2021 年 2021 巻 654 号 p. 654_1-654_21
本稿は,任意自動車責任保険の被保険者の故意による事故においては故意免責条項が適用されることにより自動車事故被害者の救済が行われなくなることに問題意識を持ち,これに対する対応策を検討するものである。自賠責保険においては被保険者の故意による事故についても被害者による保険者への直接請求が認められているが,任意自動車保険はあくまで加害者側が契約する保険であることから故意免責条項の適用により被害者救済がなされていない。しかし,加害者の悪性が高い場合にはむしろ被害者救済の必要性が高いと思われることから,任意自動車保険においても何らかの対応がなされるべきと考えられる。現行の約款においても,故意行為者以外に責任主体が存在する場合など,被害者救済が図られる場合があるが,全ての被害者救済の観点からは,約款上の制度変更が必要とされる。具体的には,自賠責方式の採用,故意免責条項の削除,サード・パーティ 型ノーフォルト自動車保険の採用などが考えられる。これらはいずれも不可能ではないが,もっとも実現性が高いのは自賠責方式の採用である。