保険学雑誌
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【査読済み論文】
琵琶湖の全循環停止リスクに対する環境リスクファイナンスの提案
久保 英也菊池 健太郎北澤 大輔吉田 毅郎
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2021 年 2021 巻 653 号 p. 653_1-653_30

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抄録

地球温暖化の進行に伴い,地震,台風など「自然災害リスク」の金融市場への移転は進んでいるが,同じ影響下にあるはずの「自然環境リスク」の移転はみられない。SDGsの推進や日本の大手保険会社が力を入れる地方創生活動の一環としても重要性が高い自然環境リスクの移転は,ニーズが潜在化していると共に個別性,地域性が強く,商品化の難易度が高いことが原因と考えられる。本稿では,水質と生態系を大きく毀損する琵琶湖の「全循環停止リスク」を取り上げ,自然環境リスクを金融市場に移転する環境リスクファイナンスのアプローチを具体的に示す。その核心であるリスク確率の推定法として,1溶存酸素量時系列変動モデルによりリスク評価される琵琶湖全循環停止オプションと2「流れ場・生態系結合数値モデル」と「気象変数確率モデル」との接合による推定法,の2つを提案する。前者は,調達額の制約はあるものの,ベーシスリスクの抑制と簡便さを,後者は琵琶湖に限定しない内外の湖沼や自然環境リスク全般を移転できる汎用性を有している。環境リスクファイナンスという分野と市場を立ち上げ,国内はもとより,アジアなど発展途上国の自然環境保護に対し資金面から支援していきたい。

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