The Journal of Japan Society for Laser Surgery and Medicine
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REVIEW ARTICLE
Benefits and Risks of Low-Fluence Picosecond Alexandrite Laser Treatment
Kenichiro Kasai
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2018 Volume 39 Issue 2 Pages 131-136

Details
Abstract

近年相次いで上市されたピコ秒レーザーをダウンタイムのない程度の低フルエンスで照射した場合の効果と問題点について解明する目的で,筆者の施設で同治療を施行した217名の患者の全数調査を行った.ピコ秒アレキサンドライトレーザーPicoSure®を用いて同一術者が同じ規準で照射した.治療前に毎回撮影している写真を評価した.その結果本治療は,雀卵斑には著効,老人斑には有効,肝斑には無効であるだけでなく5%以上に増悪が認められ,危険であることが判明した.

1.  はじめに

皮膚レーザー治療の世界では,超短パルス(5~80 ns)のQスイッチレーザーの実用化により,表皮・真皮色素性病変及び刺青が選択的に除去できるようになったことは非常に画期的なことであった.このパルス幅をさらに短縮して1 ns未満のピコ秒オーダーにしたらどんな臨床効果が得られるかという点について,以前から興味がもたれていた1)が,長い間製品としては実用化しなかった.最近になって,ピコ秒アレキサンドライトレーザーとピコ秒Nd:YAGレーザーが相次いで上市され,まず,刺青治療には非常に有効である2-5)ことが報告された.本邦でも,刺青の治療ばかりでなく,表皮・真皮の色素性病変に有効であることが明らかになってきている6-8).ただし,以上の事実は比較的高フルエンスで照射した「ダウンタイムあり」の治療として行った場合のことであり,比較的低フルエンスで「ダウンタイムなし」の治療として行った場合の効果については,まだしっかりとした報告がない.一方,旧来のナノ秒QスイッチNd:YAGレーザーを比較的低フルエンスで照射する方法を「レーザートーニング」と呼び,老人斑や雀卵斑などの表皮色素性病変だけでなく肝斑にも有効であるという報告9-12)が多く出てきているが,肝斑増悪や難治性白斑形成の可能性があり危険だとする報告13-20)もあり,真の適応について決着はついていない.こんどは,ピコ秒レーザーを低フルエンスで照射した場合の効果については,まだあまり報告が出ていないにもかかわらず,期待が先行して市中ではどんどん実際の患者に施行されている状態である.低フルエンスピコ秒レーザー治療をピコトーニングと呼ぶべきかどうかは別として,この治療の効果について報告してみたい.

2.  方法

筆者は2014年1月よりピコ秒アレキサンドライトレーザーPicoSure®(Cynosure, Inc.,米国)を,2015年8月よりピコ秒Nd:YAGレーザーPicoWay®(Syneron-Candela Inc.,米国)を導入して,主に刺青治療に用いていた.2015年11月よりPicoSure®を用いた美容目的の低フルエンス治療を開始した.PicoWay®を用いた美容治療も試みてはいるが,いくつかの問題があり21),実際の患者に治療は行っていない.問題とは,1,064 nmでは真皮内出血が生じて1週間以上皮膚が赤くなってしまうのでどうしてもダウンタイムが生じてしまうことと,532 nmではメラニンの吸収が良すぎて表皮表層にメラニンがあると多くのレーザー光がそこで吸収されるために表皮深層や真皮に届かなくなる点である.

実際のPicoSure®照射法は以下の通りである.特に前処置は行わない.麻酔は施行しない.照射時間幅は750 psを用いる.まずφ3.2 mm(2.49 J/cm2)で,目につく老人斑や雀卵斑をねらって照射する(50~300 shots).次にφ8 mm(0.4 J/cm2)で顔面皮膚全体をまんべんなく照射する(700~1,200 shots).最後に,レーザー光を多数の点状に収束させるfocus lensをつけてφ8 mm(0.4 J/cm2)で,顔面皮膚全体を照射する(700~1,500 shots).術後30分ほどアイスパックで冷却してから帰宅させる.特に後療法は行わない.エンドポイントとしては,顔全体がごくわずかに赤くなる程度としている.顔面のどこかに皮膚炎・ヘルペスなどがある場合には照射を行わない.治療間隔は最低1ヶ月以上とし,2ヶ月間隔を推奨する.治療回数に上限はもうけない.前回治療により肝斑増悪や炎症後色素沈着(PIH)が残っている場合にはその部分には照射しない.全例治療前に写真撮影する.

今回の調査では,「〇〇回以上照射を行った症例」とか「〇〇ヶ月以上フォローできた症例」などの条件を付けずに,1回でも照射を行った症例217名すべてを母集団に含めることにした.条件をつけることによって,結果が悪くて脱落した患者や他院へ移った患者を除外して,表面上の治療成績が良くなるのを防ぐためである.撮影した写真は1枚ごとに「老人斑:SK」・「雀卵斑:FL」・「後天性真皮メラノサイトーシス:ADM」・「炎症後色素沈着:PIH」・「肝斑:ML」がどの程度みられるか,5段階で評価した(Table 1).評価は写真1枚につき2回行い,2回の評価が異なった場合にはさらに慎重に評価をやり直した.患者の来院間隔がすべて同じではないので,治療から評価までの期間は一定ではない.

Table 1  Evaluation of each kind of lesions (Grades)
Severe Grade 4
Moderate Grade 3
Light Grade 2
Faint Grade 1
None Grade 0

3.  結果

結果のまとめを示す(Table 2).

Table 2 

Summary of the photographic evaluation

FL (22/217 patients) Average treatment: 3.8 times
+2 grade improvement 5 patients
+1 grade improvement 8 patients
0 grade improvement 4 patients
Lost to follow-up 5 patients
SK (210/217 patients) Average treatment: 4.6 times
+2 grade improvement 32 patients
+1 grade improvement 81 patients
0 grade improvement 56 patients
Lost to follow-up 41 patients
ADM (2/217 patients)
PIH (1/217 patients)
ML (65/217 patients) Average treatment: 4.3 times
Improvement 7 patients (6 with TRX)
No change 30 patients (All with TRX)
Worsened 21 patients (9 recovered with TRX)(12 no recovery observed)
Lost to follow-up 5 patients

TRX: Oral tranexamic acid administration

3.1  老人斑:SK

217名中210名に何らかの程度のSKを認めた.治療によって改善を認めたのは113名(1段階改善81名,2段階改善32名),改善を認めなかったのは56名であった.写真が1回以下で比較できないもの56名.経過中SKが悪化した者はいなかった.

3.2  雀卵斑:FL

217名中22名に何らかの程度のFLを認めた.治療によって改善を認めたのは13名(1段階改善8名,2段階改善5名),改善を認めなかったのは4名であった.写真が1回以下で比較できないもの5名.経過中FLが悪化した者はいなかった.

3.3  後天性真皮メラノサイトーシス:ADM

217名中2名に何らかの程度のADMを認めた.

3.4  炎症後色素沈着:PIH

217名中1名にPIHを認めた.

3.5  肝斑:ML

217名中65名に経過中何らかの程度のMLを認めた.経過中のMLの程度が変らなかったもの30名(全員初めからトラネキサム酸内服を併用),MLが悪化した者21名(うち9名はトラネキサム酸内服により戻ったが,12名は改善を確認できていない),MLが改善した者7名(6名は初めからトラネキサム酸内服を併用),経過不明5名であった.

4.  症例

(1)症例1.63歳女性.頬部を中心に多発性老人斑を認める.SK:3と判断した(Fig.1a).13ヶ月の間に8回治療し2ヶ月後,かなり改善した.SK:1と判断した(Fig.1b).

Fig.1 

Case 1. (a) Before treatment (SK:3). (b) 2 months after 8 treatment (SK:1).

(2)症例2.37歳女性.頬部に大小不同の色素斑が多発し(SK:3),頬部外側・眼瞼・鼻などに1~2 mmの小色素斑が認められる(FL:3).SKとFLの合併と判断した(Fig.2a).22ヶ月の間に6回治療し5ヶ月後,SK・FLともにかなり改善した.SK:1,FL:1と判定した(Fig.2b).

Fig.2 

Case 2. (a) Before treatment (SK:3, FL:3). (b) 5 months after 7 treatment (SK:1, FL:1).

(3)症例3.30歳女性.鼻・頬・眼瞼を中心に小色素斑が多発し(FL:4),右頬部にやや大きな色素斑を認める(SK:3).FLとSKの合併と判断した(Fig.3a).1回治療後1ヶ月,FL・SKともにかなり改善した.FL:2,SK:2と判断した(Fig.2b).

Fig.3 

Case 3. (a) Before treatment (FL:4, SK:3). (b) One month after one treatment (FL:2, SK:2).

(4)症例4.40歳女性.頬部を中心に多数SKを認める(SK:3).この時点で肝斑は認めない(ML:0).SK単独の症例と判断した(Fig.4a).2回治療後5ヶ月,SKは若干の改善を得たが,頬骨部に肝斑が発生した(ML:2).レーザーによる肝斑の発生と判断した(Fig.4b).トラネキサム酸内服を開始し,9ヶ月後,肝斑は軽快傾向にある(Fig.4c).

Fig.4 

Case 4. (a) Before treatment (SK:3, ML:0). (b) Five months after 2 treatment, melasma developed (SK:2, ML:2). (c) Nine months after oral tranexamic acid administration with 2 laser treatment, melasma improved (SK:2, ML:1).

(5)症例5.41歳女性.頬部を中心に大小不同の多発SKを認める(SK:3).眼瞼・鼻・上口唇にわずかに小色素斑を認め雀卵斑の合併と判断した(FL:2).この時点で肝斑は認めない(ML:0).9ヶ月の間に7回治療後1ヶ月,老人斑と雀卵斑は改善を得たが,頬部とくに眼窩縁に肝斑が発生した(Fig.5b).レーザーは中止せずに,トラネキサム酸内服を併用することにした.その後5ヶ月(レーザー2回治療)後,肝斑は軽快した(Fig.5c).

Fig.5 

Case 5. (a) Before treatment (SK:3, FL:2, ML:0). (b) One month after 7 treatment, melasma developed (SK:1, FL:1, ML:2). (c) Five months after oral tranexamic acid administration with 2 laser treatment, melasma improved (SK:1, FL:1, ML:0).

5.  考察

近年相次いで上市されたピコ秒レーザーは,刺青除去に関しては,これまでのナノ秒Qスイッチレーザーを上回る効果があることが明らかになってきた2-8).表皮・真皮色素性病変にもかなり有効であると言われる6,7).ただし,これらの結果は,比較的高フルエンスで照射した場合の効果であり,照射部位には何らかの傷ができ,治癒するまで1~2週間かかる「ダウンタイムあり」の治療によるものである.

一方で,元来高フルエンス照射で刺青などを除去することを目的に開発されたナノ秒Qスイッチレーザー(特に,1,064 nmのQスイッチNd:YAGレーザー)を皮膚に傷ができない程度の低フルエンスで繰り返し照射することによって,これまでレーザー禁忌とされてきた肝斑にも効果があるという報告9-12)がある.ところが,この方法には,肝斑増悪や難治性白斑形成といった重大な副作用がある13-17,22)ばかりでなく,治療として本質的に特別な意味はないのではないかという疑問18-20,23)が示されるようになってきた.筆者は後者の立場であり,「レーザートーニング」は単に低フルエンス照射にすぎず,弱い照射効果を与えるだけで何も特別なものではないから,「トーニング」と言う特別な呼称を使うこと自体誤解を招く危険があるので好ましくないと考えている.「レーザートーニング」が開始されてから約20年たった今でも,メラノサイトを破壊せずに一部のメラノゾームを破壊しているということ以外に,何ら肝斑の病態を改善する特別な作用機序は発見されていない.また,効果があったとされる臨床写真を見ると,多発老人斑を肝斑と誤診して,それが改善したので肝斑に効果があったとする論文が多い.初期の論文9)でも,治療により改善した肝斑は全例が再発したと記載されている.

さて,近年相次いで上市されたピコ秒レーザーを,ダウンタイムができない程度に低フルエンスで用いたらどうなのかという点が,興味あるところであろう.この点に関しては,まだ論文もあまり出ていない現状にもかかわらず,「ピコトーニング」などの名称で流行させようという流れがあるのが気がかりである.低フルエンスピコ秒レーザー治療の効果・限界・危険について,正しく報告する必要があると考え,当院での治療結果をできるだけありのままに報告することにした.

まず,雀卵斑(FL)についてであるが,対象者は22名と少なかったが,13名で改善(2段階改善5名,1段階改善8名)と,改善度は高かった.平均治療回数は3.8回と,少ない治療回数で改善が得られていた.雀卵斑はある意味先天性疾患であり,完治して2度と出なくすることは不可能であるから,患者の負担を少なく症状改善することが重要となる.その意味で,この治療の良い適応となると考えられる.

次に,老人斑(SK)についてであるが,当院での治療において,最も多い治療対象であった.その中で210名中113名と半数以上で改善を確認できたが,平均治療回数は4.6回であった.改善率は比較的良好であるが,治療回数がやや多くなる傾向がある.これは老人斑にもいろいろな厚さのものがあり,薄いものは少ない回数で取れるが厚いものは回数がかかるということであろう.筆者は現在でも「このシミをきっちり取りたい」という場合には,ピコ秒レーザーではなくナノ秒Qスイッチルビーレーザーを用いた「ダウンタイムあり」の治療をすすめている.どうしてもダウンタイムを嫌う患者や非常に多くの病変が多発している患者にこの治療の適応があると考えられる.

後天性メラノサイトーシス(ADM)と炎症後色素沈着(PIH)に対しての治療効果は,今回症例数が少なかったため,考察は省略する.

さて肝斑(ML)について検討しよう.今回の調査では改善したのは65名中7名(6名が初めからトラネキサム酸内服を併用)と少なかった.不変が30名と半数を占めた(全員トラネキサム酸内服を併用).ところが,21名で悪化または肝斑の新規発生を認めた.全母集団が217名であることから,少なくとも5%を超える(10%近い)高比率である.この21名中9名ではトラネキサム酸内服により再び改善傾向が得られたので大事には至っていないが,残りの12名では改善が確認できていない.1例で小さな白斑の発生を確認し,本治療を永久に中止している.筆者は必ず1ヶ月以上の治療間隔を置くようにしているので肝斑の増悪に気が付きやすいのだろう.事実,増悪患者は全員,レーザー後1ヶ月くらいから急速に肝斑が濃くなってきたと訴えている.間隔を1ヶ月未満にすれば増悪が表面化する前に照射することになるので気が付かずに治療を繰り返すことになる.以上より,低フルエンスピコ秒アレキサンドライトレーザー治療は,低フルエンスQスイッチNd:YAGレーザー治療と同様に,肝斑に対する一時的な色調軽減効果はあっても治療としての本質的な効果はなく,肝斑増悪・白斑形成の危険があると考えられる.また,肝斑増悪の副作用に気付くために,治療間隔を必ず1ヶ月以上あけることが重要であると考えられる.レーザーにより増悪した肝斑にも,トラネキサム酸内服が有効である可能性が高い.本治療により一部肝斑増悪や肝斑発生が見られた場合には,直ちにトラネキサム酸の内服を開始すべきである.その場合に本治療を必ずしも完全に中止すべきとは言えないが,少なくとも増悪部位には照射しないなどの配慮を行うべきである.

今回の調査は全例調査であり,全患者の平均治療回数は4.6回であった.筆者は患者に「○回治療を受けなさい」と言っていないし,回数による費用の割引なども行っていない現状で,治療し始めの患者を含めた中で平均4.6回という数字は,かなり多いものと思われる.筆者のこれまでの経験した「ノーダウンタイム施術」の中でも,最もリピート率が高く,好評であると言える.この点,患者の満足度は高いと想像される.患者の満足度が,必ずしも臨床効果に比例するものではないが,ひとつの指標にはなると思われる.もちろん,筆者の施術も,患者の皮膚と病変の状態に応じて,当て方や重ね具合を微妙に変化させているわけで,全員に一律に同じ当て方をしているわけではない.そうすると,初期の当て方と現在の当て方は少し異なってきている可能性もあり,それを治療回数という単一の物差しで評価している点には問題がある.しかし,ほかに良い評価法もない.写真から各病変の状態を評価する方法についても議論はあるだろう.病変の種類と程度を正確に記載する必要がある観点から,今回はこういう方法を用いたが,改良の余地はあるだろう.ともかく,当院で1回でも治療を行った患者217名の結果について,報告することはできたと考えている.

6.  結論

今回の結果として,低フルエンスピコ秒アレキサンドライトレーザー治療は,雀卵斑に著効を示し,老人斑に有効であるが,肝斑の発生・増悪の危険がある.肝斑の増悪は予測するのが難しいので,1ヶ月以上できれば2ヶ月間隔を開けて治療することが望ましい.そうすれば肝斑増悪を早期に発見できるので大事に至らずに対応できるであろう.もちろん,肝斑治療目的で本法を施行するというのは論外である.いずれにしても各種シミ病変を適確に診断することが基本的に何よりも大切である.

利益相反の開示

利益相反なし

参考文献
 
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