2022 年 2022 巻 657 号 p. 657_21-657_29
日本企業の直面する重大リスクの一つである地震リスクに対するリスク移転手段として,企業地震保険の活用が挙げられる。報告者の所属する三菱重工グループにおいても,グループ全社の保険プログラム統合を契機として2016年よりグループとして企業地震保険付保を開始している。一方で,リスク評価ならびに低減策の実行,最適なストラクチャーでの保険移転,残余リスクに対する自家保有という一連のリスクマネジメントプロセスの中で,企業地震保険のプログラムの設計や保険料の算出に用いられる地震リスク評価モデルへの依存,長期化しやすい保険金請求プロセス,グループ経営における事前対策の意思決定や防災投資に対するのインセンティブの与え方の難しさなど課題も多い。自然災害などの集積リスクやその最たる例である地震リスクについては,単純に大数の法則や固有リスクで語られる物保険と異なり,場所依存性があり経済合理性のある保険料水準で保険手配の困難なエリアも生じ得る。保険マーケットのみならず他の資本市場の活用,自家保有を含めた最適解を模索する必要のあるリスクであり,被保険者としても自社のリスク分析,また外部ナレッジ活用を通じ,適時適切に経営層の意思決定行い,来る大規模地震発生時に損害を最小化し,迅速に復旧を出来る体制を構築しなければならない。