抄録
1996年に経験した10例の腸管出血性大腸菌O-157による溶血性尿毒症症候群(HUS)症例を対象として本症の病態を炎症徴候,血小板数,凝固系および溶血の動向から考察するとともに,治療として血漿交換療法(PE)の有効性を検討した。C反応性蛋白(CRP)は入院当初にピークを認め以降順調に減少した。これよりHUSの炎症反応の活動は弱いと思われた。凝固の亢進は顕著であったが,凝固因子の消費に対しその産生が十分に対応し得ていた。本症では,播種性血管内凝固症候群(DIC)は重症であるがその影響は血管内にほぼ限定されており,他のDICと異なり他臓器への影響は少ないものと考えられた。血漿交換療法(PE)施行症例と非施行症例の血小板数,乳酸脱水素酵素(LDH)の動向の比較では両群に差はみられなかった。それゆえ血小板消費の改善や溶血の軽減などに対してPEの具体的な有効性は認められなかった。