抄録
第三者のためにする生命保険契約において,保険契約者は抽象的保険金請求権に対し単独で質権を設定できるとする説(肯定説)と,明示的な保険金受取人の自身への変更手続または保険金受取人の同意なしに質権を設定できないとする説(否定説)の対立が存在する。抽象的保険金請求権が保険契約締結時から保険金受取人の権利であることは間違いないが,保険事故の発生までは何の請求もできず,被保険者の同意なしに譲渡や質入もできない,保険契約者の意思次第で抽象的保険金請求権は減少したり消滅したりする脆弱な権利であり,その権利性をことさらに強調すべきではない。保険事故発生前は,保険契約者が保険契約の解約や保険金額の変更といった保険契約全体の処分権を有しているのであるから,契約内容を変更するが如く,その処分権に基づいて保険契約者は当然に単独で抽象的保険金請求権に質権を設定できると考えるのが妥当である。