抄録
本稿の目的は,将来キャッシュ・フローの見積り(公正価値測定)において,経営者の裁量を認める論理を明らかにし,その課題と改善点を明示することにある。
既存の会計基準では将来キャッシュ・フローを評価技法により見積る場合には,経営者の裁量が一定の範囲で認められている。保険負債の測定に関する多様性,複雑性を考慮すると,一定の基準を定めつつも,専門家の裁量で柔軟な測定を行うことは現実的な選択といえる。しかし,その裁量が投資家と経営者間の情報の非対称性を生み,会計情報にバイアスをもたらすことがある。将来キャッシュ・フローによる見積りは,評価技法が確立していなければ,かえって市場を混乱させることになる。頑健なモデルが存在してこそ,将来キャッシュ・フローの見積りは有用なものとなる。保険負債の測定においても実務者間の連携を通じて,モデルの頑健性を高めるための取り組みが欠かせない。