2023 年 2023 巻 661 号 p. 661_81-661_96
家計保険では,保険契約者を配偶者の一方,保険金受取人を他の配偶者とする「第三者のためにする生命保険契約」が圧倒的に多い。「第三者のためにする生命保険契約」は,保険契約者と保険者との間は「補償関係」といわれ,それを基に第三者である保険金受取人は保険者に対して直接請求する権利を取得する。保険契約者と保険金受取人との間には,補償関係とは別な「対価関係」を要する。したがって,対価関係に瑕疵があったとしても補償関係には影響しない。保険契約者が不倫関係の維持継続を目的として保険金受取人に指定したときは,その指定が公序良俗に反し,対価関係は消滅する。本稿は,生命保険契約が継続中に,一方当事者の不倫行為によって夫婦の信頼関係が破綻しながら,保険契約者が受取人変更手続き未了の間に保険事故が発生したとき,補償関係があることから保険者は表示ある保険金受取人に支払えば足りると解される。しかし,保険契約者と保険金受取人との間の「対価関係」が消滅しているときは,保険契約者(その相続人)は,保険者から支払いを受けた保険金受取人に対して,不当利得返還請求をすることができると考える。