抄録
本稿の目的は,わが国の確定給付型の退職給付制度における企業の選択動機について,2000年度から2010年度までの上場企業のデータを用いて実証的に検証することである。具体的には,事業主である企業の立場から,内部留保型の退職一時金が外部積立型の企業年金制度に対してどのような優位性を持ちうるのかという点を論じたうえで,退職一時金のみを採用する企業が有する財務的特徴を探る。検証の結果,退職一時金のみを採用する企業の特徴として,(1)規模が小さく,(2)レバレッジが高い一方で手元流動性や現金保有が高く,(3)キャッシュフローの収益性が低いという点が浮き彫りになった。これらの結果は,退職一時金のみを採用する企業が退職一時金の原資である安価な内部資金を活用することで流動性リスクへの備えを行い,その結果,株主から従業員への「暗黙のリスク移転」が生じている可能性を示唆するものである。