日本集中治療医学会雑誌
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症例報告
卵巣腫瘍を伴った抗N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体脳炎の長期ICU管理症例
井上 明日香伊藤 彰師森田 正人水落 雄一朗薊 隆文笹野 寛祖父江 和哉
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2010 年 17 巻 4 号 p. 499-503

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抄録

傍腫瘍性辺縁系脳炎は,免疫学的機序で精神症状・痙攣・意識障害などを呈する脳炎で,肺小細胞癌や精巣腫瘍,乳癌に伴うことが多いとされている。近年,この傍腫瘍性辺縁系脳炎に含まれ,卵巣腫瘍を伴いN-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体に対する抗体が陽性の抗NMDA受容体脳炎の報告がみられるようになった。抗NMDA受容体脳炎の主な治療法は腫瘍摘出術と免疫抑制療法であり,遅滞なく腫瘍摘出術を行えば神経学的予後は良いものの,完全回復には長期間を要する。今回我々は,既往のない23歳の女性で未成熟卵巣奇形腫を伴った抗NMDA受容体脳炎を発症したが,速やかに腫瘍摘出術と種々の免疫抑制療法を行い,厳重な全身管理により重篤な合併症なく改善した症例を経験した。既往のない若年女性が脳炎症状を発症した場合,卵巣奇形腫を伴った抗NMDA受容体脳炎も考慮し,腫瘍があれば早期に摘出術を検討すべきである。また,予後良好な疾患であるが故に,粘り強い痙攣コントロールと合併症予防のための厳密な全身管理が重要である。

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© 2010 日本集中治療医学会
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