水文・水資源学会研究発表会要旨集
水文・水資源学会/日本水文科学会 2023年度研究発表会
セッションID: OP-10-03
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口頭発表(一般セッション)
ハイドログラフ分離に着目したタンクモデルパラメータ同定における不確実性
*中山 真吾鼎 信次郎
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抄録

近年,令和元年東日本台風に代表される大型台風などの影響により極めて激しい降雨が増加しており,そのような災害への対策として,流入量予測の高度化が求められている.本研究においては九州の下筌ダムにおいて,流出モデルの1つであるタンクモデルにSCE-UA法を適用し,同条件で複数回のパラメータ同定を行うことで,パラメータ同定における不確実性,とりわけ単一降雨イベント及び規模の異なる降雨イベントでの不確実性を明らかにすることを目的とした.単一降雨イベントでは200回のパラメータ同定を行った際にハイドログラフの再現性は高く,高精度な予測をしていたが,パラメータの値が毎回大きく異なることが示された.そこで,各タンクからの流出量をハイドログラフとして描く,ハイドログラフ分離を行うと,最終的な流出量は概ね一致している時でも各タンクの流出量は大きく異なっていることが示された.その中にはタンクモデルの物理的意味から外れているものも多く,これが原因となって大きな不確実性が生まれると考えられる.このようなモデルの物理的意味から大きく外れることを防ぐため,既往研究でも用いられている探索範囲を狭め,複数の降雨イベント間でのパラメータ同定の不確実性について議論することとした.複数ある降雨イベントを小規模降雨及び大規模降雨の2つに分類し,それぞれでパラメータを同定し,そのパラメータを用いて2つの規模の異なる流入量予測を行った.結果としては大規模降雨を用いてパラメータ同定すると小規模降雨での流入量予測時に過大な予測し,小規模降雨を用いてパラメータ同定すると大規模降雨での流入量予測時に過小な予測をすることが明らかとなった.これらの結果に対し,前述と同じようにハイドログラフの分離を行うと,大規模降雨を用いて同定したパラメータを使用した際は概ねタンクモデルの物理的意味に合致した結果となったが,小規模降雨を用いて同定したパラメータを使用した際は直接流出の値が減少し,基底流出の値が顕著に増加する傾向が明らかとなった.これらの結果から異なる規模での流入量予測や短期間でのパラメータ同定では探索範囲を狭めたとしてもモデルの物理的意味を外れる可能性があるという不確実性を示すことができた.

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