2023 年 2023 巻 663 号 p. 663_145-663_164
世界最初の保険数理の実務書とされる,1771年出版のプライスの『復帰支払の観察』で提示されている生保数理の体系は,現代の我々の眼からはそれほど整理されたものとは見えない。先ずは,この体系の一部が,プライス以前の年金数理の適用事例であるスコットランド教会寡婦年金ファンドの分析を基に,プライスが解明した原理を一般に分かりやすい簡便なものへ変換し提示しているものと思われることを論じる。そして,これに基づき,プライスの議論が当時の啓蒙思想の中心をなすニュートン主義の根幹の「方法」とされる「ニュートンの解析と総合に基づく数学的方法」を適用して展開されていると理解されうることを説明する。また,そのような生保数理体系を用い,『観察』では,実在の組合の不健全性を示すだけでなく,エクイタブルの新しい生命保険事業が,契約者間の公平性を保ちつつ効率的に事業が運営できるものであることも証明していることを指摘する。