2019 年 2019 巻 645 号 p. 645_79-645_92
災害列島である我が国は,近年,過去に経験したことのないような大規模自然災害が発生している。東日本大震災以降も大規模な地震,洪水,土砂災害などが全国各地の広範な範囲で発生し,国民生活を脅かしている。
そのような大規模災害への備えとして,リスクを移転する有効な方法の一つに保険が存在する。国民全般に対して,住宅や自動車等について民間の損害保険が広く普及しているが,農業分野においては,特に農作物や家畜,農業施設に関し,政府は農業共済制度を実施し,これまで農家経営の安定や地域経済の維持に貢献してきた。
近年は,気象の変化及び作柄の変化により農業災害も多様化してきており,様々なリスクに対応した農業共済制度の改正や収入保険の新規導入などの法律改正が昨年行われた。今回の法律改正の目的は,農業者が農業保険を活用して,「備えあれば憂いなし」の農業生産体制を幅広く構築していこうとするものである。大規模災害が頻発する近年において,「備え」の仕組みや支援が拡充されても,全て出発点である農業者自身の「自助」に対する理解や取り組みなくしては何にもならない。本稿では,この農業経営分野でのリスクファイナンスの変化について,農業者の保険ニーズの変化も交えて紹介,検討を行う。