日本国際看護学会誌
Online ISSN : 2434-1452
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看護基礎教育における国際看護学講義及びIT環境の実態:遠隔教育支援システムの開発に向けて
長嶺 めぐみ辻村 弘美大植 崇森 淑江山田 智恵里
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ジャーナル フリー HTML 早期公開

論文ID: 20240518

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version.2: 2024/07/11
version.1: 2024/07/05
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Abstract

目的

国際看護学は内容が多岐に渡るため全てを一人で教授するのは難しく、かつ担当教員の不足も教育上の課題である。これに対応するため、看護基礎教育における国際看護学講義およびIT環境の実態を明らかにし、国際看護学講義の遠隔教育システムの導入への示唆を得ることを本研究の目的とした。

方法

厚生労働省ホームページ上の「看護師養成所一覧」記載の専門学校、大学、高等学校・専攻科5年一貫教育学校 、短期大学計1,075 校の学部・学科責任者、科目責任者を対象に無記名式質問用紙を配布・回収した。調査期間は2021年3-4月であった。

結果

416校より回答があり、不備のない411校を分析の対象とした(有効回答率38.2%) 。82.9%の養成所で国際看護学関連の講義が開設されていた。専門学校、5年一貫校は大学より必修としている割合は有意に高かったが、多くが統合科目と合同で行われていた。専任教員の配置率は、全体で68.7%であった。養成所別の講義時限数は、中央値で5‐8時限であった。国際看護学関連の講義における「定義、基本的概念」に当たる項目は高い実施率を示していた一方、「国際協力としての看護の実際」は全項目実施率が50%以下であった。「在留外国人への看護」は実施率60%であったが、この専門性を有している教員は、全体の18.3%であった。90.8%の養成所で、学生は講義でパソコンを含むディバイスを使用しており、86.4%の養成所が、Wi-Fi環境を有していた。大学は専門学校、5年一貫校より有意にWi-Fi環境が整っていた。E-learningのシステム保有率は、全体で38.7%であり、大学は65.6%で専門学校より有意に高かった。

結論

本研究では、国際看護学講義において補完が必要であると明らかになったのは、近年対象者数が増大している「在留外国人への看護」と「国際看護協力の実際に関する内容」であり、これに対する具体的な支援が必要である。Wi-Fi環境は良く普及しているが、E-Learningシステムはあまり普及しておらず、遠隔教育システムの導入は可能であるが、大学以外の養成所への遠隔教育促進の働きかけが必要であることが明らかとなった。

Translated Abstract

Objective

Owing to the extensive and diverse nature of international nursing education, it is challenging for a lecturer to cover all its content. Moreover, this field has been facing a shortage of lecturers. This study aims to not only clarify the actual situation of international nursing lectures and the IT environment but also further obtain suggestions for the introduction of a remote education system for international nursing lectures.

Methods

Anonymous questionnaires were distributed to 1,075 schools available on the Ministry of Health, Labor, and Welfare's "List of Nurse Training Institutes." The study was conducted between March and April 2021.

Results

In total, 411 schools were included in the analysis. International nursing-related subjects were included in 82.9% of the schools’ curriculum. Vocational nursing schools and 5-year integrated nursing schools had higher mandatory percentages than the universities. The full-time faculty placement rate was 68.7%. The implementation rate of "nursing to resident aliens" was 60%; however, specialized lecturers the content accounted for 18.3%. The various "nursing for health issues in international cooperation" constructs had less than 50% implementation rates. Over 90% of the schools provided a form of electronic devices to their students, and 86.4% had a Wi-Fi-enabled environment. The universities had higher percentages than vocational nursing schools and 5-year integrated nursing schools. An e-learning system was implemented by 38.7% of the schools, while 65.5% of the universities did, representing a statistically higher value than that of vocational nursing schools.

Conclusion

It was found that supplementing international nursing lectures with contents related to “resident alien nursing” and “actual international nursing cooperation” was necessary. The findings that the Wi-Fi-enabled environment was well diffused, whereas the e-learning system was not, were indicative of the high feasibility of introducing remote education along with enhancing the understanding of the system for schools other than universities.

Ⅰ.はじめに

世界の保健医療を取り巻く環境は日々変化を続けており、看護教育においても、これらの変化に対応できる人材の養成が期待されている。これは看護学教育モデル・コア・カリキュラム(文部科学省,2017)に、国際看護学教育は看護基礎教育課程において共通で取り組まれるべき内容として提示されている。また看護師国家試験の出題基準(厚生労働省,2022)でも、「看護の統合と実践」の目標Ⅲとして明文化されており、看護基礎教育において必ず教授しなければならない内容といえる。

国際看護学は、世界の健康問題と健康に影響を及ぼす諸要因、異文化理解と看護、外国人看護師との協働、健康を支援する国際・二国間援助機関、国際協力など内容が多岐にわたるという特徴がある。学校教育法(文部科学省,1947)では、大学で教育を行う者は、その分野における深い専門性と経験を有するべきとされているが、このように広範囲にわたる国際看護学の全てを一人の教員が教授するのは困難な上、国際看護学教員の不足が報告されている(蛭田,2017)。外部講師の依頼を検討しても、依頼先の情報が入手困難であることも起こりうる。このような状況の中で、国際看護学担当教員の専門とそれ以外の教育内容に偏りが起きている可能性があり、どのように均整の取れた教育を行うのかは喫緊の課題といえる。

蛭田らは国際看護授業目標を調査しているが(蛭田,2017)、具体的な授業項目については対象としておらず、その他の文献でも類似の調査はない。よって授業項目の実態を調べ、不足している項目の教育を補完することは、国際看護学教育の充実に寄与すると考えた。また遠隔という手法を用いることで、各地に分散している専門性・経験を有する教員の講義がどこでも視聴可能となる(総務省,2020; 奥川,2021)。この遠隔教育支援システムの開発は、国際看護学教育が抱える課題を解決する上で有用である。今後遠隔教育支援システムの開発を行うために、全国の養成所別の国際看護学教育の実態を把握することで、養成所による特徴を明らかにし、補完が必要な講義項目、遠隔配信における課題を明らかにする必要がある。

Ⅱ.目的

看護基礎教育における国際看護学講義及びIT環境の実態を明らかにすることにより、国際看護学講義の遠隔教育支援システムの導入に関する示唆を得る。

Ⅲ.方法

1. 研究対象

保健師助産師看護師学校養成所指定規則を満たす教育を行っており、2021 年1月時点で、厚生労働省ホームページ上の「看護師養成所一覧」に記載のあった1,075 校を対象とした。1,075校の内訳は、専門学校691校(64.3%)、大学289校(26.9%)、高等学校・専攻科5年一貫教育校 (以下、5年一貫校と略す)79校(7.3%)、短期大学(以下、短大と略す)16校(1.5%)であった。

2. 研究方法

1) データ収集方法

研究対象とした各1,075校に研究の依頼文書、無記名式質問紙、返信用封筒一式を1部郵送し、調査への協力を依頼した。回答者は国際看護学科目担当者が適しているが、専任教員を配置していない養成所もあると推測し、国際看護学教育全体を把握する学部・学科責任者、科目責任者のいずれも可とした。質問紙の返信期間は、2021年3月上旬から2021年4月30日とした。

2) 調査項目

調査項目は、①養成所の種別、②国際看護学関連科目開設の有無及び開設状況、③同科目の専任教員・非常勤講師の有無及び国際看護経験の内容、④同科目の講義取り扱い内容、⑤新型コロナウイルス感染症拡大以前の2019年以前と2020年以降の講義形態、⑥養成所のIT環境及びe-learning(以下ELと略す)実施状況、であった。④の質問項目は、蛭田らの報告(蛭田, 2017)及び3つの国際看護学テキスト(森, 2019;日本国際看護学会, 2020;南, 2013)を参考にし、研究者間で検討を重ね、8大項目39小項目を抽出した(表2に記載)。8大項目は、①国際看護と概念 、②看護における文化、③世界の健康課題、④ 世界の保健医療システムと課題 、⑤国際看護実践の場、⑥国際看護に必要とされる態度・能力・知識・技術、⑦国際協力としての看護の実際、⑧在日外国人・在外日本人への医療と看護の実際であった。

3) データ分析方法

Microsoft Excel (version 2022) を用いて単純集計を行った。検定はIBM SPSS Statistics (version 29) およびEZR on R commander(version 1.61)(Kanda, 2013) を用いた。国際看護学科目開設率など、4養成所間の割合の検定ではカイ二乗検定の多重比較(Bonferroni補正)用いた。講義の総時限数の分析は、養成所により1時限の時間が異なるため、90分を1時限として標準化し各養成所の講義時限数の計算を行った。講義の総時限数分布はShapiro-Wilksの正規性の検定を行い、4養成所間の時限数分布の差については、Steel-Dwassの多重比較検定を行った。国際看護学関連科目の講義で取り扱っている内容の小項目の実施率は、四分位で分類し評価した。

3. 倫理的配慮

1) 2020年群馬パース大学研究倫理審査委員会の承認を得た(PAZ20-28)。

2) 調査票に依頼文を添付し、調査協力の任意性、個人情報の保護、質問紙の返信をもって同意と判断すること、無記名のため返信後の同意撤回はできないことを説明した。

4. 用語の定義

1)国際看護学関連科目:

国際看護学科目、および国際看護学のみを扱う科目ではないがその科目の中で国際看護学に関係する講義を行っているもの。

2)遠隔教育支援システム:

インターネットを介した学習そのものをさすELを含めて、インターネットを利用し教育支援を行うためのシステム(機能する仕組み)。

IV. 結果

1. 回答養成所の基本的情報

計416校より回答を得た。養成所種別の記載が無回答であった4校と、多数の項目が無回答であった1校を除いた411校を分析の対象とした(有効回答率38.2%)。結果を表1に示す。411校の内訳は、専門学校262校(63.7%)、大学120校(29.2%)、5年一貫校26校(6.3%)、短大3校(0.7%)であった。また回答者の割合は、科目担当者171(41.7%)、学部・学科責任者120(29.3%)、教育課程責任者82(20.2%)、その他7(9.0%)であった。

2. 国際看護学関連科目の開設の有無及び開設状況

国際看護学関連科目の開設の有無及び開設状況の結果を表1に示す。

1) 科目の有無

411校のうち、無回答の8校を除く403校中334校(82.9%)で国際看護学関連の講義が開設されていた。大学の講義開設率は、専門学校の開設率より有意に高かった(p < .05)。5年一貫校は、専門学校または大学との間に有意差はなかった。 

2) 科目としての分類  

国際看護学関連の講義を開設している334校を対象に、講義が国際看護学として独立科目になっているか、統合分野の科目の一部になっているかに分類した。大学は国際看護学(国際保健学)として独立した科目で行っている割合が、専門学校および5年一貫校より有意に高かった(p < .05)。専門学校および5年一貫校の統合分野の科目の一部として開設している割合は、大学より有意に高かった(p < .05)。

3) 必修・選択の別

334校のうち、「必修・選択」について無回答の7校を除いた327校の中で、必修科目としていた養成所は270校(82.6%)であり、大学は、専門学校および5年一貫校より必修としている割合は有意に低かった(p < .05)。

4) 講義総時限数

講義が行われている334校のうち、記載の不備がない322校を対象とした。2科目以上開講している施設は、合計時限数とした。各養成所の講義時限数は正規分布しておらず、中央値(範囲)は、専門学校5.0 (1-30)時限、大学8.0 (2-46.7)時限、5年一貫校8.3 (2-16.7)時限、短大13.5(7-20)時限であった。大学は専門学校より有意に時限数が多く(p< .001)、5年一貫校も専門学校より有意に時限数が多かった(p = .012)

5) 科目担当教員

講義が行われていた334校のうち、「専任・非常勤講師の有無」について無回答であった8校を除いた326校を分析の対象とした。専任教員の配置は224校 (68.7%)であり、大学の専任教員の配置率は、専門学校及び5年一貫校よりも有意に高かった(p < .05)。224校のうち専任教員に加え、非常勤教員の配置もあった養成所は142校(63.4%)であり、大学の配置率は専門学校及び5年一貫校よりも有意に高かった(p < .05)。

6) 科目担当教員の国際看護経験

専任教員を配置している224校のうち、経験を回答したのは165校であった。複数回答で最も多かった経験は、国際協力活動(47.3%)であった。非常勤教員の国際看護経験は、回答は191校であり、同じく複数回答で国際協力活動(75.9%)が最も多かった。

7) 講義形式

(1)2019年以前

 いずれの養成所においても、講義形式として9割以上が対面で行われており、遠隔の形式を取り入れているのは6.2%であった。

(2)2020年以降

 対面による講義形式を維持したのは、専門学校65.0%、5年一貫校75.0%、大学16.7%であり、全体で対面との混合授業を含め49.1%が遠隔授業を取り入れていた。

3.  国際看護学関連科目で教授されている内容 

国際看護学関連の講義で教授されている内容を表2に示す。以下大項目を【 】、小項目を≪ ≫で示す。

1) 第4四分位の教育項目

最も実施率の高い第4四分位の9個の小項目のうち、率が高い順に≪国際看護とは≫ ≪国際看護の対象≫ ≪国際看護協力に関係する機関≫(92-84%)が挙げられた。この四分位の範囲中5小項目は、【国際看護の概念と対象】【世界の健康課題】に分類されるものであった。

2) 第3四分位の教育項目

第3四分位に入る10個の小項目のうち、実施率が高かった教育項目は≪世界的健康課題を引き起こす感染症≫ ≪在留外国人・訪日外国人の医療と看護≫ ≪保健医療システム≫≪看護に影響を与える要因≫(全て63%)であった。この四分位の範囲中6小項目は、【世界の健康課題】【国際看護実践の場】【世界の健康医療システムと課題】に分類されるものであった。

3) 第2四分位の教育項目

最も実施率の低い第1四分位に入る10個の小項目のうち、実施率の高い教育項目は、≪在外日本人への医療と看護の実際≫ ≪住民参加型アプローチ≫ ≪地域看護(公衆衛生看護)≫(27-25%)であった。この四分位の範囲中9小項目は、【国際協力としての看護の実際】や【国際看護協力に必要とされる態度・能力・知識・技術】に分類されるものであった。

4) 第1四分位の教育項目

最も実施率の低い第1四分位に入る10個の小項目のうち、実施率の高い教育項目は、≪在外日本人への医療と看護の実際≫ ≪住民参加型アプローチ≫ ≪地域看護(公衆衛生看護)≫(27-25%)であった。この四分位の範囲中9小項目は、【国際協力としての看護の実際】や【国際看護協力に必要とされる態度・能力・知識・技術】に分類されるものであった。

4.  養成所のIT環境及びELの実施状況

 養成所のIT環境及びELの実施状況の結果を表1に示す。

1) 学生が講義で使用するディバイスの有無と種類

411校のうち無回答の8校を除いた403校では、「学生が講義で使用するディバイスがある」と回答した養成所は、298校(90.8%)であった。講義で使用するディバイスのうち、最も多かったのがパソコンであり、5年一貫校を除き約90%の使用率であった。

2) Wi-Fi環境の有無

「Wi-Fi環境がある」と回答した養成所は、286校(86.4%)であった。大学は、専門学校と5年一貫校よりもWi-Fi環境が有意に整っていた(p < .05)。

3) ELができるシステムの有無

「ELのシステムがある」と回答した養成所は、172校(52.9%)であった。大学は、専門学校よりも有意にELができるシステムを有していた(p < .05)。

4) 看護学生への教育方法としてEL取り入れの有無   

126校(38.7%)でELを看護教育に導入していた。大学は、専門学校・5年一貫校よりELの看護教育への取入れが有意に高く、5年一貫校と専門学校の間に有意差はなかった(p < .05)。

5) 「学生が講義で使用するディバイスがある」と回答した養成所は、298校(90.8%)であった。講義で使用するディバイスのうち、最も多かったのがパソコンであり、5年一貫校を除き約90%の使用率であった。

Ⅴ. 考察

調査結果より、大多数の養成所は国際看護学講義科目を設置しているが、選択科目として設置している養成所が多い事、半数以上が1単位未満の時限数を割り当てていること、専任教員のみで国際看護学を教育している養成所は3分の1程度であること、専任教員、非常勤教員共に最も多い国際看護経験は国際協力活動であったこと、新型コロナ感染症発生後は、大学は専門学校、5年一貫校より対面授業を減少させ遠隔授業へ移行していたことなどが明らかとなった。

1. 有効回答養成所の代表性

研究対象で述べた全国1,075校の養成所の割合と、分析対象とした養成所の割合はほぼ一致していた。よって、分析対象の411校は、全国の看護師養成所の代表性を示していると考える。

2. 国際看護学関連科目開設状況の現状と課題

1) 開設状況

411校中334校(81.3%)で国際看護学関連の講義が行われていることから、多くの養成所で国際看護学についての教育が行われていると言える。専門学校・5年一貫校等も対象にした先行研究はないが、中越らの2014年度に全国の看護系大学を対象に行った調査では70.8%で設置されており(中越,2014)、蛭田らの2017年の同様の調査では85.6%の開設率(蛭田,2017)、本研究の2021年では大学開設率91.5%と徐々に拡大してきていることが推測される。

2) 設置の特徴

看護基礎教育において、国際看護学は国際社会に対応できる看護職養成に共通で取り組まれるべき内容であり、必修で必要な時限数を確保することが重要である。平成21年度に行われた第4次カリキュラム改正で、看護の統合と実践が4単位分として新たに設置され(厚生労働省,2008)、国際看護学は看護管理、災害看護等と共にこの4単位の中で教授されることを考慮し、かつ国際看護学の多様性を勘案すれば、少なくとも1単位分に相当する(文部科学省,2022)15時間(8時限)は必要と考える。

上記の通り全学生が国際看護学を学ぶことと、必要な時限数を割り当てることが重要であるが、当研究実施時点ではどちらも達成されていない。専門学校では約20%が科目を開設していないが、開設校ではほとんどが必修としている。必修率が高いことは、統合分野の科目の一部として設置されているためであろうと考える。一方、統合分野の一部であることが、十分な時限数が割り当てられていない要因と考える。大学においては、半数以上が科目を選択としており、国際看護学を学習していない学生が多く存在していることを示している。独立科目である率が高いゆえに、割り当てられる時限数は専門学校より多いが、その半数は8時限以下であり、十分な時限数を割り当てているとは言い難い。これらのことから、多くの養成所は国際看護学を全学生対象の科目として認識しておらず、かつ十分な時限数を割り当てていないと推測される。

他方、全ての学生が国際看護学を十分に学んでいない科目開設の背景には、現実的ないくつかの要因があると考える。前述したように、国際看護学は看護管理、災害看護等とともに4単位の中で教授される。その内容や比重は各養成所に一任されているため、国際看護学の位置付けや配当年次、教育と学習の優先事項も養成所により大きく異なっており(奥川,2021)、国際看護学の重要性の認識の低さや全てを教授できる教員確保が困難であるため国際看護学は少ない時限数で設置されている可能性がある。また本研究は第4次カリキュラム下で調査したため、総単位数は97であったが4年制大学においても決して余裕のある単位配分ではないため、選択の割合が多かったと推測される。

3) 専任教員と非常勤講師の有無と専門性

看護師学校養成所における看護教員に関する規定(厚生労働省,2009) では、「各科目を教授する教員は、当該科目について相当の学識経験を有する者であること」と記載されている。224校が専任教員ありと回答しながらも、教員の国際看護経験の内容については165校(73.7%)と回答率が低かった。今回の調査では、科目担当者以外が回答している割合が58.5%にまで及ぶため、回答者が経験を把握していなかった可能性が考えられる。現在実務経験のある教員による授業では、シラバスにその旨明記することが求められており(文部科学省, 2019)、十分な経験がないことを回答することに躊躇いが生じた可能性も考えられる。また専門学校では、専任教員が配置されているのは約半数であり、前述の先行研究(蛭田,2017)からも教員の不足が問題として存在していることは明らかである。よって、国際看護学内容の特殊性と多様性から引き起こされる教員不足の現状に対する支援は必要である。

3. 実施教育小項目の現状と課題

 表2に示した教育小項目実施率を以下1)-3)の3つの論点から考察し課題を抽出した。

1) 国際看護学教育の3構成要因

他の科目同様国際看護学教育においても導入として(1)定義・基本的概念が、次に(2)関連する事項、(3)実践例の順で説明が行われると考える。

(1)定義・基本的概念

これらに該当する内容として、≪国際看護とは≫ ≪世界の健康課題を理解するための基本概念≫ ≪異文化理解と看護≫があり、また≪国際看護学を学ぶ理由≫は、学生が国際看護学の実際を理解するために重要な項目である。これらは、高い実施率を示す第4四分位に分類されており、順当な結果と考える。

(2)関連する事項

これらに該当する内容として、≪国際看護の対象≫ ≪異文化理解と看護≫ ≪看護に影響を及ぼす要因≫ ≪世界の健康課題に関連する国際機関・国際協力機関≫ ≪国際協力としての看護の現状と課題≫等がある。該当する内容の多くが、第4四分位に分類されており多くの養成所で講義されている。よって、対象の理解に関する内容は全国で教授がほぼ行き渡っているといえる。

(3)実践例

実践の講義の内容は、担当教員の国内、国外の経験や専門性によって取捨選択されていると考える。中越らは、国際看護学は多様な内容を含んでいるため授業目標や内容は担当の教員の考えによって違いがあると述べている(中越, 2014)。≪在留外国人・訪日外国人への医療と看護の実際≫は60%で講義されており、在留外国人の増加に影響を受けていると推測する(出入国在留管理庁,2022)。しかし、この分野の専門性を有する専任・非常勤教員はそれぞれ42人(25.5%)・51人(26.7%)と少なく、有していない多くの教員がこの講義を行わざるをえないのは問題である。

【国際協力としての看護の実際】10項目は、全て実施率49%以下であった。前述の通り、これは教員の経験や専門性により選択して教授しているため、実施率が高くないことは問題ではない。一方、教員の経験・専門性ではなく、どの看護の実際を教授すると良いかとの観点では、【世界の健康課題】と関連していくつかの項目があげられる。持続可能な開発目標の「健康と福祉」(WHO, 2015)の上位4つ「妊産婦死亡率」「新生児死亡率」「感染症」「非感染症」は、重要項目であり教授されるのが適切と考える。

2) 公的機関の示す国際看護学教育内容

2019年看護師国家試験出題基準と看護学教育モデル・コア・カリキュラムの共通項は、世界の健康目標、対象の理解、国際機関と日本のODAと関係機関であった。

 これらに合致する項目は、≪世界の健康課題を理解するための基本概念≫ ≪国際看護の対象≫ ≪異文化の理解と看護≫ ≪世界の健康課題に関連する国際機関・国際協力機関≫等が該当し、さらに関連して ≪国際協力としての看護の現状と課題≫が講義されており、以上全ての項目は第4四分位に含まれていた。よって、現在の国際看護学講義は総体的に公的に示された教育内容を網羅している。

 一方、2021年の国家試験制度改善検討部会報告書において、出題は「看護基礎教育を修了した時点で備えているべき基本的な事項」(厚生労働省,2021)であることが望ましいとされていることを鑑みれば、国際協力としての≪看護政策≫ ≪国際協力で用いられる調査手法≫等は卒業後相応の経験を積んだ後、他国の看護師と協働・技術移転できる項目であり、または大学院で学ぶことが適切な項目と考え、これらの低実施率は格段問題ではない。

3) 基礎教育終了後に看護職が経験する可能性のある国際看護学項目

国際看護活動として途上国への技術支援が広く知られており、「国際看護は海外に出向いて活動する」と捉えられがちであるが、学生が国際看護の実践に携わることが身近にあることを理解することは重要である。在留外国人は増加の一途を辿っており、各地に外国人受け入れ医療機関が次々登録されていることから(厚生労働省,2022)、在留外国人等への看護は国内の勤務で経験する可能性がある。関連する講義項目は1)で述べたように実施率60%であったが、より高い実施率が望ましいと考える。しかし、在留外国人に関する経験がある教員は少なく、支援の必要が示唆される。

4. 遠隔教育支援システム開発の妥当性

 多くの養成所で、学生が講義で「使用するディバイスがある」と回答している。このことから、ディバイスがあると回答した全養成所(90.8%)には少なくとも有線LANがあることが推測され、さらに86.4%の養成所はWi-Fi環境を有する。新型コロナウイルス感染症拡大を機に、大学を中心に遠隔講義へと講義形式を変化させていた。専門学校、5年一貫校でも徐々にインターネットを利用した遠隔講義が各地で行われたことで、以前よりもインターネットを利用した講義及び教材の共有は容易であると予測される。

しかし、ELの導入自体は多くの養成所で未整備であった。オンラインで共有できる国際看護学講義遠隔教育支援システムの運用にあたっては、ELの運用・制度の未整備は大きな障壁にならないと言えるが、将来よりシステマティックな遠隔教育支援システム運用を検討する上ではEL未導入養成所、特に専門学校の理解促進も必要である。

Ⅵ. 本研究の限界

本研究は、全国の看護師養成所を対象とし、1,075校のうち411校のデータ分析に留まる結果となっており、関心のある学校が主に回答していた可能性があり、全数調査では異なる結果が出る可能性はある。また、一部の質問で無回答が多く見られたことは、判断し難い質問記述があった可能性がある。先行研究の少なさは考察の不十分さにつながった可能性がある。

Ⅶ. 結論

本研究では、国際看護学講義の実態として科目が設置されている養成所でも選択科目である場合が多く、半数以上は5-8時限以下を割り当てていること、多様な国際看護を教授できる専門性を有する教員も不足していることが明らかとなった。授業内容項目として「在留外国人に関する内容」「国際看護協力の実際に関する内容」の補完が必要であることも明らかとなり、これに対する具体的な支援が必要である。また専門学校に対し、遠隔教育支援システム導入の長所の理解を促進する働きかけも必要である。

謝辞

本研究は、2020-2023年度科学研究費助成事業(基盤C、課題番号20K10612)の一部として実施しました。また本研究にご回答いただいた全国の看護師養成所の皆様に深く感謝申し上げます。

利益相反(COI)について

本研究に関する利益相反はない。

著者の貢献

長嶺めぐみ:研究デザイン、データ収集、分析、論文草稿作成、論文添削、最終確認

辻村弘美:研究デザイン、分析、論文草稿作成、論文添削、最終確認

大植崇:研究デザイン、データ収集、分析、論文添削、最終確認

森淑江:研究デザイン、データ収集、分析、論文添削、最終確認

山田智恵里:研究デザイン、データ収集、分析、論文草稿作成、論文添削、最終確認

引用文献
 
© 一般社団法人 日本国際看護学会
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