抄録
「いま保険とは何かを考える」にあたり,保険契約の法的性質に焦点をあて,特に近時あまり強調されなくなったと思われるその(最大)善意契約性を再確認することにより,保険契約のいまあるべき解釈論を展開するためのひとつの視点を提供する。例えば,英国では1766年のCarter v. Boehm 事件判決が保険契約の最大善意(utmost good faith)性を認め,その後の判例においても,特に保険者の最大善意義務違反を認定する判断が続いているところである。すなわち,英国法では保険契約について最大善意性の相互性(mutuality)が確認され,そしてそれは契約の締結時から終了に至るまで契約両当事者に認められる具体的な継続的義務として発現している。そこで,日本法における保険契約についても,その前提となる保険システム自体の特性,いわゆる射倖契約としての特性,そしてその継続的契約あるいは関係的契約としての性格を認め,今一度,(最大)善意契約性を保険契約の性質として再評価することにより,保険者側にそのこと故に具体的義務を課すことを検討すべきである。