保険学雑誌
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【一般論文】
アメリカ洪水保険制度の歴史的検討
—収用法理(takings doctrine)との関係を中心に—
嘉村 雄司
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2024 年 2024 巻 666 号 p. 666_21-666_45

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抄録

わが国の水害に関する保険制度の議論において,アメリカの洪水保険制度(NFIP)の仕組みが注目されてきた。もっとも,現状のNFIPは,その創設にあたって検討されていた氾濫原管理規制の目的を実現できているとはいえないと思われる。本稿では,その要因を明らかにするために,NFIPが依拠する氾濫原管理規制と収用法理(takings doctrine)との関係に着目した検討を行うこととしたい。連邦最高裁が提示した収用法理は,氾濫原の開発から生ずる便益を土地所有者に与えるのに対し,洪水リスクの費用を政府や納税者に転嫁する可能性がある。その結果,より多くの人々を危険な地域へと誘う逆インセンティブを生じさせることになり,土地所有者は自らが全費用を負担する場合よりも多くのリスクを取るようになるかもしれない。収用法理によってもたらされる効果は,NFIPが目指す方向性と相反するものであり,NFIPの依拠する氾濫原管理規制が有効に機能していない要因となっている可能性がある。

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