抄録
アメリカにおける就業不能保険は,他の社会保障制度とともに労働者の「就業不能」に伴う収入損失に備える私的契約であるところ,保険事故としての「就業不能」の意味について判例が集積し,一定の理解が確立している。就業不能保険(条項)は,(1)「本来の職業の(own occupational)就業不能保険」と(2)「一般的(general)就業不能保険」に大別され,(1)の場合には,被保険者の契約締結時に従事していた職業の職務の全てを完全に遂行できないこと,そして(2)の場合には,被保険者の教育,訓練または経験により合理的に獲得されるいずれかの職業を行うことができない場合に,それぞれ「完全就業不能」と認められる。さらに,(1)と(2)を併用する(3)「混合型(combined)就業不能保険」がある。わが国で現在みられる所得補償保険もしくは就業不能保険は,その「就業不能」の定義においてアメリカで見られる(1)および(2)の定義を採用しているところであるが,今後,アメリカ判例法の整理で確認された「完全就業不能」の意味を参考にしてそれを検討すべきである。