抄録
目的
我々は、ロービジョン者にエスカレーターの方向を見やすくするための汎用的で低価格な方法として、ハンドレールに貼付するバリアフリー・マーク(以下、BFマーク)を考案した(中野ら,2007)。本研究の目的は、このBFマークの有効性と課題を実機を用いてフィールドで検証することである。
方法
単独歩行が可能で、これまでBFマークを見た経験のないロービジョン者10名に対して、実機の設置してある駅において(1)視覚活用状況とエスカレーターの利用状況に関するインタビュー調査、(2)マークなしエスカレーター利用時の手がかりに関する調査、(3)マーク付きエスカレーター(図1)利用時の手がかりに関する調査を実施した。検証に用いたエスカレーターは合計4機で、いずれもデマケーションラインが4方向にある日立製であった。エスカレーターは2機ずつ併設されており、駅の通路とホーム間の移動に利用するものであった(2機はマークなし、2機はマーク)。研究参加者の課題は、各エスカレーターを利用し、何が手がかりになっているかプロトコル分析の手法で報告することであった。実験者は、参加者が特徴的なプロトコルを報告した距離を測定した。
結果
マークなしの場合、進行方向の判断には、デマケーションラインの動きを手がかりにしているというケースが多かった。マークありの場合、マークの存在に気づいた参加者と指摘されるまで気づかなかった参加者があった。マークの存在に気づいた参加者も、最初は、マークをどのように利用してよいかわからなかったが、1度、マークつきを利用すると利用方法がわかり、有効性を主張するようになった。主な課題として、マークの面積を広く、間隔を狭くし、メッセージを少なくすることが指摘された。
結論
実機を用いたフィールド調査の結果、BFマークが有効であることがわかった。ただし、マークの大きさや間隔については、検討の余地があることが明らかになった。