水稲栽培が盛んな日本では,自然条件と人為的条件によって栽培体系が多様化しており,利水を目的とした河川整備との関係は深い.しかし,近年,水稲の高温障害が頻発しており,対策にはかんがい用水が大量に必要であることから,水資源が不足する可能性がある.本研究では,渇水流況と田植期間の変動の関係性に着目し,利根川水系の複数地点における流況変動の解析により,渇水特性や水稲栽培体系の地域性評価を試みた.具体的には,作物統計から田植始期,田植最盛期,田植終期を都道府県および作柄表示地帯単位で参照し.河川流量データは,水文水質データベースと雨量・流量年表データベースを参照した.また,渇水流量については,解析区間における下位10%tile値と定義し,灌漑期を4月から9月とした.流域内で渇水流況変動を類型化するために,相対流況変動量に階層的クラスタリングを適用した.相対流況変動量は,解析期間を3つのフェーズに区分し,各フェーズ間における月別の相対的な流量変動量を算出したものである.結果として,フェーズ1とフェーズ2の相対流況変動量については,灌漑期を通して大幅に流量が増加したクラスタや減少したクラスタ,5月から6月に流量増加したクラスタなどの4区分に分類され,特に小貝川においては,鬼怒川に建設された頭首工の農業取水が還元することによる流量増加が反映された結果となった.フェーズ1とフェーズ3の相対流況変動量についても,流量が大幅に増加したクラスタ,5月から6月に流量が増加したクラスタやあまり流況が変化していないクラスタの4区分に分類された.流量が減少している観測所においては,田植期間の長期化による水資源不足が懸念される.既に群馬県では東毛と中毛で田植始期の早期化が起こっており,田植期間が長期化傾向にある.これに起因する取水期間の長期化により水資源が不足する可能性があるため,精査が必要である.本研究の課題としては,田植期間の変動と渇水流況を定量的に評価できていないことがあり,今後は複数流域間の渇水特性を比較し,観測所の上流にあるダムの数や規模,集水面積などの諸元も考慮した定量的な指標による解析に取り組む.