日本集中治療医学会雑誌
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調査報告
ICUに入室した新型インフルエンザA(2009-H1N1)感染患者データベースの分析
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2011 年 18 巻 1 号 p. 127-137

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抄録
【背景】本邦のICUにおいて新型インフルエンザA(2009-H1N1)感染患者に対して行われた人工呼吸管理などの集中治療の内容と,その結果は明らかではない。【目的】ICUに入室した2009-H1N1感染患者に行われた治療の有効性を検討する。【方法】研究計画はデータベースを分析する観察研究である。日本呼吸療法医学会と日本集中治療医学会の公告を受け自由に参加した施設から,事前に作成した情報収集様式を用いて患者情報を収集しデータベース(呼集–DB)を構築した。分析対象は2009年7月1日から2010年3月31日の期間に入院した患者とした。参加施設は67 ICU,患者数は219人であった。【結果】小児(年齢16歳未満)は162人で,その分布は中央値6歳(interquartile range, IQR: 5~9歳),成人(年齢16歳以上)は57人で中央値43歳(IQR: 31~56歳)であった。成人でbody mass index(BMI)が25以上の割合は35.7%(20/56),35以上は8.9%(5/56)であった。妊婦は2人。肺炎の合併は73.5%(161/219)であった。成人のAcute Physiology and Chronic Health Evaluation(APACHE)IIスコアは中央値19(IQR: 15~23),平均値19.6であった。小児で基礎疾患があった割合は3.7%(6/162)であった。小児の退院時死亡率は2.5%[95%信頼区間(confidence interval, CI): 0.7~6.2],成人の退院時死亡率は28.1%(95%CI: 17.0~41.5)であった。人工呼吸器は小児の79.6%(129/162),成人の94.7%(54/57)に装着されていた。そのうち,acute lung injury(ALI)は6人,acute respiratory distress syndrome(ARDS)は61人であった。ARDSのうち成人は39人,小児が22人であった。ALIの死亡は1人。ARDSの死亡率は成人33.3%(95%CI: 19.1~50.2)と小児4.6%(95%CI: 0.1~22.8)であった。人工呼吸器が装着された183人のうちpercutaneous cardio-pulmonary support(PCPS)あるいはextracorporeal membrane oxygenation(ECMO)が導入されたのは7.1%(13/183)であった(成人10人,小児3人)。死亡率は成人が20%(2/10),95%CI: 2.5~55.6で,小児の死亡はなかった。成人のARDSに対するPCPSあるいはECMOは6人に施行され,人工呼吸器の装着が継続された群と比較して死亡の危険を低下させる傾向が認められたが,有意差はなかった(odds ratio: 0.364, 95%CI: 0.04~3.52,chi-square: 0.181, P=0.671)。新型インフルエンザワクチン接種者と季節性インフルエンザワクチン接種者のいずれにも死亡はなかった。抗ウイルス薬の投与は,オセルタミビルが96.8%(212/219),ザナミビルが11.9%(26/219)であり,両者が投与されていたのは10.0%(22/219)であった。いずれも投与されていなかったのは1.4%(3/219)で,うち1例にはペラミビルが投与されていた。【結論】小児の死亡率は成人と比較して低く,成人の死亡率は諸外国の報告と比較して高かった。成人の2009-H1N1感染に起因するARDSに対し実施されたPCPSあるいはECMOは,有効である可能性はあるが,統計学的に有意差は認められなかった。呼集–DBには患者(標本)選択に偏り(sampling bias)があり,今回の分析結果を一般化することには限界がある。
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© 2011 日本集中治療医学会
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