抄録
本稿は,飲酒後の吐物誤嚥による窒息が傷害保険の外来性要件を満たすかという問題について,異なった解釈をとった大阪高判平成23年2月23日判時2121号134頁(上告審判決:最判平成25年4月16日裁判所時報1578号1頁),東京地判平成24年11月5日判例集未登載を素材として,英米,ドイツにおける解釈や裁判例を参考とした上で検討するものである。
被保険者が飲酒した後に,吐物誤嚥により窒息したというケースについては,まず原因事故の範囲が問題となるが,この点については,窒息(身体傷害)を直接引き起こす原因事故に相当するのは吐物誤嚥のみであって,被保険者の飲酒,飲酒後に生じた嘔吐や意識障害等の症状は原因事故に含まれないと解する。そして,吐物が,既に飲み下され消化されたものであること,誤嚥もアルコールが身体に吸収された後に生じていることからすれば,飲酒後の吐物誤嚥は,基本的に内因性の事故であって外来の事故にあたらないとみるべきである。