抄録
フランスおよびベルギーでは,近時,保険契約法の諸規定と憲法や条約との抵触問題が生じ,複数の訴訟が提起されている。同様の問題はEUレベルでも生じている。フランスでは,近年,憲法改正により事後的な違憲審査制度が導入された。その結果,保険契約法の特定の規定についてまで違憲性が主張されるようになったが,憲法院への移送を認めた判決は見られない。他方,ベルギーでは,生命保険契約に関する規律が違憲であるとの判決が下され,保険契約法の改正を余儀なくされた。
また,フランスでは生命保険契約法の規定がヨーロッパ人権条約に違反するとの主張も行われたが,裁判所はこれを認めていない。
EUでは,司法裁判所判決の影響を受けて,保険契約において男女別料率の使用が禁止されるに至っている。その結果,合理的なリスク区分が不可能となっている。このように,男女平等原則が経済効率性に優先している。
保険制度は経済合理性という価値基準を基に構築されている。他方,法領域には,法の下の平等,差別禁止という価値基準が存在する。フランスやベルギーでは,裁判という場において,これらの価値基準が衝突している。このような状況が,わが国の法解釈論や立法論に直ちに影響を与えるものではないものの,国際化が急速に進む中で,今後は,保険取引においても各国の価値基準の差異に留意しなければならない場面が増えてくるであろう。