pHがMRSA増殖に及ぼす影響について実験的検討を行なった。MRSAの増殖は酸性環境で抑制され,抑制の程度は酸性度に比例することが確認できた。すなわち,MRSAはpH4以下の培地ではほとんど増殖せず,特にpH2およびpH3の培地には殺菌的な効果が認められた。また,pH5の培地中でもMRSAの増殖はpH7に比べ著しく抑制され,pH6でも抑制される菌株が存在した。われわれはすでに,重症MRSA腸炎がpH2の希塩酸を消化管内に投与することで改善可能であると報告したが,今回の成績によってこの臨床治療経験の妥当性が証明された。pH2~3の希塩酸は表在性感染症に限定されるが,耐性菌の発生を回避する治療手段として,抗生物質と並用して活用すべき治療法と考えられる。