抄録
【目的】
歩行訓練初心者にとって、実環境での歩行における危険や恐怖心の軽減のために、仮想環境でのシミュレーション訓練を併用することは有効であると考えられる。筆者らは、3Dサウンドによる仮想音響環境を用いて、音源定位や障害物知覚などの「聴覚空間認知」の技能の獲得、および聴覚空間認知に基づき歩行する技能の修得を支援するための訓練システムを開発し、昨年の大会で報告した。今回は本システムの訓練効果の検証実験を実施したので結果を報告する。
【対象と方法】
実験においては、統制群、歩行訓練群、3D聴覚空間認知システム訓練群の3群において、訓練前後におけるSPR(Stress Pulse Ratio)を用いた、ストレス軽減効果の比較分析を行った。また、同様に、それぞれの群において、訓練前後において、DGPS(Differencial Global Positioning System)を用いた、歩行軌跡に関する量的分析の比較分析を行い、車の音を利用した直線歩行技能の上達の度合についても検証した。また、主観的歩行技能・歩行不安評価尺度についても、各群ごとに、訓練前後にその値を比較分析した。
【結果】
SPRについては、統制群と3D訓練群&歩行訓練群の間に有意な差が現れた。歩行軌跡については、統制群&歩行訓練群と3D訓練群の間に有意な差が現れた。主観的歩行技能・歩行不安評価尺度については、3D訓練群、歩行訓練群の両方において訓練前後で有意な差が現れた。
【結論】
3Dサウンド技術を用いた聴覚空間認知訓練システムを用いて訓練を行うことによって、ストレスが軽減し、歩行技能が上達するということが明らかになった。また、主観的な評価である、歩行技能・不安評価においても、有効性があることが明らかになった。
なお、本研究の一部は、厚生労働科学研究費補助金「3Dサウンドを利用した視覚障害者のための聴覚空間認知訓練システム(H15-感覚器-006)」の助成を受けた。