2022 年 2022 巻 657 号 p. 657_117-657_135
本稿は,巨大災害リスクに対する保険の役割について,社会のレジリエンスを向上させるという視点から,その政策的活用に向けた論点を既存研究をもとに整理する。巨大災害に対するプロテクション・ギャップの発生要因として,保険加入が進まないことを指摘し,その理由として保険料に起因する問題,リスク認知に関する問題,保険商品への理解不足といった問題を指摘する。他方で期待損失の軽減が進まないという問題について,その理由として,保険は一般的に期待されているほど事前対策のインセンティブとして機能していないことを示す。そして,こうした状況を改善する一つの方策として,リスク・ファイナンスに代わるレジリエンス・ファイナンスという新たな概念を提示する。