抄録
本稿の目的は,生命保険が消費者から「贈り物」として表現される傾向について,Viviana Zelizer(1989)による特殊貨幣(special monies)の概念を援用した社会学的分析を中心に,考察を試みることである。
本稿においては,金銭・貨幣で形成される死亡保険金が,消費者から「贈り物」とされてきた現象に対して,Zelizer の特殊貨幣の概念を援用することで,「贈り物」としての生命保険が,特殊貨幣的存在の位置にあることを説明する。
そして,被保険者の「死」から生じるシンボル性と,贈与行為における象徴性に伴い,特殊貨幣的要素が形成されることで,消費者において生命保険が「贈り物」として成立することを指摘し,そして,この構図から,保険制度とその社会的な受容とのバランスが伴われていることを,明確にする。
消費者から生命保険が「贈り物」とされてきた傾向に対して,本稿における分析は,生命保険を消費者に販売する際に,倫理的・理論的に有益な基盤を構築し得るものである。