The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
Laser-Toning Treatment for Melasma by Using 1,064 nm (532 nm, 785 nm) Picosecond Laser
Nariaki Miyata
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2018 Volume 39 Issue 2 Pages 137-140

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Abstract

近年,肝斑に対して低出力QスイッチNd:YAGレーザーを用いたトーニング治療がおこなわれている.より発振パルス幅の短いピコ秒レーザーを用いたトーニング治療は,強力な光音響効果の影響などまだ未解明の部分も多いが肝斑に有効な治療法の一つであると考えられる.1,064 nm波長を主として用いるが,美容,rejuvenation目的での532 nm,785 nm波長複合照射は発展する可能性を秘めている.

1.  はじめに

肝斑の治療は内服,外用療法やイオン導入,スキンケア指導などがおこなわれている.いずれの方法も治癒するのではなくメラニン沈着亢進という機能を抑えるものであり,寛解増悪を繰り返すことも多い.近年まで肝斑に対して基本的にはレーザー治療は禁忌であるとされていた.しかし2008年,QスイッチNd:YAGレーザーを低出力,高頻度に複数回照射をおこなうことによって肝班が改善したという報告がなされた1).治療の是非に関しては現在でも異論はあるが,心理的に大きな問題である顔貌の色素沈着という病態の肝斑を積極的に改善するこの手法は広く受け入れられ,急激に普及してきた.

そしてここ数年,技術革新とともに数百ピコ秒で発振されるレーザーが登場してきた.

Qスイッチレーザーよりも短いパルス幅で発振される装置で,刺青のみならずメラニンを主とする色素性疾患に有効性が報告されており,肝斑に対しても有効なのか安全なのかは非常に興味が持たれるところである.

本稿では1,064 nm Nd:YAG波長ピコ秒レーザーでの肝斑に対するトーニング治療について述べるとともに532 nm,785 nm波長の様々な応用について,今まで得た臨床経験をもとに述べたい.

2.  使用器機の特性と照射方法

使用している機器は米国Syneron-Candela社製のPicowayTMである(Fig.1).Nd:YAGの1,064 nm波長を基本として,KTP非線形結晶による第2高調波である532 nmも発振する.パルス幅はそれぞれ450ピコ秒,375ピコ秒と市場に登場している機種の中で最も短いという特徴を持つ.これらの波長においてハンドピースの交換によるフラクショナル照射も可能である.さらに第3の波長としてチタンサファイアのロッドによる785 nm波長を300ピコ秒で発振するハンドピースも装着できる.

Fig.1 

3 wavelengths (1,064, 532, 785 nm) Picosecond laser (PicowayTM, Syneron-Candela, USA)

肝斑に対しては,まず洗顔,スキンケアの指導に始まり,トラネキサム酸の内服(750~1,500 mg/日)療法,ハイドロキノンやトレチノイン外用療法をおこなう.効果が認められない症例に対してピコ秒レーザーを用いたレーザートーニングを実施する方針としている.

治療には主に1,064 nmの波長を用いている.照射設定は6 mm照射径で0.6 J/cm2の照射密度を基本とする.これは通常の刺青や真皮メラノサイトーシス治療に用いられる照射設定(4 mm照射径で2.4~3.0 J/cm2)に対してかなり低出力である.8~10 Hzの発振頻度で肝斑顕在部を主に3~4パス程度,やや発赤が認められるのをエンドポイントとして照射をおこなう.

治療間隔は2~3週間を目安とし,8回程度繰り返す.肝斑の改善後は治療頻度を落とすか中止し,悪化の兆候が認められれば再度2~3週毎に頻度を上げて実施する.

また3波長を持つ特徴を利用した肝班を含む全顔照射治療もおこなっている.いわゆるrejuvenation目的の美容的な照射法に属するものである.常に3波長での照射をおこなう必要はなく,肝斑の有無など患者の状態によっては2波長を選択して実施する.

まず785 nmハンドピースを用いて2 mm径2.5~3.25 J/cm2の照射密度でスポット状に肝斑を除く色素斑を照射し,次いで1,064 nm波長で前述のレーザートーニングと同じ設定にて肝斑を含み全顔に照射,最後に532 nmフラクショナルハンドピース(製品名resolve)を0.3~0.4 J/cm2の照射密度で肝斑部を避けて主に鼻頬部に3パス照射する.1ヶ月以上の治療間隔で2~3回の照射をおこなう.この手法は肝斑の有無にかかわらず顔全体の色調や肌理,質感の改善目的でおこなわれる手法であるが,レーザー治療で生じうる痂皮を肉眼的には殆ど生じず,いわゆるレーザートーニングの美容目的での応用とも言える手法である.

3.  臨床経過

上記の2つの照射手法に関して,代表的な症例を示す.

3.1  症例1

44歳女性.現在まで様々な治療を実施するも肝斑の改善が見られず,PicowayTMによる1,064 nm波長のレーザートーニング治療を実施した.設定は6 mm照射径で0.6 J/cm2の照射密度で3パス照射した.なお,治療前からトラネキサム酸750 mg/日を内服,5%ハイドロキノン外用療法をおこなっており,これは治療中も継続した.2~3週毎5回治療後に肝斑は改善した(Fig.2).

Fig.2 

Case 1 Melasma of a 44-year-old female. (a) Before treatment. (b) One month after 5 times treatment by low fluence 1,064 nm picosecond laser.

3.2  症例2

40歳女性.肝斑を含め,顔全体の色調,肌理,質感の改善目的にてPicowayTMによる3波長での治療を実施した.照射出力は785 nmは2 mm径3.0 J/cm2にてスポット状に色素斑を照射,次いで1,064 nm 6 mm照射径で0.6 J/cm2にて肝斑を含み全顔に3パス照射,最後に532 nmフラクショナルハンドピースを0.3~0.4 J/cm2にて鼻頬部に3パス照射した.2回治療1ヶ月後,色調及び肌理の改善が認められた(Fig.3).

Fig.3 

Case 2 Melasma and solar lentigines of a 40-year-old female. (a) Before treatment. (b) One month after second treatment by 3 wavelengths irradiation of picosecond laser.

4.  ピコ秒レーザーによるトーニングの理論

近年盛んになったQスイッチレーザー低出力照射によるレーザートーニングには1,064 nm波長が主に用いられる.これは他の波長(ルビーやアレキサンドライトなどの短波長)に比較するとメラニンへの吸収がありながらも表皮へのダメージが少ない,肌色調の濃いスキンタイプでも安全に照射することができるということから選択されている2).筆者の経験でもアレキサンドライト波長を低出力で照射すると肝斑が増悪する確率が高いと感じる3)

ピコ秒レーザーにおいても光吸収率を考慮した治療が基本となるため,1,064 nmの波長を選択する方がより安全であるのは言うまでもない.

ではピコ秒レーザーと従来のQスイッチレーザーではどちらの方がトーニング治療に適しているのかについては,まだ明確な結論はない.そもそも肝斑に対するレーザートーニング治療は,QスイッチNd:YAGレーザーの低出力照射によってメラノサイトを破壊することなくその機能・活動性を低下させることが主たる作用機序とされている4,5).Omiらは高出力での照射は光音響効果・光機械作用がメラノサイトに大きな組織傷害を与える可能性を示唆している6).より短パルス発振時間であるピコ秒レーザーはQスイッチレーザーと比較すると光音響効果が非常に強いので,メラノサイトへのダメージは強く生じる可能性がある.つまり色素失調や色調の増悪である.しかし一方で組織学的にピコ秒レーザーの通常出力照射での表皮内空胞化はより微細であり,限局された領域に生じ,周囲へのダメージを生じにくい.このことにより炎症反応が生じにくいとされている7,8).葛西はピコ秒レーザーの刺青粒子に対する理論特性として「応力閉じ込め」による粒子内での粉砕を述べている9)が,刺青粒子よりサイズの大きな表皮内のメラニンにおいてこれを当てはめると,トーニング治療で発生した衝撃波は結果として周囲に波及せず,低出力で破壊を伴わないレベルであれば,より安全に効果的な治療が出来ると考えられる.

実際に自験例においても,従来のQスイッチNd:YAGレーザーでのトーニング治療に比較してピコ秒レーザーでのトーニング治療は,改善に至る回数が少なく,色素脱出なども認められていない.

5.  ピコ秒レーザーによるトーニングの安全性について

上述のようにピコ秒レーザーによるトーニング治療はより効果的である可能性が高いと考えるが,そもそもトーニングは手法自体が高Hzでの繰り返しかつフリーハンドでの照射という非常に曖昧な,厳密なコントロールが出来ない手法であるため,経験に依存し,予期せぬトラブルも生じ得るものである.将来においても安全な手法として確立されていく可能性は低いと考える.レーザー脱毛のように誰もが簡単に実施できるような商業的手法とはなり得ない.

従来から報告されている色素脱出や色素増悪などの様々な合併症10,11)は起こりえる.

肝斑に対するレーザートーニング治療は病態としての肝斑を治癒させるものではなく,あくまで一時的な軽快を得るための治療法である.つまり患者のQOLの向上を図るものであり,「cure」ではなく「care」のための治療となる.このために治療法の是非について賛否両論あるのは仕方がないと考える.

6.  今後の展望

現在,肝斑に対するトーニング治療は主として低出力QスイッチNd:YAGレーザー照射によっておこなわれているが,それ以外の波長においても肝斑への有効性が報告されている12).その安全性などは更なる議論を要するが,肝斑以外の状態に対しては美容的にトーニングの手法を応用したノーダウンタイムのピコ秒レーザー治療も報告されている13).本稿で述べた複数波長を用いたrejuvenation目的の美容的な照射法もその一つであり,肝斑という限られた疾患にとどまらない様々なトーニング治療の応用が期待される.但し,基礎研究のない臨床による評価のみでは科学的根拠にかける14).今後の大きな課題となるであろう.そしてピコ秒レーザーは元来刺青の治療機器として開発されたもの15)である性質上,肝斑をはじめとするメラニン色素性疾患に最適な条件で設計はされていない.複数波長も多色の入れ墨治療に有効となるべく開発されており16),アジア圏においてより安全にピコ秒レーザーを用いるためには,低出力での安定性や至適なパルス幅などまだまだ検討する余地は残されている.

7.  おわりに

ピコ秒レーザーによるトーニング治療はまだはじまったばかりであり,その効果や安全性などまだまだ未解明であるが,有効性が高いと期待される.適応を選び,慎重に治療を実施していくとともに基礎的研究が積み上げられていくことが必要である.

利益相反の開示

講演料:シネロンキャンデラ社

参考文献
 
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