. Addressing this crisis demands crop switching and improved water management to reduce reliance on non-renewable groundwater for irrigation, thereby ensuring the basin's long-term water sustainability.

  • 塩尻 大也, 武藤 裕花, 岡﨑 淳史, 小槻 峻司
    セッションID: OS-09-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    近年,極端豪雨による災害が多数発生しており,豪雨災害に関する研究は多数行われている.それらの研究の円滑な遂行には,豪雨を正確に捉えた降水量データを利用する必要がある.そのため,降水量の時空間分布そのものを推定する手法の開発は,水文学において重要性が高い研究課題と言える.降水量時空間分布を推定する手法として,例えばレーダーによる観測の利用が挙げられる.レーダーによる観測は,高解像で信頼性が高い降水量の空間分布を提供可能であるものの,比較的新しい観測手法であるため,過去の長期間にわたり一定の品質でデータが提供されていない.反対に,長期間に渡り一定品質のデータが利用可能であるデータとして,雨量計による観測が挙げられる.しかしレーダーとは異なり降水量の空間分布全体を観測したものではなく,雨域が雨量計の位置からずれる場合に,降水場全体の把握が難しい場合がある.これらレーダーと雨量計の長所・短所は相反するものであり,レーダーの長所を反映可能な雨量計観測値の空間補完手法が利用可能であれば,局所的な豪雨が発生する空間パターンを再現可能であり,尚且つ長期間にわたり一定品質な降水量時空間分布データが提供可能となることが期待できる.本研究では,そのような手法として,アンサンブルデータ同化を応用する手法を提案する.

    雨量計観測の空間内挿手法は,塩尻ら (2022) によるアンサンブルデータ同化を応用する手法に,改良を加えたものである.本研究ではアンサンブルメンバーの構成手法を改良し,Sun et al. (2022) による analog offline ensemble Kalman filter (AOEnKF) に用いられる手法を使用する.AOEnKFでは,参照となる多数の状態場の観測地点での値と,実際の観測値の間の距離を計算し,距離の近い参照状態場のみがアンサンブルメンバーとして選択される.本研究では解析雨量を参照データとする.豪雨が雨量計によって観測された際には,同じ位置で強い降雨が発生している解析雨量の降水場がアンサンブルメンバーとして選ばれる.これにより,雨量計のみから豪雨を生起させる面的な降水場の推定が可能となることが期待できる.

    本手法により、従来手法では不可能であった豪雨が発生する降水場の推定が可能となった。

  • 﨑川 和起, 近森 秀高, 工藤 亮治
    セッションID: OS-09-04
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    本研究では,気候予測情報を活用した排水事業等の実施を想定し,気候予測情報(降雨量)を用いた確率雨量の算出を主目的としている.本研究では,SMEV分布を用いたCDF法によるバイアス補正手法の検討を行い,従来法と比較することで,本手法の精度及び安定性を評価した.検証の結果,従来法であるGEV分布による補正に比べて,同程度の補正精度及び高い安定性を示しており,実用に足る補正精度を有していると判断した.特に,安定性に関しては,解析対象期間のすべての標本データを活用することで,限られたデータ数に基づいた補正においても,高い安定性を確保することが可能となった.

  • 山崎 大, 岡田 実奈美, 矢澤 大志
    セッションID: OS-09-05
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    流域水循環を初等・中等教育で教えることは,水文学に興味を持つ学生を増やす,水災害や流域マネジメントへのリテラシーを高める,という点で重要と考えられる.カリキュラムを考慮すると流域水循環を短時間で効率的に教える必要があるが,降雨流出過程は多様な現象が相互作用する複雑なシステムであるため,記憶に残りやすい体験型教育ツールの開発は難しかった.本研究では,教育用プログラム言語Scratchを用いて視覚的に分かりやすい降雨流出モデルを構築し,地表面状態のキャリブレーションをゲームとして体験できるツールを開発した.東京大学生産技術研究所オープンキャンパスにて都市化と洪水に着目したワークショップを行い,講義形式の説明に加えて体験型ゲームに取り組むことが降雨流出プロセスの理解を深めるか分析した.その結果,都市化すると洪水が増えるという定性的な理解は講義形式でも深められるが,都市化の度合いによって流出ピークの量やタイミングが変わるという定量的な理解には自ら条件を変えた実験をするゲーム体験が効果を持つと示唆された.また,若年齢なほど講義形式よりも体験型ゲームによって理解が深まりやすいことも確認された.

口頭発表 「水資源・水環境」
  • 石田 紘大, 山崎 大
    セッションID: OS-10-01
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    河川の浮遊土砂は,土砂に付随して栄養塩が運び,その栄養塩が沿岸の生物を生育することから,その全球での動態を把握することは将来の気候変動の予測に重要である.近年では衛星を用いた土砂濃度の推定が行われているが,これらの研究の多くは,特定の流域スケールにとどまっている.土砂の粒径分布や構成物質の違いによって土砂濃度と反射率の関係が異なるため,ある流域で得られた関係式を他の流域に転用はできない.そこで,本研究では浮遊土砂濃度の現地観測を用いずに,衛星画像と河川流量のみから土砂濃度を推定する手法を提案した.本研究の手法では, Mie散乱理論と生物光学モデルから任意の浮遊土砂の粒径分布と浮遊土砂濃度の関係を導き,河川の合流部における浮遊土砂のフラックス保存により粒径分布と浮遊土砂濃度を定めた.まず,近赤外波長では,水の吸収と土砂の後方散乱および吸収が支配的になり,植物プランクトンおよびCDOMの影響は無視できることを用い,生物光学モデルを簡略化して用いる.さらに,Mie散乱理論によって単位質量あたりの固有光学特性を導出する.Mie散乱理論で用いる粒径分布は指数関数型とし,指数部分をパラメータとした単位質量あたりの固有光学特性を求めた.任意の粒径分布において,全ての時系列の近赤外波長でMie散乱理論と生物光学モデルから求めた反射率は,最適な土砂濃度において最も観測された衛星の反射率に近づくことを用いて,土砂濃度を求めた.次に,河川の合流部におけるフラックス保存から土砂濃度を求めた.河川の合流部で上流の土砂の粒径分布を仮定すると,上述の関係から浮遊土砂濃度が求まる.そこからフラックス保存により,下流部の土砂濃度も求められる.一方,下流部においては観測された衛星の反射率および計算された粒径分布からも土砂濃度が求まる.最適な粒径分布は両者の誤差を最小にすることを用いて,粒径分布と土砂濃度を同時に決定することができる.この手法をミシシッピ川とミズーリ川の合流地点で,2019年のSentinel-2から検証した.浮遊土砂濃度は,ミズーリ川で高い精度を示した一方,ミシシッピ川では合流前後両者ともに,夏季には観測値より最大で3倍高い濃度となった.生物光学モデルにおいて無視した植物プランクトンの後方散乱が存在することが要因として考えられる.今後は手法を全球に展開し,全球の土砂動態を分析する.

  • 山口 悟史, 上杉 貴久, 楠田 尚史, 石川 智優, 籾山 嵩, 大前 将之
    セッションID: OS-10-02
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では、水力発電の発電量を増加させるための手法として、理想的な状況における発電量を理論的に求め、それを阻害する要因を取り除いていく分析手法、「トップダウン方式」を提案する。宮崎県管理の祝子ダム(宮崎県延岡市)について、流入量が完全に予測できる理想的な状況で最適運用をした場合、さらに制限水位を緩和した場合、およびハイブリッドダム運用をした場合それぞれの発電量の増加量を推定した。完全な流入量予測が得られるという理想状態を仮定し、現在の操作規則を順守して最適化すると、現状の45,234 MWh から51,803 MWhに増加する(実績+15%)。さらに、洪水期においても非洪水期と同じく常時満水位までを利水容量とすると、年間平均発電量は55,317 MWhに増加する(実績の+22%)。ハイブリッドダムの仮想運用高度化水位を常時満水位とすることでも、同等の効果が得られた。開発した技術は、今後、実際のダムの運用に適用することを目指す。

  • 石川 悠生, 山崎 大, 花崎 直太, 小槻 峻司, 塩尻 大也
    セッションID: OS-10-03
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
    会議録・要旨集 フリー

    全球水資源モデルによる水資源利用量推定の不確実性を低減するための手段として,現実の観測情報の反映が挙げられるが,モデル内で表現される水文量が限定的であることや現地流量観測所が点在・偏在していることから,未観測流域での観測情報の統合は困難であった.本研究では,衛星から観測された河道幅や水面標高をもとに全球数kmの空間スケールで推定される衛星観測流量に着目し,全球水資源モデルH08に局所アンサンブル変換カルマンフィルタにより同化するスキームを開発した.ミズーリ川の66の河川流量観測所において解析流量の精度を検証したところ,同化なしの場合と比べ平均してNSEが20.51, NRMSEが2.27改善され,特に下流の観測所で大きな改善が見られた.また,地下水賦存量や取水量などの観測することができない水文量がデータ同化によりどのように変化したかを分析するために,観測シミュレーションシステム実験を行った.同化あり実験では河川流量と河川水賦存量の収支が擬似的な真値に近づき,河川システムを拘束できていることが確認できた. これらの結果から,衛星観測流量の同化は全球水資源モデルの河川流量予測値を改善するのに有効であることが示された.一方で,陸域の全水文量を真値に近づけるには,更なる観測データの同化やパラメータ校正が必要であることが示唆された.

  • 星野 裕輝, 吉田 武郎, 髙田 亜沙里, 丸山 篤志, 福田 信二
    セッションID: OS-10-04
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/12/30
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    水稲栽培が盛んな日本では,自然条件と人為的条件によって栽培体系が多様化しており,利水を目的とした河川整備との関係は深い.しかし,近年,水稲の高温障害が頻発しており,対策にはかんがい用水が大量に必要であることから,水資源が不足する可能性がある.本研究では,渇水流況と田植期間の変動の関係性に着目し,利根川水系の複数地点における流況変動の解析により,渇水特性や水稲栽培体系の地域性評価を試みた.具体的には,作物統計から田植始期,田植最盛期,田植終期を都道府県および作柄表示地帯単位で参照し.河川流量データは,水文水質データベースと雨量・流量年表データベースを参照した.また,渇水流量については,解析区間における下位10%tile値と定義し,灌漑期を4月から9月とした.流域内で渇水流況変動を類型化するために,相対流況変動量に階層的クラスタリングを適用した.相対流況変動量は,解析期間を3つのフェーズに区分し,各フェーズ間における月別の相対的な流量変動量を算出したものである.結果として,フェーズ1とフェーズ2の相対流況変動量については,灌漑期を通して大幅に流量が増加したクラスタや減少したクラスタ,5月から6月に流量増加したクラスタなどの4区分に分類され,特に小貝川においては,鬼怒川に建設された頭首工の農業取水が還元することによる流量増加が反映された結果となった.フェーズ1とフェーズ3の相対流況変動量についても,流量が大幅に増加したクラスタ,5月から6月に流量が増加したクラスタやあまり流況が変化していないクラスタの4区分に分類された.流量が減少している観測所においては,田植期間の長期化による水資源不足が懸念される.既に群馬県では東毛と中毛で田植始期の早期化が起こっており,田植期間が長期化傾向にある.これに起因する取水期間の長期化により水資源が不足する可能性があるため,精査が必要である.本研究の課題としては,田植期間の変動と渇水流況を定量的に評価できていないことがあり,今後は複数流域間の渇水特性を比較し,観測所の上流にあるダムの数や規模,集水面積などの諸元も考慮した定量的な指標による解析に取り組む.

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