2019 年 2019 巻 647 号 p. 647_155-647_172
本稿は個人保険を念頭に置いて,保険のモデル空間(P=w×S)とその限界について考察したものである。その背景には人工知能等を用いたデータサイエンスにより,各人が自己の保険事故発生率と保険者の用いるそれとを比較可能な状況になるとの認識がある。
先ず,第一点は利用者の観点から保険商品のプライシングに対する利用者の不満や認識の差異である。これは事前に測定する集団の事故発生率を将来にわたって,個々の契約に対応する事故発生確率とすることに起因する。これを解消するには事前の事故発生率が事後の事故発生率の逆確率との差異が一定の許容範囲に収まっていることが必要であること示す。
第二点は,保険商品の不確定性等と金融商品の偶然性との相違について市場の完備性の有無の観点から考察する。即ち,保険市場の非完備性は契約者側と保険者側とにある情報の非対称性や逆選択によって,逆確率の収束先がもとの元の確率とはならないことによる。この点が金融市場の完備性とは異なっている。更に,保険の事故率は過去の観察から計算された平均であるため,将来の社会変化に耐えられないことを示す。
第三点は,保険の不確定性等が利用者により異なっていることに起因する利用者の不満を和らげる方策である。この手段はデータサイエンスの力を借りて,被保険体の異質化を進め,保険料率の細分化を図ることである。しかしながら,保険者はたえず,社会の変化,進展により,この細分化保険料率保険のモデル空間とその限界についてが適正であるか,検証しなければならない。このような限界を抱えている空間が保険空間の特色である。