抄録
傷害疾病保険契約には,保険者の責任開始前(契約前)に原因がある高度障害状態ないし入院等に対する保険給付を制限する規定が設けられている。この契約前発病不担保条項については,告知義務制度で採用されている保険者と保険契約者の利益調整が,同条項の適用にあたっても配慮されるかが主たる争点とされてきた。保険法制定の過程では,同条項に制約を設ける立法の新設も検討されたが,それは実現せず,従前同様,その制約は解釈に委ねられることになった。同条項の制約にあたっては,解釈上,告知義務規定を類推適用するのではなく,告知義務規定その他保険法の規定の精神を信義則に反映して制約をかけることが妥当である。典型的には,契約者に知られていない危険について不担保とされる場合,契約者に知られている危険が告知されたが契約前発病不担保となることの十分な説明がなされなかった場合で不担保とされる場合に,その制約が検討される。