2021 年 2021 巻 655 号 p. 655_31-655_53
本稿は,機関投資家の株主総会における投票行動につき機関投資家同士の繋がりやインセンティブがどのように影響しているかについていわゆるネットワーク理論を用いた分析を紹介し,若干の考察を加えたものである。コンドルセの陪審定理を株主総会の議決権行使の場面で適用した場合,機関投資家の協調行動があると,議決権行使コストは削減できるが,投票の独立性が損なわれるため正しい判断に至る可能性は低下する。機関投資家が協調行動を取ることは,機関投資家の利得・ペイオフを高めるものであり,このような協調行動を促進する役割がフォーマルなネットワークにおいて期待される。また,フォーマルなネットワーク等において機関投資家が共通する株式を保有した「クリーク」を形成している場合,協調によるコスト削減効果が正しい意思決定を行う確率を低下させることを補って余りある場合にのみ,「クリーク」のメンバーは協調することになる。